米国の宇宙企業スペースXは1月14日(現地時間)、10機の通信衛星「イリジウムNEXT」を搭載した「ファルコン9」ロケットを打ち上げた。ファルコン9の打ち上げは、昨年9月に起きた発射台での爆発事故以来、4カ月ぶり。打ち上げは成功し、第1段機体の回収にも成功した。

10機のイリジウムNEXTを搭載したファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

ドローン船「指示をよく読め」号に降り立ったファルコン9 (C) SpaceX

ロケットは太平洋標準時1月14日9時54分39秒(日本時間1月15日2時54分39秒)、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地の第4E発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、約2分27秒後に第1段機体と第2段機体とを分離した。

第1段機体はその後、エンジンを噴射しつつ、大気圏に再突入して降下。洋上に浮かぶドローン船「指示をよく読め」号に舞い降りた。

一方の第2段機体も順調に飛行を続け、打ち上げから約59分16秒後に衛星の分離を開始。約15分かけて10機すべての衛星を軌道に投入した。その後、衛星からの信号が届き、状態が正常であることが確認されている。

ファルコン9、復活

ファルコン9の打ち上げは、2016年9月1日に起きた爆発事故以来、約4カ月ぶりとなった。事故は打ち上げ数日前の試験中に発生し、ロケットの先端に搭載していたイスラエルの人工衛星「アモス6」とともにロケットは破壊され、発射台も大きな被害を受けた。

その後の調査で、原因はロケットの第2段の液体酸素タンク内に搭載してある、ヘリウムの入った3つの圧力容器のうちのひとつが、破損、発火したためと判明。それを受け、今回は推進剤やヘリウムを充填する手順を変えるなどの処置が取られた。それによる打ち上げ能力やコストへの影響は不明だが、同社ではいずれは圧力容器の設計そのものを変え、手順を以前と同じように戻したいと表明しており、今回取られた処置はあくまで一時的なものであるとしている。

また、ファルコン9にとって恒例となっている第1段機体の回収も実施され、今回は太平洋に待機していたドローン船「指示をよく読め」号への着地に成功した。

東海岸のフロリダ州にあるケイプ・カナヴェラル空軍ステーションからの打ち上げと、大西洋上での回収はこれまで何度も成功しているが、西海岸にあるヴァンデンバーグ空軍基地からの打ち上げ数は少なく、今回が1年ぶりだったこともあり、太平洋上での回収成功は今回が初めてとなった。

ファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

回収に成功したファルコン9の第1段機体 (C) SpaceX

スペースXでは今年、20機以上ものファルコン9の打ち上げを予定しており、おおよそ1カ月に2機のペースでの打ち上げが続くことになる。

同社にとっては連続成功を続け、事故以来停滞していた打ち上げを消化しつつ、昨年9月の事故による信頼の低下を回復させる必要もある。さらに今年は、ファルコン9の新型機「ファルコン9 ブロック5」や、ファルコン9を3機束ねたような超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の初打ち上げ、有人宇宙船「ドラゴン2」の無人での初飛行も控えているなど、同社にとって試練と挑戦の続く年となる。

イリジウムNEXT

打ち上げられたイリジウムNEXTは、米国の衛星通信会社イリジウムが運用する通信衛星で、世界のどこからでも音声やデータの通信ができるサービスの展開を目指している。

現在は旧型のイリジウム衛星が配備されており、すでに衛星携帯電話などのサービスは行われているが、新世代のイリジウムNEXTによって、高速・大容量のデータ通信が可能になる。同社では今年中に70機、最終的には予備機を含め80機以上のイリジウムNEXTを打ち上げ、旧型機を代替することを目指している。今回打ち上げられたのはその最初の10機で、今後すべての衛星がファルコン9によって打ち上げられる予定となっている。

衛星1機あたりの打ち上げ時の質量は800kgで、金の延べ棒のような台形の四角柱の形をしている。70機の衛星はそれぞれ、高度780km、軌道傾斜角86.4度の円軌道に、10機ごとに軌道面を変えつつ投入して運用される。設計寿命は10年。開発は欧州の航空・宇宙大手タレス・アレーニア・スペースが担当した。

また各衛星には、50kgほどの機器を搭載できるスペースが用意されており、他社の機器を受け入れるなどして、同衛星の軌道を利用したイリジウム以外のサービスが展開できるようになっている。

今回は、同社の子会社でもあるエアリオンが開発した、航空機の位置をリアルタイムで追跡できる機器が搭載された。また今後、58機の衛星には、イグザクトアース(exactEarth)の、自動船舶識別装置(AIS)を利用した船舶の位置をリアルタイムで追跡できる機器が搭載される予定となっている。

イリジウムNEXTの想像図 (C) Thales Alenia Space

ファルコン9に積み込まれる直前のイリジウムNEXT。5機ずつ2段に分けて搭載される (C) Iridium

【参考】

・Iridium-1 Mission in Photos | SpaceX
 http://www.spacex.com/news/2017/01/14/iridium-1-mission-photos
・Spacex Iridium1 Press Kit
 http://www.spacex.com/sites/spacex/files/spacex_iridium1_press_kit.pdf
・IRIDIUM-1 MISSION | SpaceX
 http://www.spacex.com/webcast
・Iridium Announces Successful First Launch of Iridium NEXT Satellites (NASDAQ:IRDM)
 http://investor.iridium.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=1007978
・Iridium | Network | Iridium NEXT
 https://www.iridium.com/network/iridiumnext