より現実に近い道路ネットワークに

続いては、道路ネットワークの整備作業を行っている部署の話だ。道路ネットワークとは、カーナビメーカーが、用意するルート検索のプログラムが、条件に沿って適切なルートを導き出せるよう、道路同士の道交法に従った正しい結びつきを設定したものである。この道路ネットワークのほか、さまざまな条件のためのデータを合わせて整備することで、「有料道路優先」「一般道路優先」「省燃費ルート」などと、ルート検索プログラムが条件に沿った複数のルートを提案できるようになるというわけである。

その作業は、まずベースとして国土地理院が発行している1/2万5000地形図から道路情報のみを抽出する作業から始まる(画像30・31)。同地形図には幹線道路などの太い道路が記されているので、まずはそれを基にした長距離をつないでいる主要な道路のネットワークが作られる。地形図には道路のほかにも、鉄道の路線や河川や池、等高線など色々とネットワーク整備では不必要な情報も記されているので、それらを取り除いて道路のみのつながりを抽出するというわけだ。

ただし、1/2万5000地形図から抽出した道路ネットワークだけだと、スカスカだったりする。そこでより詳細な道路情報を持つ同社の住宅地図データベース(コア・データベース)を用いて、もっと細い道路のネットワーク情報も追加していくというわけだ(画像32)。それにより、現実世界に近い道路ネットワークができあがってくるのである(画像33)。

画像30(左):国土地理院の1/2万5000地図のサンプル。画像31(右):そこから幹線道路のみを抽出した道路ネットワーク。道路が少ないため、ネットワークとしてスカスカしている。

画像32(左):ゼンリンの住宅地図データベースのサンプル。画像33(右):そこから幹線道路をつなぐような市道・区道といった細めの道も抽出してより密な道路ネットワークを作成する。

新しい道路は常に生まれている

この整備作業は既存の道路に関しては全国一通り終わっているが、それで終了というわけにはいかない。新しい道路は常に全国どこかでいくつも建設されており、そうした新しい道路に関する情報の収集と、それらのデータへの反映も重要な作業となる。

新しい道路に関する主な情報源は、都道府県報(広報誌・紙)や国が出す官報などだ(画像34・35)。最近だと、首都圏の高速道路の3環状のように注目度の高い道路の場合は公式サイトを情報源にすることもできるだろう。それらには、新しい道路がどこからどこまでのルートで通る予定だとか、工期のスケジュールや、開通予定日など、さまざまな情報が記載されている。そのような理由から、まずは全国各地で都道府県報や官報などを用いて新しい道路に関する情報が探し出され、それが北九州の本社に集約される仕組みとなっている。

画像34(左):新しい道路に関する情報は、全国で都道府県報や官報から収集される。画像35(右):これは広島県報の中味。道路情報が載っている

そしてゼンリンでは、新しい道路の開通日が発表されている場合、開通と同時に利用できるようにしている。そのためには、事前に道路情報を入力し、道路ネットワークを完成させておき、開通日の開通時刻に既存のネットワークの中に組み込めるようにしておく準備が必要だ。

それには、都道府県報や官報の情報だけではさすがに不足である。道路の形状も標識情報も不明だから、ネットワークの作りようがないからだ。そこで取材が定期的に行われる。取材ではまず図面情報(画像36)の入手が行われ、そのほか得られる正確な情報も収集されていく。

さらに取材の一環ではあるが、写真撮影も含めた(画像37)、建設予定現場での現地調査も定期的に行われる。取材や現地調査が定期的に行われるのは、変化情報を確認するためだ。完成前の道路なので、完成時期が近づかないとすべての情報を確認することはできないわけで、こうして標識情報などを完璧にしていく。

そして現地取材での撮影だが、対象は、標識、規制情報、方面案内看板、路面にペイントされた矢印や数字、そのほか中央分離帯など、ルートを導き出すのに影響を与えるものすべてとなる。1つの交差点だけで30~40枚の写真を撮影する必要があり、数がとても多いことから撮影漏れがないよう、あらかじめ撮影ポイントを図面上に記した「交差点チェックシート」(画像38)などが作られ、それを基に行う形だ。

なお、こうした新しい道路への調査部門の依頼には、「道路ナビ先取り調査票」が利用される(画像39)。これをすべて埋めれば必要なデータがそろう上、画像38にある撮影ポイントの通りに写真撮影を行えば、特に重要な交差点や分岐などの情報も収集できるというわけだ。

画像36(左):取材で真っ先に入手すべきが、その道路の詳細な図面情報。画像37(右):新規道路で撮影された写真サンプル。標識や方面案内看板、横断歩道、車線数などなど、新しい道路のさまざまな様子が撮影されて、道路ネットワークを作るための情報となる。

画像38(左):交差点チェックシート。図面情報を基に、現地調査において写真撮影するべきポイントが決定される。1つの交差点だけで、30~40点の写真撮影が行われる。画像39(右):道路ナビ先取り調査票。現地調査での見落としがないよう、空欄を埋めていく調査票があらかじめ調査員に渡される。極力情報漏れが発生しにくいようになっているのだ。

こうして必要な情報が集まって標識情報などは、新しく作られる道路ネットワーク上に紐づけられる。その新しい道路のネットワークの場合は、図面情報がデータベース内に採り入れられ、その図面に沿った形で作られていく(画像40)。