科学技術振興機構(JST)は11月18日、2016年度より新たに設定された情報学分野の若手研究者向けプログラム「ACT-I 情報と未来」の採択者30名を決定したと発表した。

ACT-I「情報と未来」の研究統括を務める産業技術総合研究所情報技術研究部門 後藤真孝首席研究員

同プログラムは若手研究者の個人研究を支援するもので、研究費として1件あたり標準で総額300万円、最大で500万円が助成される。研究期間は1年4カ月以内。研究を引き続き支援することでより一層大きな成果が期待される研究課題については、「加速フェーズ」としてさらに最長2年間、年間最大1000万円程度の研究費が支援される。

研究統括を務める産業技術総合研究所情報技術研究部門 後藤真孝首席研究員は、同プログラムについて「情報学によって未来を切り開く気概を持った若手研究者を支援することが目的」であるとする。

同プログラム最大の特徴は、35歳未満と年齢制限を設け、正真正銘の"若手"研究者を対象としている点だろう。学生の場合、修士課程以上の大学院生であれば応募可能だ。また35歳未満であれば、博士号を持たない企業の研究者も応募できる。

初年度となる今回の公募に対しては、合計144件の提案が寄せられた。大学院生からの提案は35件あったという。応募者144名のなかから56名が面接に進み、そのうち30名が採択された。採択者の平均年齢は29.5歳。最年少採択者は修士課程1年の学生だ。やはり採択者の若さが一番の特徴だが、後藤氏は「ほかのプログラム(JSTの「さきがけ」および「CREST」)と比較して、女性や外国人研究者の採択率が高いのも特徴。多様な人材を採りたいという思いが反映された結果だ」とコメントしている。なお、博士号を持たない企業の若手研究者が応募できる点も注目されていたが、今回、民間からの応募は2件、採択は1件であった。採択者・課題の詳細についてはこちらをご覧いただきたい。

採択者は今後、12名の各担当アドバイザーによる助言・指導を受けながら研究を進めていくことになる。また、将来の連携につながる研究者同士のネットワーク構築を狙って、若手研究者と研究総括・アドバイザーらがフラットに議論できる研究発表の場も設けられる予定だ。

東京大学大学院情報理工学系研究科 五十嵐健夫教授

アドバイザーを務める東京大学大学院情報理工学系研究科 五十嵐健夫教授は、「ニュートンの万有引力の発見、チューリングのチューリングマシンの考案など、科学技術上の偉業の多くは20代でなされている。自分も重要な仕事をしたと思えるのは25歳だった。クリエイティブな仕事ができるのは修士・博士の若手世代だ」と、科学技術の発展には若手研究者への支援が必要不可欠であることを強調したうえで、「"勉強する"という意識が抜けない学生が多いが、大学院生もプロの研究者。自分で応募できる研究費があると、プロとしての自覚が芽生える。また応募しなかった人も、採択者を見れば自覚が育っていく」と、同プログラムへの期待を寄せていた。

競争的資金が研究費の中心となりつつある現在、修士・博士課程の学生は、教授などから研究テーマを与えられる場合が多く、個人の自由な発想で研究を行うことは研究資金的にもなかなか難しい状況だ。学生が自分で応募して獲得した研究費を利用し、自由な発想やテーマで研究に取り組むことができるという点においても、同プログラムは魅力的であるといえよう。