独自画像ツールを用いて方面案内看板を作成

こうして現地調査で得られた画像を基にして、第2行程のイラスト制作は進められていく。市販の画像ソフトだと必要のない機能がとても多いので、ゼンリンが独自に開発したシンプルな画像系ツールを用いて、方面案内看板のイラストは作られる形だ(画像61)。

ツールは、左側上部のペインに現地で撮影された方面案内看板の画像が表示されるデザインで、右側の大きなペインでもってイラストを作っていく。左下のペインには、方面案内看板の十字、T字、L字といった複数の雛形が表示されるので、最初にそれを選択することで新しいイラストの作業開始となる。また、標識アイコンや都道府県道・国道のアイコンなどを方面案内看板に設置したい時は、同じく左下のペインに表示されるので、そこからドラッグ&ドロップで必要なアイコンを貼り付けられるようになっている。

画像61。ゼンリンオリジナルの方面案内看板イラスト作成ツール

1つの方面案内看板イラストを作る作業自体は、至ってシンプルである。実物と同じ交差点形状の雛形を選んだあとは、必要な方面地名、そしてその下のローマ字もしくはアルファベット表記(日本全国で実は統一が取れていないという)、交差する通りの名称がある場合はそれを入力すれば半分が終了。次に、自分が走っている通りおよび交差する通りの都道府県道や国道のアイコンを選び、その中に数字を入力していく。これで一般的な交差点なら完成だ(画像62)。

中には右左折した先が通行止めとか、直進した先に一時停止があるとか、変則的な交差点もあるので、それはその通りに標識などを設置していけばよい(画像63)。極端な話、このイラスト制作そのものの作業自体は、ローマ字表記ができれば、誰でもできてしまうというほどシンプルである。ただし、1つの交差点だけでも一般的な十字路なら4つ入力する必要があるし、それを数多くこなさなければいけないのだから、混乱しやすいわけで、ここもまた集中力と忍耐力が求められる作業である(シンプルだけどこなすべき数が多い作業は、結構ヘビーだ)。

画像62(左):完成した方面案内看板のイラスト。画像63(右):標識などを設置するなど、特徴的な方面案内看板にも対応可能。

注意すべき点は、ローマ字表記のところ。タッチタイプで文章入力している人は多いかと思うが、ローマ字入力だと実際のスペルと違う方法で入力する文字も多い。例えば「ち」や「つ」などがその代表で、ローマ字表記だと「Chi」や「Tsu」だが、ローマ字入力の時は「Ti」や「Tu」と打つ人の方が圧倒的に多いはずで、いつものクセで打たないようにしないとならないのである。実際のところ、方面地名を入力すると、自動的にローマ字表記の部分も入力されるので、もしスペルがおかしい時は、改めて直せばいいというわけだ。

なお、全国の方面案内看板の作業をしているので、同部署のスタッフの方々はよくわかるそうだが、実際の看板自体がそもそもローマ字表記だったりアルファベット表記だったり、統一されていないようだという。例えば、「日本橋」の場合、アルファベット表記だと「Nihonbashi」となるわけだが、ローマ字表記のルールだと、「ん」の後ろに「B」などが来る場合はその「ん」が「M」で表記されるので、「Nihombashi」となる。どっちの表記もあるそうなので、筆者のようなライターとか編集の仕事をしている立場だと、どちらかに統一したいところである。さらに、最後の「し」も「Shi」だったり、「si」だったりとマチマチらしい。

しかしゼンリンでは、スペルの不統一があったとしても、すべて実物に従うルールを採用しているそうである。そのために、ユーザーから逆に「スペルがおかしい」という指摘があったりするそうだ。

とにかく表記のばらつきは、おそらく看板のサイズ、文字と地の色、書体などは決められているが、ローマ字表記かアルファベット表記というところが徹底されていないことが原因と思われる。それらのばらつきは、今後、特に首都圏の場合は2020年に東京オリンピックがある関係で、海外の観光客のために統一ルールの下にローマ字表記を更新していくという話も出ているので、ゼンリンでもそれに備えて、修正作業が増えることも想定しているそうである。

ちなみに、そうして実際に看板に修正がなされた場合、どのようにゼンリンでは把握しているのかというと、実はすべてを修正直後に把握するのは不可能だという。方面案内看板の修正を行った業者や発注した行政サイドから情報が入ってくることもあるそうだが、時期的に随分と時間が経ってからのことも多いし、必ず入ってくるとは限らないので、調査部門に定期的に確認をしてもらっているそうだ。

先程例として挙げた神保町の交差点の場合は、2年に1度定期的に調査を行っているという。ただし、タイミングが悪くて調査した直後に修正があったら、そのままだと2年後にならないと修正できない可能性もある。そのため、ユーザーやナビメーカーから実物と違うという情報が入った時は、改めて調査部門に依頼して確認を取って、実際に修正されているようならデータの修正も行うということだ。

また方面地名が追加・修正されたりする可能性として、空港や高速道路の新しい出入り口など、ドライバーがクルマを向かわせる可能性の高い施設がオープンした時がある。これらは、ほぼ確実に直近の方面案内看板などには追加・修正されたりするので、そうした時はオープン後に調査部門にその施設近辺の方面案内看板の調査を依頼するという。

ただし、方面案内看板の調査の難しいところは、どこの看板まで追加・修正が加えられているのか、すべて調べてみないとわからないというところだ。かといって、コスト的な問題からいって、あらゆる方面案内看板を調べるというのは無理な話なので、調査はエリアを絞った形で確認作業が行われる。

なお、地理的にいって新しい方面地名が看板に追加されたり修正されたりする可能性があまりない看板、例えば先程取り上げた神保町の交差点などは新しい高速道路の出入り口ができることもまずないし、空港が近くにできるわけもないし、亀戸や浅草橋といった地名が変更される可能性もほぼゼロなので、そのため都市部だが長めのスパンが設定されていて、2年に1回となっているのである。