UAVの研究は1950年代から行われていた

続いては、先ほど小型UGVとの組み合わせで小型UAVの開発について紹介したが、今度は単独のUAVの研究開発について。防衛省のUAVの研究はなんと1950年代、昭和でいうとまだ戦後という昭和20年代から始まっており(自衛隊と防衛省の前身である防衛庁の設立は昭和29(1954)年、さらに防衛庁と自衛隊の前身(保安庁・保安隊)が昭和27(1952)年、さらにその前身の警察予備隊が1950(昭和25)年創設)、すでに半世紀以上の研究開発の歴史を有する。

画像12は、防衛省のUAV(開発開始当時はまだUAVといういわれ方はされていなかったと思われる)関連の開発をまとめた年表だ。現在はあまり聞かれない、遠隔操縦機の「RPV(Remotaly Piloted Vehicle)」といった言葉が見られるし、数年前に発表されて話題になった「球形飛行体」もある。低速であること、民生用の開発も進んでいることなども影響があるものと思われるが、ヘリコプタータイプのUAVは1980年代末に開発が始まって、すでに実用化されて装備済みという点は興味深い。この年表を見ると、米軍などのように実戦配備こそされていないが、防衛省・自衛隊もUAVの開発はそれなりに行っているのがわかるというわけだ。

画像12。UAVの研究状況をまとめた年表

国内におけるUAVの配備状況

それでは個々のUAVをいくつかピックアップしていくが、まずは実戦配備済みのヘリコプター型のUAVからだ(画像13)。この機体は、無人偵察機「FFOS(Flying Forward Observation System)」と呼ばれ、着上陸侵攻や離島侵攻、ゲリラや特殊部隊による攻撃やCBRN攻撃、災害派遣などの多彩な事態に対処すべく開発された機体で、昭和63(1988)年~平成3(1991)年まで研究が、翌平成4年~平成8(1996)年まで開発が行われてその成果は陸上自衛隊の装備である「遠隔操縦観測システム」に反映され、平成13(2001)年から配備されている。

FFOSを中心として、追随装置、統制装置(制御)、簡易追随装置、整備支援装置、発進・回収装置、機体運搬装置、作業車などで構成。無人機を飛行させるのに、これだけの仕組みが必要だということがわかる、興味深い情報だろう(画像14)。なお、FFOSのスペックは、以下の通りだ。

サイズ:全長3800mm×全幅1200mm 重量:275kg 速度:時速約135km 行動半径:近距離

画像13(左):発進回収装置上で隊員のチェックを受けるFFOS。画像14:FFOSを運用するための各種装置

そして次に実戦配備に近いUAVが、年表中の中程にある航空機搭載型の「多用途小型無人機/無人機研究システム」である(画像15)。航空自衛隊の現在の主戦力である戦闘機「F-15J」から空中発進させることができ、自動で滑走路に着陸できる機能も持つ中距離用の戦術偵察無人機だ。すでに開発が完了済みで、平成25年、つまり今年から航空自衛隊で運用研究中である。こちらは、その飛行や着陸の様子を収めた動画も紹介されたので、掲載しておく(動画1)。

画像15。多用途小型無人機/無人機研究システム
動画1。多用途小型無人機/無人機研究システムの飛行や着陸の様子

そして、今年(平成25年)から始まったばかりで、平成30(2018)年までの期間で研究が行われるのが、滑空型偵察UAV用の「赤外線センサシステムインテグレーション」だ(画像16)。航空機に搭載した小型赤外線センサによる弾道ミサイル警戒監視システムの実現に必要なシステムインテグレーションの、飛行試験機などによる実飛行環境下における検証が行われている。具体的には、画像16にある通りだが、赤外線センサによる目標ミサイルの探知追尾を行うための小型UAVの制御と、データリンクによる地上からのセンサ/飛行試験機管制と地上へのデータ転送が主な項目だ。

さらに、多用途小型無人機/無人機研究システムの技術をベースとした将来的な構想として紹介されたのが、「有人機・UAVの連携」と「艦載型固定翼などのUAV」の研究である。前者の友人・無人連携は、僚機間高速通信により、有人機と協調して飛行することで防空作戦をUAVにサポートさせるというもの(画像17)。パイロットにはもちろん遠隔操作を行う余裕などないため、有人機の飛行に合わせて協調飛行する技術が最大の課題だ。空中発進技術や僚機間通信技術を応用して行う計画である。また後者は、艦艇の見通し外で高速、広域での偵察、戦果確認を目的とするUAVの開発だ(画像18)。これまでに行われたUAVの研究システムの機体規模で実現性があるとしている。

画像16(左):赤外線センサシステムインテグレーションが目指す機能のイメージ図。画像17(中):有人機・UAVの連携のイメージ図。画像18(右):艦載型固定翼などのUAVのイメージ図

最後に、UAVの運用に関する課題が大きく2つの点に分けて取り上げられた。まず、「UAVの一般空域運行」について。UAVが航空機かどうかという話なのだが、国際民間航空機関は「UAVは航空機である」と宣言しており、これまでは認められていなかったUAVの航空機としての「市民権」が、認められつつあるという。その一方で、現状の航空交通と調和する必要があり、航空法の根拠となる国際基準に、UAVに関する諸基準を追加改定する動きが加速しているとした。

また現時点における国際基準の無人機に対する主な要求は、以下の4点が挙げられているという。(1)地上装置から無人機を常に監視、飛行管制できること、(2)トランスポンダの搭載、(3)航空無線機など、航空交通管制との連絡手段の確保、(4)他航空機などに対する衝突防止機能(TACSなど)の具備という具合だ。ただし、これら4点の要求を満たしたとしても、現実的には日本国内において飛行させることは難しく、一部の許可された空域のみで、研究開発を行ったUAVを飛行試験ができるのみとしている。

そしてもう1点が、「UAVの通信に使用する電波申請および取得」だ。まず総務省への電波申請だが、防衛省には運用上必要な専用の周波数が割り当てられているため、研究開発などで電波を必要とする場合は、必要な周波数・使用時間・使用場所を明確にした上で、使用する1年以上前から調整および申請が必要だという。かなり手続きが煩雑なようだ。

その上での現時点における電波使用の問題点だが、演習場の確保の都合上、使用期間もしくは使用場所が変更になった場合、試験が実施不可能なことがまず1つ。さらに、研究終了後、自衛隊からの部隊支援依頼があった場合、同じ電波の使用が困難という問題もあるという。電波使用の承認(新規の使用、変更、継続)の都合上、試作品の通信距離の短縮化や試験計画の変更・修正をする事態が起こり得る、としている。

もちろん、誰も彼もが無秩序に電波を使用していいわけがないのは当然なのだが、ここでもまた行政の壁というか、融通の利かなさというか、国防を担う防衛省・自衛隊の行っていることなのだから、もう少し弾力的に運用できないものかと思う。決定済みのことをきちんと遵守しているのだから、総務省の人間が悪いことをしているわけではないのもわかるのだが、いくら電波が過密状態にあるとはいえ、もう少し先のことも考慮した判断をお願いしたいところである。

ともあれ、自衛隊も無人機システムの研究開発の歴史が思った以上にあり、なおかつ結構進んでいるのがわかったことだろう。ただし、実際的な保有数でいくと、世界の軍事大国と比べるとかなり少ない(それでも、世界すべての国・地域と比較したら、もちろんとても上位に来るのだが)。