冊子やチラシ、カタログ、ポスターなどの印刷を高品質かつ低価格で提供する印刷会社であり、印刷ネット通販サービスも展開する「アルプスPPS」が、新戦力としてUV印刷専用のハイデルベルグ製オフセット印刷機を導入。前回は、その搬入の模様をレポートしたが、今回は搬入して約1カ月が経過したアルプスPPSに足を運び、試し刷りを開始した同印刷機の特徴や今後の展開などの話をうかがった。

UV印刷と従来の印刷との違い

まず最初に、今回導入された印刷機の特徴をおさらいしてみよう。同印刷機は、ハイデルベルグ製オフセット印刷機「スピードマスター SM102」を8ユニット構成にして、最新の省電力型UVシステム「LE UV」(Low Energy UV)を搭載した「SM102-8-P+LE UV」。4色刷り(CMYK)の自動両面印刷が行える8ユニット構成であり、紫外線の照射によって硬化するUVインクを使用するのが特徴だ。

今回導入された「SM102-8-P+LE UV」。印刷速度は1時間に8,000枚で、印刷物にもよるが最高で1時間に1万3,000枚の印刷も可能という

従来の油性インクは、完全に乾くまでに約1日ほど掛かってしまうが、UVインクを使う同印刷機は、片面4色を刷った時点で紫外線を照射して硬化(完全に乾いた状態)させ、残りの片面を印刷した後も紫外線を照射し硬化させている。つまり、印刷機から印刷物が排紙されたときには、既に両面のインクが乾いた状態なのだ。

インクを硬化させるための紫外線ランプの光が印刷機からわずかに漏れている。紫外線は片面4色分のユニットを通過した後に照射するため、8ユニットの同印刷機には2カ所にランプが設置されている

なお、同印刷機はUV印刷専用となっているため、UV照射も印刷工程に含まれており、UV照射を行わずに印刷物が排紙されることは無い。油性インクを使用する印刷機の場合は、排紙前に裏付き(未乾燥の印刷物同士がくっ付いてしまうこと)を防止するパウダーの散布スプレーが搭載されているが、UV印刷専用の同印刷機にはパウダースプレーが搭載されておらず、油性インクを使った印刷は行えないようになっている。

インクが固まらないように自動で拡販する機能を搭載。蛍光灯の紫外線でも固まってしまうため、印刷機の上にはUVカットタイプの蛍光灯が使用されている

使用するUVインクは国内メーカーの「T&K TOKA」製。価格は通常の油性インクの2倍以上だ

UV印刷専用の新型印刷機導入の経緯は?

アルプスPPSはオープンして約1年。当初は、油性インクを使った印刷機のみで業務を開始したが、短納期を求める顧客が多いと感じていたという。極端な話では、翌日納品という希望もあったそうだ。しかし、油性インクは乾燥時間を最低でも半日は取らないと、切ったり折ったりする加工はもちろん、束ねて縛ることさえできない。そんな中で、他の印刷会社は短納期のニーズに応えるためにUV印刷を導入し始めていた。

今回の導入した機種を選択した理由は、同社がもともとハイデルベルグユーザーで、ほとんどの機械をハイデルベルグで固めていた、という経緯がある。国内メーカーの印刷機も導入して使ってみたが、社内では「ハイデルベルグの機械が良い」という声が圧倒的に多かったそうだ。そして、前回の「DRUPA」(国際総合印刷機械展 : ドイツで開催)に展示された同印刷機の導入が決まり、インキ元ローラーに改良が施されたタイプとしては世界初の第1号機として同社に納入されたのだ。

印刷機制御用コンソール。印刷物からインク濃度の計測して、その結果をグラフとして表示することが可能。さらに、インク濃度の動きを見てフォードバックをかければ、設定した濃度へと自動的に調整してくれる。最近の印刷機はコンピュータ制御が進んでおり、操作は複雑化しているが印刷機の制御は楽になっているという

新型印刷機導入後のスタッフに話を聞いた

同印刷機のオペレーターは、「UV印刷は今まで体験したことがなく、これまでは油性インクを使用する従来の印刷に携わってきました。油性インクを使う印刷機とは異なる部分が多いので、その違いを事前にリサーチして万全の準備で臨んでいます」と語っていた。

同じくオペレーターに従来の印刷機との違いを聞くと、「油性インクは乾燥までに時間が掛かるため、ある程度は紙に吸収されて艶が出ます。しかし、UVインクは紙に付着した直後に硬化処理が行われることもあり、艶が出ず、見え方が異なってしまう場合もあるので、慎重に濃度管理などを徹底して行っています。機械の特性を活かした印刷フローの構築に励んでいきたいと思っております。」とのこと。ちなみに、同印刷機の稼働に必要な人員は、オペレーターと助手の2名で済むそうだ。

同印刷機のオペレーター

印刷物の加工担当

印刷物の加工担当者は、「印刷物を折ったり切ったりする加工作業では、印刷物の移動にローラーやコロを使用しています。その際、UV印刷は乾きが速いので作業がしやすく、機材等にくっ付いたりして印刷物にキズが付かない、というのが大きな利点ですね。本来なら、刷った後に1日乾かして加工は次の日になりますが、UV印刷では印刷直後に加工が行えるので、作業効率も上がります」とコメントしている。

アルプスPPSの今後の展望

今後について語っていただいた、デジタル統括部統括課長の羽田紳一郎氏

アルプスPPSではUV印刷導入によって、これまでは物理的に無理だったスケジュールが可能となり、今まで断るしか無かった短納期発注の受付を開始する。具体的には、現在の最短納期は翌営業日発送だったところが、UV印刷サービスの正式な開始後には、当日発送のコースを設ける予定だ。

また、従来は油性インクが乾燥するまでの時間を確保するために、納品日の前日に印刷を終わらせる必要があった。UV印刷では、印刷機のオペレーターが夜遅くまで残業しなくても次の日に持ち越し可能となったため、従業員の負担軽減、コストの削減、スケジュールが立て易いといったメリットもあるという。

UV印刷の正式なサービスは始まっていないが、1カ月ほど前からWebサイトでアナウンスを行ってきた結果、「発注当日に納品まで行って欲しい」「何時から始まりますか?」という問い合わせが、かなり来ているとのこと。今回導入した印刷機は、納期が短い発注や、絵柄が多くて乾きにくい紙を使用するチラシやポスターの印刷に使用する予定となっている。