防衛省が爆発物処理用の無人機を試作
続いて、各分野のすでに開発されて配備済みもしくは開発中の無人機・ロボットが紹介された。最初は、陸上用小型UGVの「爆発物対処利用無人車両」から。爆発物処理は非常に危険な任務で、爆発物処理班の隊員の死亡率・負傷率が高いのは有名な話である。米軍では、ルンバを開発したアイロボット社製の「PackBot」を配備しており、世界中の米軍基地で活躍していることをご存じの方も多いはずだ。
そうしたことから防衛省でも開発を行い、平成19~21(2007~2009)年にかけて、遠隔操作により爆発物を破壊あるいは爆破処分するために必要な爆発物処分用構成技術に関するプロトタイプが試作された。運用する陸自の協力による運用シナリオに基づき実証も行われ、研究完了後、その成果は陸自の爆発物対処用無人車両に反映され、平成23(2011)年度に陸自が直接訓達となっている。
プロトタイプはI型とII型の2種類がある(画像6)。スペックは以下の通りだ。
I型 サイズ:全長1000mm×全幅620mm×全高250mm 重量:80kg 行動時間:2.6~4.0時間 最高速度:時速5km 搭載センサ:カメラ×6(前方4・後方2)
II型 サイズ:全長700mm×全幅500mm×全高160mm 重量:35kg 行動時間:1.5~2.5時間 最高速度:時速10km(市街地)、時速2.3km(不整地) 搭載センサ:カメラ×前方3(内1個はズーム機能付き)
テロリストが立てこもる建物の内部状況を無人機で把握
次は、大型UGVの「CBRN遠隔操縦作業車両システム」。CBRN(シーバーン)とは、化学(Chemical)・生物(Biological)・放射性物質(radiological)・核(Nuclear)の頭文字を取ったもので、最後に爆発物(explosive)を加えて「CBRNE」(読みは同じシーバーン)とする場合もある。今回は、爆発物は前述した小型UGVに用途が割り当てられているため、含まれない形だ。
CBRN遠隔操縦作業車両システムは、CBRN汚染災害におけるガレキ・障害物除去などの初期対応および、汚染地域内の無人作業車両を遠く離れた非汚染地域から遠隔操縦可能(最大離隔距離20km以上)な大型UGVとして研究されており、期間は平成23(2011)年~平成27(2015)年度までとなっている(画像7)。
続いては、陸上無人機による「遠隔操縦式小型偵察システム」だ(画像8)。小型UGVと小型UAVの連携により、屋内などの狭隘(きょうあい)空間の偵察を実施し、屋内環境などの3次元地図の作成、暗視カメラ、放射線量計による計測値を地図上に重ねて表示する仕組みである。用途としては、テロリストが立てこもる建物の内部状況の把握や、CBRNE災害など通常装備では近寄れない災害が発生した建物などの汚染状況や計測などが考えられている。
小型UAVは2種類が考えられており、環境計測用は全長100cm×全幅90cm×全高100cm以下、重量は3kgというもの。観測用は、全長60cm×全幅60cm×全高30cm以下、重量は2.5kg以下とする。UGVのサイズ・重量に関するデータはない。なお、こちらも現在研究の真っ最中で、遠隔操縦支援機能として、3次元地図上での時期位置の表示可能な小型UGVの研究を、平成24(2012)年度~平成27(2015)年度までの計画で行っているところだ。
UGVとUAVの連携としては、UAV用誘導弾の「マイクロミサイル」を使った攻撃システムも紹介された。搭載ペイロードが限られる遠隔操縦プラットフォーム(UGV、UAV問わず)に搭載可能で、なおかつ個人が携行することも可能な他用途のマイクロミサイルシステムの研究も行われている。こちらも現在研究中で、期間は平成24年度~平成28(2016)年度。UAVとしては遠隔操縦ヘリコプターが例に出されており、マイクロミサイルの直径は約40mm、全長約500mmとしている。
画像7(左):CBRN遠隔操縦作業車両システムとその遠隔操縦のイメージ。画像8(中):小型UGV+小型UAVによる遠隔操縦式小型偵察システムのイメージ。画像9(右):UGVとUAVの両方で使用可能なマイクロミサイルの使用イメージ |
今後UUVのバッテリーを長持ちさせるための研究が進められる
次は、水上・水中をテリトリーとした研究。USVとUUVの水上と水中の無人機の連携による「無人航走体要素技術の研究」だ(画像10)。自律航走、並列航走機能を有し、海域の警戒監視および人的被害を回避した機雷などの捜索を行うためのUUVとUSVによる連携システムである。研究開発は平成21(2009)年度から始まっており、平成26(2014)年度まで。
画像10は、USVとUUVの連携を描いたイメージ図だ。母艦から通信衛星を介してUSVを制御し、そして電波の届きにくい水中のUUVに対しては、USVが経由して協調制御(相互のリアルタイムデータ転送)を水中音響通信によって行うとしている。UUVは水中情報を収集してそれを随時USVに送るのである。
そして「無人航走体要素技術の研究」と入れ替わるようにして、平成26年度~平成30(2018)年度まで研究が行われる予定なのが、大型UUVのための「長期運用型UUV用燃料電池」の研究だ(画像11)。水中航走体に適した燃料電池発電システムとして、小容積化、高効率化に関する技術、水中航走体内で燃料電池に燃料(水素ガス)などを十分かつ安定して供給する技術について研究が行われるとした。また、大型UUVの研究開発における技術的課題として、(1)長期運用における自律航行、(2)長期運用のための動力源が挙げられている。
また画像11についてだが、水中脅威の長期間警戒監視と水中機器などの長距離搬送のイメージが描かれている。対潜水艦戦支援用UUVは、長期間広範囲の無人警戒監視と指針度からのソナー発信が行えることが必要で、それを実現するためには(1)長期間かつ安定的な燃料供給、(2)高性能センサ搭載可能な大型ペイロード、(3)高出力かつ高効率な発電システムとなっている。
さらに水中機器搬送敷設用UUVに関しては、敵の脅威下における水中機器の隠密敷設が目的だ。そのためには、遠隔地から遠隔地からの高精度搬送敷設のための航法システム、水中機器を搭載敷設可能な大型ペイロードが条件となっている。
なお、講演で特に触れられたわけではないのだが、日本は科学用途として、すでに無補給の無人自律航走で世界記録の317kmを保持する深海巡行探査機「うらしま」を海洋研究開発機構(JAMSTEC)が開発済みで、現在も燃料電池技術の改良などが進められているところだ。先日、水中ロボットコンテスト(記事はこちらを取材した際に分解整備中のうらしまを見学させてもらったが、実は写真撮影はNGだった。
その時も、機密漏洩の話は出ていたのだが、実際、同じ日本国内の準軍事的な組織である自衛隊がUUVの研究をしているという話を聞けば、諸外国も当然研究を行っているのは想像が付くわけで、特に敵性国家なんかに盗まれた日には、元をたどれば日本の技術なのに、我々日本人が恐ろしい目に遭う可能性が出てくるのだから、改めて写真撮影がNGだったことが納得できた感じだ。優秀な技術の漏洩は、改めて非常に怖いというのを痛感するところである。
それにしても、科学の発展、深海という未知の領域を探索するための深海探査ロボットとして開発されている技術が、軍事力にも転用できるという「技術は使い方次第」という点も考えさせられるところだ。ただ実際のところ、JAMSTECが持つ水中用燃料電池技術や長距離の自律航走技術を、防衛省が「国防」という名目のもとに、自衛隊の装備のための技術として転用できるのかどうかまでは確認していない。もし転用できるのだとしたら非常に気掛かりだが、その一方で、別途予算をつぎ込んで同じ系統の技術を1から開発するというのも税金の無駄遣いのような気がしてならないので、何か複雑な感じである。