早稲田大学は、陽子線の照射によって体内の原子核で起こるミクロな物理現象をCCDカメラで捉えて可視化する手法を確立したと発表した。同手法により、従来手法の数十倍も高い空間分解能と感度を達成することができたということだ。

  • 国立がん研究センター東病院の陽子線・PET装置

    国立がん研究センター東病院の陽子線・PET装置

同研究は、早稲田大学理工学術院の片岡淳教授らの研究チームと、東京女子医科大学、京都府立医科大学、量子科学技術研究開発機構、名古屋陽子線治療センター、名古屋大学との共同研究によるもので、同研究成果は、2月7日に英国Nature Publish Groupのオンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

放射線を用いたガン治療は、患者の負担を低減することができる治療法となっている。特に、陽子線と呼ばれる放射線は止まる直前にエネルギーを一気に解放する性質を持つため、体の奥深くのガンにもダメージを集中させることができる。ガンに対して的確な照射を行えたかどうか逐一確認することが理想的だが、陽子線がどのように体内を進み、どの組織にどれだけのダメージを与えたかを直接目で視ることはできない。そこで、陽子線が体内の原子核に衝突した際に生成される「陽電子放出核種」と呼ばれる特殊な原子核の生成分布をPET装置で捉えることで、陽子線の進路を可視化することが考えられるが、医療に求められる精度でPET計測をシミュレーションすることは困難だった。

  • 陽電子放出核種の生成機構と反応の模式図

    陽電子放出核種の生成機構と反応の模式図

通常、PET装置は2本の対消滅ガンマ線を同時に計測することで陽電子放出核種の画像化を行うが、同研究では核反応の発生頻度をより詳細に調べるため、陽電子の飛跡に沿って生じるチェレンコフ光に着目。測定したいターゲットに陽子線を照射し、側方に置いたCCDカメラで光を捉えるという非常にシンプルな実験系で、PET画像の数十倍も高い空間分解能と感度を達成することができた。この結果を用いることで、陽子線照射中に体内で生じるミクロな物理現象を正確に再現できるようになったということだ。

同研究で得られた成果はPET装置の持つポテンシャルを最大限に引き出す鍵となっており、「放射線を視ながらガンを治す」次世代の陽子線治療を実現する上で重要な役割を担う。また、同手法を用いることで、基礎物理学の研究で標準的に用いられるデータベースの大幅な精度向上も期待できるという。今後は、同研究成果を米国立核データセンター(NNDC)のライブラリに登録するための手続きを行う予定だということだ。