2010年10月19日に東京工業大学(東工大)において「第1回 GPUシンポジウム2010」が開催された。同シンポジウムを主催した東工大の学術国際情報センターは、2008年にNVIDIAのTesla 10を680台増設したスーパーコンピュータ(スパコン)「TSUBAME1.2」を稼働させており、GPUを使用する大規模クラスタに関しては世界の先端を走るスパコンセンターとなった。そして現在では、Tesla 20 GPUを4224台使用し、ピーク性能2.4PFlopsと国内トップとなるスパコン「TSUBAME2.0」の2010年11月稼働を目指し、最終調整を進めている。

GPUシンポジウムの主催者である東工大 青木教授

東工大はGPUの普及活動にも熱心で、毎月1回のGPUコンピューティング研究会でのCUDAプログラミング講習会などを実施しているが、今回は、GPUコンピューティングの利用者からの発表を集めて、ユーザ相互の情報交換という位置づけで第1回のGPUシンポジウムが開催された。 基調講演はNVIDIAのGPUコンピューティングの生みの親とも言えるDavid Kirkフェローが担当し、それに続いて13件もの発表が行われた。また、会場も満員であり、GPUコンピューティングに関する関心の高さがうかがわれた。

基調講演を行うNVIDIAのDavid Kirkフェロー

"From Graphics to Computing"と題するKirk氏の基調講演は、Graphicsによる本物らしい描画の追及のためにGPUが発展してきた過程を振り返り、その過程で汎用シェーダが出現し、次第に科学技術計算にも用いられるようになり、科学技術計算での使いやすさなどを追及して現在のFermi(Tesla 20)になってきたと述べた。しかし、描画に関してもこれで終わりではなく、さらに迫真性を増すにはRay Trace(レイトレース)、それもピクセルあたり数百以上の光線をトレースする必要があり、Motion Blur(モーションブラー:動いているものがブレて見える)やAmbient Occlusion(アンビエントオクルージョン:隅の方が暗く見える)などの効果を出すには、もっと計算能力が必要になる。そして、その先は、計算シミュレーションの結果を可視化するという科学技術計算とグラフィックスが融合した分野が重要になるという。

また、GPUは単に科学技術計算を速く実行するだけではなく、その性能の高さから質的改良をもたらす。その例としてイリノイ大のWen-Mei Hu教授のナトリウムの分布を描画するMRIについて説明した。通常のMRIは水素原子の分布を測定し、組成の違う骨、血管、内蔵などを区別して映し出せるが、組織が健康であるか異常であるかは分からない。これに対してナトリウムの分布を測定すると組織に病変が出る前に異常の先駆現象を検出することができ、手術がうまく行って回復しつつあるのか、あるいは失敗で組織が死につつあるのかが早く検出でき、失敗の場合はリカバリの手を打ちやすくなる。

問題は水素に比べて体内のナトリウムの量は微量なので従来の検出法では十分な感度が得られない。これに対して計算量は大きく増加するがS/N(シグナル/ノイズ比)の高い計算をGPUを用いて行うことによって、現実的な計算時間でナトリウムを検出するMRIが可能になったという。

脳内のナトリウムの分布を示すMRI画像

このような経験や観察から、今後のGPUの主要な適用分野として、次の6つの分野を挙げた。

  1. DirectXなどの計算によるグラフィックス
  2. 科学技術計算
  3. イメージ処理(ビデオ、イメージ)
  4. コンピュータビジョン、計算フォトグラフィ
  5. 自然言語の会話認識
  6. データマイニングと機械学習

そして、GPUはプログラミングが難しいと言われることに対して、本質的に難しいのは並列プログラミングで、その原因は大学で並列プログラミングを教えていないことにあるとする。そのため、NVIDIAは並列プログラミングの教育に力を入れており、現在では、世界の334大学でNVIDIAのGPUを使った並列プログラミングの教育が行われるようになっているという。