京都大学(京大)、関西学院大学(関学)、日本原子力研究開発機構(JAEA)の3者は4月27日、フェムト秒レーザーを用いた「光加圧」により、従来の物理的な高圧処理(平衡状態)では到達困難なシリカガラスの「新たな非平衡物質相」を創出することに成功し、放射光X線回折と機械学習分子動力学シミュレーションにより、レーザー照射部では原子ネットワークの「切断」を伴う、1000~1400℃という高い「仮想温度」状態が凍結されていることを解明したと共同で発表した。

  • シリカガラスの中距離構造のサイズや秩序の変化

    X線構造解析により求められた、シリカガラスの中距離構造のサイズ(コヒーレンス長)や秩序(周期的ゆらぎ)の変化。光加圧により、未処理のガラス構造は高圧処理後の構造に近づくが、高圧処理後に光加圧すると、構造が元に戻る可逆的な変化が確認された。(作成:下間靖彦)(出所:JAEA Webサイト)

同成果は、京大大学院 工学研究科の下間靖彦准教授、関学 理学部の河野義生教授、JAEA システム計算科学センターの小林恵太 研究副主幹らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学を扱うオープンアクセスジャーナル「NPG Asia Materials」に掲載された。

高圧処理とは異なる特異な原子構造と発光特性を解明

二酸化ケイ素を主成分とする「シリカガラス」は、光ファイバーやレンズなど、現代社会を支える基幹部品の材料だ。ただし、その原子配置はアモルファス(不規則)であり、構造と性質の関係には未解明の部分が多く残されている。

例えば、物質は通常、温度が上がると膨張するが、シリカガラスは特定の温度域で、温度が上がると密度が増す「仮想温度異常」という特異な性質を持つ。仮想温度とは、ガラスの原子配列がどの温度で凍結されたかを示す指標で、シリカガラスでは仮想温度が高いほど体積が小さくなり、密度が高くなることが知られている。

これまで、ガラスの性質を変えるには“熱”や“外部からの圧力”を加えるのが一般的だった。しかし、これらは材料全体に影響を与えてしまうため、特定の場所だけの性質を精密に制御することは困難だった。そうした中で研究チームが注目してきたのが、1000兆分の1秒という極めて短い時間だけパルスレーザーを放つ「フェムト秒レーザー」をガラス内部に集光し、局所的に数万気圧に匹敵する圧力を発生させる「光加圧」という手法だ。

しかし、光加圧が物理的な外部からの加圧と原子レベルでどう異なるのかは、これまで未解明だったとする。そこで今回の研究では、大型放射光施設SPring-8での高輝度X線回折実験と、最新の「機械学習分子動力学シミュレーション」を駆使し、高圧処理とレーザー照射によるガラスの構造変化を徹底的に比較したという。

今回の研究の結果、主に3つの知見が得られたとする。まず、レーザー照射によって、シリカガラス内の局所領域に2~4GPaの応力を発生でき、レーザー条件で制御可能であることが確認された。そしてレーザー照射により、高仮想温度(1000~1400℃)のガラス構造が凍結されていることが明らかにされた。

  • 光加圧により局所的に発生する圧力変化と、高圧処理と光加圧によるシリカガラスの仮想温度

    (左)光加圧により局所的に発生する圧力変化。(右)ラマンスペクトル変化から求められた高圧処理と光加圧によるシリカガラスの仮想温度。(出所:京大プレスリリースPDF)

通常の高圧処理では、原子のネットワーク(SiO4四面体)が隙間を埋めるように「立体的な配置換え」を起こして緻密化する。一方、レーザー照射では、光のエネルギーにより原子の結合が一度“切断”され、より小さなリング状の構造(3員環や4員環構造など)へと“組み替えられる”ことで、高圧処理とは異なる緻密化状態(新たな非平衡相)が形成されることが突き止められた。

  • シリカガラスのラマンスペクトル変化

    高圧処理と光加圧によるシリカガラスのラマンスペクトル変化。どちらもガラスの構造は緻密化されるが、SiO4四面体のネットワーク構造に違いが見られる。(出所:京大プレスリリースPDF)

そして構造解析の結果、高圧処理とは異なり、レーザー照射部では、「非架橋酸素」欠陥が高密度に生成し、特定の波長(赤色)で強く光る性質を持つことが判明した。非架橋酸素欠陥とは、シリカガラスの構造において、本来つながっているはずの酸素とケイ素の結合が切れた状態のことを指す。これが、ガラスの光学特性を大きく変える要因となるのである。

  • 励起波長325nmと532nmにおける発光スペクトルの比較と非架橋酸素欠陥からの発光の比較

    (上)励起波長325nmと532nmにおける発光スペクトルの比較。赤色発光(650nm)は光加圧のみで観察される。(下)高圧処理と光加圧による、非架橋酸素欠陥からの発光の比較。(出所:京大プレスリリースPDF)

今回の成果は、ガラスという馴染み深い材料に「光によって新たな機能を書き込む」ための理論的基盤を確立したものとする。今後の研究の進展により、半永久的なデータ記録が可能な「五次元光メモリ」や、マルチコア光ファイバー、あるいは光電融合デバイスなどの次世代情報通信デバイスの新しい製造方法に道を拓くことが期待されるとした。研究チームは今後、さまざまな組成のガラスへの適用やレーザー条件の最適化により、光学的性質(屈折率・発光)の精密制御を目指す予定としている。