極限環境下における作業のための装着型ロボット

最後は、(3)の「災害対策用ロボットスーツHAL(災害対策用HAL)」。こちらもSakuraと一緒に2012年10月に発表されているが、その時はあまり触れなかったので、紹介しておく(画像43~47、動画11)。災害対策用HALは、福島第一原発の建屋内のような、高放射線や高温多湿といった極限環境下において過酷な復旧作業を行う場合、作業員の安全や健康を確保するために開発された装着型ロボットだ。

画像43。災害対策用ロボットスーツHAL

画像44。災害対策用HALを後方から

画像45。背面の装備。クーリング用にファンを稼働させると、かなり騒音がする

画像46。腰の部分。装備が重そうだが、すべてHAL本体が引き受けるので、装着者には余分な重量はかからない

画像47。ヘルメット
動画11。災害対策用HALの階段の昇降と歩行など

タングステンなどの防護装備により作業員のガンマ線被ばく線量を低減しており、またそうした防護装備や高温多湿環境によって作業者の体温上昇が上がることが想定されることから、高密度ポリエチレン不織布内へ冷気を直接送風することにより、作業者の体温上昇を抑え、熱中症を未然に防ぐようになっている。そしてさらに念を押して、作業員の胸に取り付けたセンサで、心拍、体温、加速度などのバイタルセンサをモニタリングできる形だ(画像48)。

装着者に装備の重量負荷がかからないように設計されているので、最初に開発された福祉用HALと比較すると少々重そうなイメージだが、決してそのようなことはない。背中のクーリングシステムなどもすべてフレームに重量がかかる仕組みだ。ちなみにファンが回っていると結構な音がする。また、取材の時のような通常の環境なら、クーリングしなくても問題ないという。そのほか、動きにくそうなイメージだが、少々無理なポーズにも追随できるところも披露されている(画像49)。

画像48。災害対策用HALは、装着者のバイタルセンサをモニタリングする仕組みを備えている

画像49。こうしたポーズも可能。極力装着者の動きを追随する

実際の現場で役に立つロボットをどうやって開発するのか

そのほか、シミュレータにも若干関連するのだが、各企業においては、原子力発電所内の急勾配の階段などを模した大型の評価用モックアップも製作され、実機の開発に利用された(画像50)。今回のロボットの開発は、実際に現場で役に立つことを特に重視しており、評価用モックアップはとてもリアルに作製されている。記者発表の際も、千葉工大内の評価用モックアップが利用され、各ロボットによるデモンストレーションが行われた。なお、Sakuraに先導してもらいながら、階段を上ってみた様子はこちら(動画12)

画像50。評価用モックアップ全景
動画12。Sakuraがモックアップの階段を昇り降りするのを一緒に昇り降りしながら撮影

評価用モックアップには2つ階段が設けられており、1つはUの字(途中の踊り場で180度折り返す)、もう1つLの字(途中で90度直角に曲がる階段)となっている。階段の幅は福島第一原発の建屋内の階段と同様に90cmと70cmの両方が用意され、角度も40度から45度まで可変可能だ。そのほか、塗装の種類も原発と同様に除染がしやすいものがあえて施されており、濡れた場合に滑りやすい状況などが再現されるようにしてある。ちなみに、千葉工大のものに関しては、遠隔操作ルームも設置されており、現場同様にモニタ越しに階段などを見てより実践的な訓練ができるようにしてあった。

以上、すでに発表されたものも含むが、今回の「災害対応無人化システム研究開発プロジェクト」の発表会で紹介されたロボットたちである(画像51)。同プロジェクトは2012年度で終了となるが、NEDOでは、今後も同プロジェクトの成果が被災現場に実際に投入され、課題の解決に活かされるよう、経済産業省を初めとする関係機関、企業と協力していくと同時に、日本のロボット技術のさらなる向上、ひいてはロボット産業の競争力の強化と発展に努めていくとしている。

画像51。今回紹介したロボットとその関連技術たちの集合写真

正直、なかなか福島原発の作業は進められない状況のようなので、こうしたロボットテクノロジーを実際に現場に1日でも早く導入してもらいたいと思わずにはいられない。日本のロボットテクノロジーはシーズはあるがニーズがない、などとよくいわれるが、これら一式が実際に役に立つとわかれば、今後世界的に増加する原子力発電所の廃炉作業や、万が一の原子力災害(これ以上どの国でだろうと起きてほしくないが)などへの対応として、売り込むこともできるかも知れない。

よって、ここはよくある「作っておしまい」ではなく、関係者の皆さんにはぜひともきちんと現場に投入できるようになるまで、ロボットをさらに磨き続けていただきたいところである。とてもよくできたロボットたちだと思うので、具体的なニーズが見えているのだから、そのためにも今後もぜひ頑張ってもらいたいところである。「日本のロボットはやっぱりすごい!」を世界に轟かせてほしい。