良い「モノ」を作るための良いものづくりの在り方とは

2011年3月11日に発生した東日本大震災は産業界にも大きな打撃を与え、工場の復旧のみならず、サプライチェーンの寸断、人的被害など、現代日本のものづくり分野が抱える多くの課題を浮き彫りにした。また、グローバル化する世界経済における欧州の財政危機などを背景とする経済状況の軟化と急速な円高の進行により、日本の産業界は2重の苦難に直面することとなっている。

その一方、従来の製品よりも高機能かつ高性能な電気自動車(EV)やスマートフォン/タブレットなど、新たなカテゴリの製品が登場してきており、ものづくりの在り方も、グローバルな資材調達、パートナー連携によるグローバル市場への進出と、それに見合った製品管理と製造プロセスの構築など、それを取り巻く環境の複雑さが増すばかりである。これは何も、最終製品を販売する大企業だけに限ったことではない。初期iPodの鏡面外装を新潟県の燕市の職人が行っていたことは有名だが、地方の中小企業でも技術があると知れれば、海外からもビジネスの依頼が来るようになり、否応なくグローバル化に巻き込まれることとなってきているし、東日本大震災と長引く円高を契機に、利益が出にくい国内での工場の操業をあきらめ、海外へ活躍の場を移そうと検討する中小企業も出てきている。

こうした世界規模でのものづくりに対する変化は複雑さを増しつつ、止むことのないグローバル化により今後、さらに複雑なものへと変化していくだろう。こうした増大する"ものづくりに対する複雑化"にどう対応していくのか、その解としては「複雑性を管理する」と行為を行うことが挙げられる。それは何もすべてのパーツなどを集めて最終的に商品に仕立てる大企業が行うだけでは不適切で、その製品を生み出すために連携する大中小すべての企業が協調して行う必要がある。

複雑化するさまざまな要因の代表例(左)。持続可能性(サステナビリティ)の項目1つだけを見ても、対応する事柄は次々と増えていっている(右)(資料提供:シーメンスPLMソフトウェア)

また、複雑化とグローバル化の進展と並ぶ形で、単にモノを作れば売れるという時代は終わりを迎えており、そのモノを使うとユーザーはどのような価値を得られるのか、つまりそのモノを通してどのようなライフスタイルを生み出せるのか、ということを提案する力がよりビジネスの勝敗を決するようになってきている。デザイン、機能、UI、そして使っているときの心地よさ、ワクワク感。こうした定量的に示せないものを、複雑化が進みながらも、短TAT化が求められるものづくりの現場でどうやって提案していくのか。こうした商品の設計、製造、エンドユーザーからのフィードバックといった横の連携と下請け、孫受けなどとの縦の連携、そして複雑化を併せて管理できる答えの1つに「PLM(Product Lifecycle Management)」の活用がある。

ものづくりの始まりから終わりまでを見るPLM

PLMは大企業が、コンポーネントやソフトなどを組み合わせて、管理するのもだろうと思う方もいると思うが、残念ながら、それはPLMの1つの側面しか見ていないものの言い方である。

PLMは日本語に乱暴に訳せば、"製品の誕生(企画)から死ぬ(廃棄される)までの一生を知ること"に相当する。ユーザーの手に渡った後は、ユーザーが自由に使ってもらう。それは当然だが、だからと言って、売ったらお終い、というのはもはや現在のものづくりには通用しない。使い勝手が悪ければ、すぐにネット上でその製品のネガティブな話題であふれることになるし、それは強力な製品の改良ニーズとして設計、製造側に戻ってくる。

そして開発チームには、そのフィードバックを受けて、何が問題なのか、どうすれば改善できるのか、どの程度の速さでそれが実現できるのか、といった要求を突き付けられることとなる。センサやマイクの感度をもっと上げてもらいたい、キーのストロークを硬く(柔らかく)してもらいたい、ボタンの位置が使いづらいといったハード的なものから、UIが使いづらい、デザインが悪い、色が悪いといったようなソフト的なものまで、ありとあらゆる要求をユーザーは出してくる。

こうしたニーズのすべてに対応することは難しい。だが、それをしなければ製品競争に負け、その市場からの撤退を余儀なくされるというジレンマは良くある。市場で勝つためには先行者利益の獲得を目指した開発の短TAT化と製品の立ち上げの早期化、そして製造終了までの期間をできる限り長くすることが求められる。もう1つ、そうして得たノウハウを次の製品開発に向けて蓄積していく必要もある。

製品の立ち上げ時期を早め、利益を得る期間を出来る限り長くし、製品の販売寿命を伸ばすためには、様々な部門や分野の企業が連携していく必要がある(資料提供:シーメンスPLMソフトウェア)

こうしたものづくりのすべて領域をカバーしようというのがPLMの大きな趣旨である。この表層だけ見ると上述した最終製品を販売するメーカーが活用するようなイメージとなるが、実際にコンポーネントやバルブ、ネジ1つまで考えるとすべてを商品の販売メーカーで製造しているわけではなく、下請け、孫請けといった中小企業がそれを担当している。真のPLMは、そうした企業まで含めた複雑性の管理を目指すものと言えるだろう。

最適化はものづくりのチェーン全体で行わなければ歪みが生まれ、やがてそこが再びボトルネックとなる。複雑に絡み合う様々な要因をどう全体で最適化を実現するのか。力技では到底無理であり、そこにITの力を、ということになるが、ものづくりにおける代表的なものがPLMの活用ということになる(資料提供:シーメンスPLMソフトウェア)