NASAの計画との関係は?

今回のスペースXの発表で、最も大きな影響を受けるのはNASAかもしれない。

NASAは現在、火星への有人飛行にも使える新型宇宙船「オライオン」と、超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」(SLS)を開発しており、2018年に無人のオライオンを月へ飛ばすミッション「EM-1」を、その後2021~23年ごろに、宇宙飛行士が乗ったオライオンを自由帰還軌道で月へ飛ばすミッション「EM-2」を計画している。

つまりスペースXの今回の計画が予定どおり、あるいは数年の遅れの後に、EM-2よりも先に実施されれば、NASAの面目は丸つぶれとなる。

もっとも、イーロン・マスク氏は今回の発表の中で、「もしNASAが先に月へ行きたいと言うのなら、当然NASAのほうに優先権があります」と述べ、NASAに配慮する姿勢をみせている。一方のNASAも、今回の発表を受けて、スペースXのような企業が、今回ようなミッションを提案することを「歓迎する」という声明を発表している。

しかし、NASAはもちろん、オライオンやSLSの開発に参加している企業からすればおもしろくないことであるのは確かで、今後軋轢が生じないとは限らない。

NASAが開発中の「オライオン」宇宙船 (C) NASA

オライオンを打ち上げる超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」 (C) NASA

そして、もうひとつの不確定要素は、トランプ大統領の存在である。

トランプ大統領とその宇宙政策アドバイザーはここ最近、NASAの月飛行計画を前倒しし、2018年のEM-1を有人飛行にできないか、検討を要請していると報じられている。

トランプ大統領の現在の任期は2021年1月で終わるため、再選されない限り、トランプ氏が大統領であるうちに「アポロ計画以来となる月への有人飛行」という歴史的な快挙を見届けることはできない。そこで、現在の任期中に間に合わせるべく、無人飛行を省略し、いきなり有人飛行ができないかと考えているのだという。この場合、宇宙船やロケットに有人飛行をするための改良が必要になるので、2018年の実施は難しいものの、それでも在任中には間に合う可能性がある。

この動きは「無謀だ」と非難の声があがるなど、ここ最近米国の宇宙業界では話題になっていた。そこへ今回、スペースXがタイミングよく発表をぶつけてきたことは、トランプ大統領に対して「NASAよりもスペースXのほうが先に人を月へ飛ばせる」とアピールすることになる。

またスペースXは米国の企業であり、ロケットや宇宙船の製造も米国内で行われているため、スペースXがNASAより先に月へ人を送ったとしても、それはトランプ大統領が言うところの「偉大なアメリカ」が成し遂げたことになる。

3月1日現在、トランプ大統領やその周辺は、今回のスペースXの発表に対して、とくにコメントなどは行っていない。今後、NASAやスペースXに対して、何らかの注文をすることはあるのか、それがどれほどの影響を与えることになるかはわからないが、今後の動向に注意する必要があろう。

今回のスペースXによる月世界旅行計画の発表は、今後しばらく、米国の宇宙開発をかき乱すことになりそうである。

アポロ11の宇宙飛行士が撮影した月。次にふたたびこの光景を見ることができるのは、NASAの宇宙飛行士か、それも民間人か (C) NASA

参考

SpaceX to Send Privately Crewed Dragon Spacecraft Beyond the Moon Next Year | SpaceX
SpaceX to send two private citizens around the moon and back - Spaceflight Now
SpaceX announces plan for circumlunar human mission - SpaceNews.com
SpaceX to fly 2 people around Moon in 2018 - SpaceFlight Insider
NASA Statement About SpaceX Private Moon Venture Announcement | NASA