地図情報の更新において優遇される道路が存在する!?

また道路ネットワークは、通常は道路1本に対して1本のラインで表されるが(画像41)、例えば高速道路の出入り口のように本線と分岐した側道や、上下線が離れていてルートが若干異なるような道路などの場合は、それぞれ1つの道路という扱いで、その区間だけ個別のラインが設けられる。合流や分岐、一方通行がきちんと表現されていないと、間違ったナビゲーションをしてしまう可能性があるからだ。こうして、新しい道路の地図情報とネットワークが完成するというわけだ(画像42)。

画像40(左):図面をベースにネットワークが作成されたところ。画像41(中):画像40から図面を取り除いた、ネットワークのみのもの。画像42(右):新しい道路が通っている住宅地図に、画像41のネットワークを合わせたもの

新しい道路に関しては、住宅地図の現地調査の時期を待っている余裕はない。タイミングによっては住宅地図の調査を待っていると、都市部でも1年近く先になってしまう可能性もあるからだ。ましてそのほかの地域だと、最長で5年近くかかってしまう場合もある。しかし、インターネット時代の現在では、開通してすぐにでも新しい道路の情報を利用できないと、そのインターネット地図案内ソフトやスマホの地図案内アプリなどは、「更新が遅いサービス」とユーザーに思われてしまう可能性がある。それを防ぐには、開通前に既に全情報を収集してその道路ネットワークを完成させておく必要があるのだ。

そもそも新しい道路とは、利便性の向上を求めて建設されるわけだから、その道路の大小に関わらず、利用したい人、注目している人は多い。そうした中で、例えばメーカーに送ってHDD内の地図データを更新してもらうようなタイプのカーナビなら致し方がないにしても、PCやスマホで利用可能なインターネット地図案内サービスの場合は、更新の早さが武器となるので、いつまでも追加しないというわけにはいかないのだ。

そこでこうした新しい道路情報は、開通前の路線情報として特別な扱いを受けることになる。当たり前だが、その新しい道路が開通するまではルート案内で利用してはならないし、また開通後は速やかにルート案内で利用されることが望ましいからだ。こうした開通予定の道路情報を用意するための整備行程のことを「開通前路線整備」という。

新しい道路を開通日(正確には開通時刻も決まっている)から地図データとして利用できるようにするため、ゼンリンでは2つのデータベースを用意することで対応している。既に利用されている道路の情報のみが入った既存のデータベース(画像43)が稼働しているわけだが、それとは別に新しい道路の情報だけを扱った「開通前データベース」(画像44)を用意。そして開通の日時が来たら、前者と後者を組み合わせて新しいデータベースとすればいいというわけだ(画像45)。ちなみに、この3月に立て続けに首都圏の3環状(高速)道路の複数の路線が開通するような場合は、それだけ開通前データベースを用意しておく形になる。

画像43(左):既存のデータベースのイメージ。画像44(中):新たに開通する道路の情報だけが入った開通前データベースのイメージ。画像45(右):既存のデータベースに開通前データベースを加えて新生したデータベース

先程、新しい道路を開通後即座に反映させないと「更新の遅い地図案内サービス」と見られてしまう可能性があるとはいったが、実際に更新するかどうかはそのサービスを運用している企業の考え方なので、必ずしも開通日時と同時に反映させるかどうかはまた別物である。ただ、メーカーがそれを望んだ場合に即応できるように、ゼンリンとしては準備を怠っていないというわけだ。

開通前にデータを準備する同部署の今後の目標としては、道路以外の話になるが、「目的地」の情報も重要であることから、例えば大型ショッピングモールなどが新規にオープンする場合、それも新規道路の開通前データベースと同様に、情報をオープン前に用意しておいてオープンと同時に目的地として検索できるようにしていきたいということである。