最先端の半導体実装課題を低温低荷重接合で解決

フリップチップボンディングは、ICチップを実装基板上にはんだなどで直接接合する技術。チップと基板をワイヤ接続するワイヤボンディングと比べて、実装面積を小さくできるのが特徴である。従来の技術ではチップ側にはんだや銅錫共晶でバンプを形成し、高温・高荷重をかけることによって実装基板に接合していた。一方、MONSTER PAC技術では、バンプ材料に銀の導電性ペーストを使用し、チップ側ではなく実装基板側にスキージ印刷法でバンプ形成する。

バンプ形成後は、ディスペンサで非導電性ペースト(NCP:non-conductive paste)を塗布する。NCPは熱硬化性樹脂の一種であり、フリップチップボンダで軽く押さえてチップとバンプを接触させた状態で熱をかけると、NCPの硬化収縮力によってチップと銀バンプの接触が固定され、接触部で電気を通すようになる。チップとバンプは物理的に接触しているだけなので、はんだ接合と比べると抵抗は大きくなるが、実用上は問題ない電気的接触を確保できるという。

接合前にペースト状だったNCPは、接合時に温度を下げる操作によってまず液状化し、その後170℃の温度条件で硬化する。硬化前にいったんNCPを液状化させるのは、チップとバンプの間にNCPが残って導電性を損なうことを防ぐためである。このように材料設計と温度制御レシピをきめ細かに作り込むことで、これまでにない低温低荷重が実現でき、接合時にデバイスへ与えるダメージの軽減と装置小型化につながった。

既存のフリップチップボンディングとMONSTER PACの比較(出所:コネクテックジャパン)

MONSTER PAC技術による接合の流れ(出所:コネクテックジャパン)

低温低荷重、低ダメージでのフリップチップボンディング技術は、10~20nmプロセスで製造される先端半導体デバイスには不可欠となってきている。デバイスの絶縁層が多層化しているため、上層と下層で同じ材料の絶縁層を使うと下層に行くほど電気抵抗が増大し、信号遅延の原因となる。これを防ぐため、下層の絶縁層には低誘電率材料(ultra low-k材料)を使うことで、結果的に上層と下層で同じ抵抗になるように調整することになるが、ultra low-k材料とは、言い換えれば空気の比誘電率(=1)に近いスカスカのスポンジのような材料であり、高い荷重のような物理的なダメージに対してはどうしても脆弱になってしまう。このため、従来のフリップチップボンディングの適用が困難になっているのである。

low-kデバイスの課題。スポンジのような材料が使われるため物理的に脆弱になる(出所:コネクテックジャパン)

もうひとつ、従来のフリップチップボンディングが使えない例として、MEMSデバイスがある。スマートフォン、ウェアラブル端末、IoTデバイスなどの増加でMEMSを使ったセンサの利用はこれからますます増えていくと予想されるが、複雑な段差構造や立体構造が形成されているMEMSデバイスでは、チップ側にバンプを作ることがそもそも困難である。これは段差構造によってバンプの高さがバラついたり、レジスト剥離中に立体構造が破損してしまうという問題があるためで、MEMSデバイスの実装には今もワイヤボンディングが使われている。しかし、ワイヤボンディングでは、チップの周りにたくさんのワイヤを接続する必要があり、実装面積の小型化が難しい。これから機器に搭載されるようになるMEMSデバイスの増加を考えると、MEMSにもフリップチップボンディングを適用できるようにすることが望ましい。MONSTER PAC技術であれば、バンプを形成するのはチップ側ではなく実装基板側になるので、上述したような問題はなくなる。

MEMSパッケージ実装の課題。従来のワイヤボンディングでは実装面積の小型化に限界があり、フリップチップボンディングが不可欠(出所:コネクテックジャパン)

MEMSデバイスへのバンプ形成の問題点。バンプの高さバラつきや構造破壊が避けられない(出所:コネクテックジャパン)

チップ側ではなく実装基板側にバンプを形成することで問題は回避できる(出所:コネクテックジャパン)

また、デバイスの微細化が進むにつれて、基板側の配線ピッチがチップサイズを律則するという問題も出てくる。ITRSのロードマップでは、フリップチップボンディングによる配線ピッチは35μmで底打ちとされているが、同社では接合温度を130℃に下げることにより、10μmという狭ピッチでの配線とバンプの同時形成に成功している。

接合温度130℃、10μm狭ピッチでの配線とバンプの同時形成に成功(出所:コネクテックジャパン)

低温低荷重接合でこれまでなかったアプリケーションが可能になる

同社ではさまざまな企業から寄せられる受託開発の課題をMONSTER PAC技術などを使って解決している。以下、そうした事例をいくつか紹介する。

MEMSデバイスの実装にMONSTER PAC技術を適用した例として、超音波診断装置プローブヘッド部のフレキシブルプリント配線板(FPC)へのMEMS実装がある。従来のワイヤボンディングでは、FPCを折り曲げたときにワイヤが外れたり、人体にヘッドを押し付けて使用するときの圧力でワイヤが切れたりしていた。フリップチップボンディングに変えることで、ワイヤを使用する必要がなくなり、こうした不具合が解消された。

超音波診断装置へのMONSTER PAC適用事例。フレキシブルプリント配線板にMEMSデバイスを実装した(出所:コネクテックジャパン)

複数枚のチップを狭い間隔で並列して実装したいという要求もある。本来24mm□のチップ1枚として機能させたいのだが、ウェハ上に最初から24mm□のチップを形成するよりも、その1/4サイズの12mm□のチップを多数形成し、基板実装時に4枚並べて1枚のチップとして機能させたほうが、ウェハ上での歩留まりが良くなるためである。この場合、並列させるチップ間の間隔は30μmという狭ギャップ接合が必要になる。

フレキシブル基板上に従来法で実装するには、導電フィルムかはんだを使うことになるが、導電フィルムは高荷重で押し付けたときチップの周りにフィルムが押し出されるため、ギャップを300μm以下にできない。はんだの場合は接合温度が260℃必要なため、熱で基板が反ってしまい、やはり狭ギャップ接合は不可能である。低温低荷重のフリップチップボンディングが可能になり、はじめて30μmでの狭ギャップ接合が可能になった。これにより、ウェハの歩留まりは50%から90%に上がったという。

チップ間隔30μmでの狭ギャップ接合の事例。12mm□、1700端子のチップ4枚を並列し、フレキシブル基板上に実装する(出所:コネクテックジャパン)

チップサイズを小さくすることでウェハ上の歩留まりが向上する(出所:コネクテックジャパン)

MONSTER PAC技術で使用する熱硬化性NCPの硬化温度を現在の170℃よりも下げることができれば、フリップチップボンディングの適用範囲はさらに広がることになる。同社ではより低温のプロセスの開発に取り組んでおり、実際に120℃のプロセスで磁気センサモジュールを作製した例もある。

下の写真はセイコーNPCが開発したリチウムイオン電池非破壊検査用の磁気センサモジュールであり、実装にはMONSTER PAC技術が使われた。表側には1.5mm□の磁気センサチップ600個(20×30列)が高密度接合されている。裏側にはアンプIC60チップとコンデンサ441個が高密度実装されている。センサの耐熱温度が120℃なので接合温度260℃のはんだ接合は使えなかった。

プロセス温度をさらに下げ、80℃にできれば、PETフィルム基板を含むほとんどすべての材料にフリップチップボンディングを適用できるようになる。このため現在は、接合温度80℃のプロセス開発を進めている。低温で確実に硬化する熱硬化性樹脂の開発がカギになるが、実現の見通しは立ってきているとしている。

セイコーNPCのバッテリー検査用磁気センサモジュール(表側)

セイコーNPCのバッテリー検査用磁気センサモジュール(表側)