国立天文台は3月4日、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」を用いた観測で、約120億光年かなたの宇宙に、銀河団の祖先「原始銀河団」を200個近く発見したと発表した。
同成果は、国立天文台の柏川伸成氏、東京大学宇宙線研究所、総合研究大学院大学らの研究グループによるもの。詳細は日本天文学会欧文研究報告「HSC特集号」に掲載された。
宇宙には渦巻銀河や楕円銀河などの多種多様な銀河が存在している。現在の宇宙では、数十個以上の銀河が密集する銀河団のような領域には、年老いた重い楕円銀河が多く存在する一方で、銀河があまり存在しない領域には、活発に星形成をしている若い渦巻銀河が多く見られる。このような銀河とその環境の関係はいつ、どのように生まれたのかは、大きな謎の1つだ。
環境が銀河進化に与える影響を解明するためには、銀河・銀河団がまさに成長しつつある過去の姿を遠方宇宙の原始銀河団の観測を通して直接調べることが重要だ。しかし、遠方宇宙に存在する原始銀河団の発見は困難だ。実際、これまでに遠方宇宙で見つかっていた原始銀河団は20個に届かない程度だった。
遠方宇宙での銀河進化に影響を及ぼす環境効果の理解のためには、まずは原始銀河団の大規模なサンプルを構築する必要がある。そこで研究グループは、すばる望遠鏡に搭載されたHSCを用いて、遠方宇宙における原始銀河団の探査を行った。
探査の結果、研究グループは約120億年前の宇宙に原始銀河団を200個近く発見し、しかもそれらが不均一に分布することを明らかにした。従来の研究に比べ約10倍の発見数で、原始銀河団の統計的な研究を遠方宇宙においても可能にさせる成果だとしている。
さらに研究グループは、HSCの観測で得られたこの原始銀河団の大規模サンプルを使って、原始銀河団とクェーサーとの関係についても調査した。
これらの原始銀河団の質量を測定した結果は、その後成長して現在の銀河団になるという仮説とうまく一致するものであった。さらに、これらの原始銀河団領域中にはクェーサーがほとんど存在しないことから、銀河同士の合体がクェーサー活動を引き起こすという従来の仮説に大きな疑問を呈する結果も得られたという。
なお、今回の成果を受けて研究グループは、同成果により、原始銀河団中では単体ではなく複数の超巨大ブラックホールが同時に活動的になりやすいという新たな可能性を得られたとしている。