「印刷物を作る」という工程は、印刷機で刷れば終わりというものではない。そのあとには「断裁」「綴じ」「折り」という製本加工が待っており、それぞれの工程にしっかりとした技術を持ったプロフェッショナルがいる。

プロの仕事とは、刷り上がった"ナマ"の印刷物をより良く、美しく仕上げること。それは受発注者が直接顔を合わせることのない「印刷通販」という分野でも変わらない。そこで「まごころ印刷通販」を掲げるアルプスPPSで、製本加工のプロフェッショナルに「仕事へのこだわり」について伺った。

「後加工の同僚にスムーズな仕事をしてもらえること。それが断裁担当である私のモチベーションです」とアルプスPPSの薄井良和さん

「お前の強みは印刷を知っていることだけ」といわれた修業時代

「断裁のスタート地点は絵柄のチェック」と語る薄井さん

アルプスPPSで「断裁」を担当するのは、薄井良和さんである。薄井さんは、断裁という仕事に就く前から印刷業に携わり、自前で中古のオフセット単色枚葉印刷機を購入して単色機でカラー印刷を行うなどの難しい仕事にチャレンジしてきた。

しかし時代はバブル全盛期。単色機ではカラー印刷に時間やコストが掛かり、余力のある企業は設備投資が盛んで、価格競争も過熱化。単身印刷業を営んでいた薄井さんは「このまま印刷だけやっていては立ち行かない」と起業した印刷会社を畳み、同業の印刷会社に転職する。そこで出会ったのが「製本」という工程だった。

「やっぱり刷りモノが好きだったので、印刷というフィールドから離れることはまったく頭にありませんでした。でもどうせ転職するなら、違う現場も見てみたい。そこで製本工程を見て、強く興味を惹かれたのです」

当時、薄井さんが先輩の職人にいわれ続けたのが「お前の強みは印刷を知っていること」という言葉。印刷オペレーターとしての腕は一流。しかし、製本・後加工についてはまったくの素人だった薄井さん。配属先はすぐに「断裁」と決まったが、それ以前に製本の現場を知っておくことが必要だと、綴じや折りといった部門でも修行したそうだ。そこで体験した「職人の現場」は"目からうろこが落ちる"ことの連続。そして満を持して断裁機の前に立ったのだが、そこで薄井さんは「断裁の奥深さ」を知ることになる。

例えば、三つ折りのリーフレット用に断裁したときのこと。薄井さんは印刷された全紙(印刷されたばかりの紙)にあるトンボに合わせてきちんと断裁した。しかし折りの現場から聞こえてきたのは、「こんなんじゃ折れないよ!」という声だったのだ。

「最初はトンボに合わせて断裁しているのになんで? という気分ですよね。でも実際に折ってみると、確かに折れない。つまり、印刷物は印刷機や紙の状態によって伸び縮みがあるので、それを含めて断裁しておくことが私の仕事だといわれたわけです。いわれてみれば確かにそうだな、と。ただ、それからが試行錯誤の連続で、ようやく一人前かな、となるまで半年から1年はかかりました」

先輩職人にいわれた「印刷を知っていることが強み」という言葉の意味は、「印刷機のクセや特徴を知っている」ことに加え、「デザイナーが意図する仕上がり」を知っていること、そして「絵柄を合わせる」ことだと理解した薄井さんは、そこから「トンボより絵柄」を重点に置いて、断裁を行うようになる。……続きを読む。