「Daydream」の説明の後はいよいよ「Tilt Brush」の実体験だ。当日は「鉄腕アトム」「火の鳥2772 愛のコスモゾーン」などを手がける手塚プロダクションのアニメーター、瀬谷新二氏により「Tilt Brush」の実演が行われ、会場は夢の世界への旅行に包み込まれた。
「Tilt Brush」はHTC Vive向けにSteamで配信している有料アプリで、価格は2,980円。HTC Vive対応で、同機種の予約購入特典として同梱されていたものだ。両手にそれぞれ持ったコントローラーを動かし、実際に動き回りながら360度空間へ奥行きのある絵を描くことができる。
右手は空間にかざしてコントローラーのトリガーボタンを押すと空間に線が現れ、そのまま大きく動かすことで立体的な形を描くことができ、左手はパレットになっていて、右手のコントローラーで触れると、線の種類や色を自由に変えたり、キラキラや炎のイメージなど効果を加えたりと操作を感覚的に行うことができる。
筆者も体験してみた
実際に装着してみたところ、初めは「映画の3Dみたいなものでしょ」、とたかをくくっていたのだが実際に試して見ると、普通のアプリ体験とまったく異なる、VRでしか味わえない驚きの体験だった。
何より「奥行き」という概念(手を前に突き出す)や、360度描ける線、というのを脳が理解するのに時間がかるほか、作画にあたり(ダイナミックで大きな作品であればあるほど)現実世界での挙動も大きくなるため、意外と体力を使う…というのが率直な感想だ。短い時間ではあったが、今回のようなオフィスでのデモではなく借りて使うことができたら、おそらく寝ずに没頭してしまうだろう、新しく危険な世界がそこには広がっていた。
アニメーターの瀬谷新二氏は「(アトムの曲に合わせてパフォーマンスしたので)1曲分(3分ほど)くらいで書き上げるというのが難しかったですね。星のキラキラとかアトムのジェットなんかをシュッと引くときの「アクション」が面白かったです。今回は線で描きましたが、ツール自体が立体になっているものもあって、3Dなので空間に針金アートを作っているような感じというか、普通に描くのとは全く違いました。この「空間」に慣れてさえしまえば本当にいろんな可能性を秘めたツールだと思うので、『今までは紙に描いていたのに』という固定概念を完全に取り払って、空間に落書きをしている『体験』をぜひ楽しんでほしいと思います」と語った。
唯一無二な“お絵描き”から将来的には3次元の世界での作品発表など、「Tilt Brush」で新しい世界が身近になる日も近いのではないか。