土星探査機カッシーニは今年4月、土星の環をくぐりぬけて、土星本体への接近探査を行うミッションを成功させた。このミッションによって、これまで知られていなかった土星の詳細なデータが得られているが、そのことでかえって土星についての謎が深まる状況も生まれている。

土星の磁場の発生メカニズムも研究者を悩ませている謎のひとつである。

土星の磁場が太陽風と相互作用して極地域に紫外線のオーロラを発生させている(画像:NASA)

太陽系の惑星の多くが、固有の磁場をもっていることが確認されている。固有磁場をもっていない惑星は金星と火星だけであり、それ以外の惑星はみな固有磁場をもっている。また火星についても、過去には固有磁場をもっていた時期があったことを示唆する残留磁化の存在が確認されている。

惑星が固有磁場をもつ仕組みを説明する理論として、ダイナモ理論がある。ダイナモ理論では、惑星の核を構成している導電性の流体の流動によって電流が生じ、この電流によって磁場が形成されるとする。惑星内部の導電性流体は、地球の核においては溶融した鉄やニッケル、木星や土星などの巨大ガス惑星では液体の金属水素であると考えられている。

ダイナモ理論で実際に惑星の固有磁場の形成を計算しようとすると、粘性流体の運動方程式と電磁気学の方程式を同時に解くことになる。これは非常に複雑な非線形の方程式になるため、解くことは容易でないが、最近ではスパコンの利用によって地球磁場の形成などがかなり詳細にシミュレーションできるようになっている。

ここで惑星を巨大な磁石とみなし、N極・S極の方向を決めている棒磁石が惑星中心に刺さっていると想定する。この棒磁石の方向を磁軸(または磁気双極子軸)という。

地球の磁軸は、自転軸に対しておよそ11°傾いている。木星の場合、その傾きはおよそ9.6°である。天王星と海王星ではもっとズレが大きく、天王星で59°、海王星で47°の傾きがあるとされている。このように、惑星の磁軸と自転軸は、一般的には一致しないことが知られている。

これに対して、土星の磁軸だけが、自転軸の方向とほぼ一致していることが以前から注目されていた。

惑星内部の流体の運動には、熱による対流に加えて、惑星の自転運動も影響する。このため、惑星の固有磁場は惑星の自転運動とも関係があるといえるが、磁軸の方向はさまざまな要因が相互に影響しあって決まるため、自転軸には揃わないほうが普通であると考えられる。

またこれまでの研究では、惑星内部の導電性流体に電流が持続的に流れつづけるためには、磁軸と自転軸の方向にいくらかの傾きが必要であるとも考えられている。磁軸と自転軸が完全に一致している場合、電流は弱まっていき、最終的には固有磁場が消滅するとみられている。

このため、土星についても磁軸と自転軸にはわずかな傾きがあると考えられ、研究者のあいだでその値は少なくとも0.06°よりは大きいはずであると予想されていた。

しかし、カッシーニの磁力計によるデータ収集ミッションを主導しているインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)物理学教授Michele Dougherty氏によると、土星の磁軸と自転軸は驚くほどよく一致しており、磁軸の傾きは0.06°という下限予想値をさらに下回っていることがわかったという。

土星は厚いガスの層に覆われているため、土星の1日の長さ(自転周期)についてもいまだによくわかっていない。磁軸と自転軸の傾きの正確な値を計測することによって、自転周期の問題も解決できると期待されているが、こちらも当面は謎として残ることになる。

磁力計のデータは今後、土星の重力場の測定データとも照らし合わせながら検証されることになるが、重力データに関する初期段階の分析についても、土星の主要な内部モデルと一部食い違う部分が出てきているという。これらは、土星の内部構造に関して予想外の未発見事実があることを示唆している。

土星の内部磁場については、厚いガス層によってその特徴の一部が隠されてしまっている可能性もある。カッシーニは今年9月に土星の大気圏に突入し、すべての探査活動を終えることになっているが、研究チームは残されたミッション時間を使ってデータの収集と分析を続けていくとしている。