評価キット

さて、内部解説も終わったことだしアプリケーションベンチマークの結果を示す前に、一応今回利用した評価キットの内容を説明しておく。

まずCPUであるが、これは何度も書いているようにPhenom 9900である。一応扱いとしてはES(Engineering Sample)であるが、パッケージ表面はこの様に製品風のOPNが印刷されていた(Photo02)。フル稼働時は200MHz×13倍の2.6GHz駆動、CnQを利用すると待機時には半分となる200MHz×6.5倍の1.3GHz駆動となる(Photo04)。

Photo02:OPNはZD260114J4Bとなっているが、同じPhenomでも9500はHD9500WCJ4B、9600はHD960ZWCJ4BもしくはHD9600WCJ4Bとなっており、Zで始まるあたりがES品であることを示している。

Photo03:これがフル稼働時。Core Voltageは1.296Vを示している。

Photo04:待機時は1.040Vまで電圧が下がる。

これと組み合わせて今回利用したのがASUSTeKのM3A32-MVP Deluxe(Photo05)。MempipeやWiFi-APまで持ったハイエンドのASUSTeK M3A32-MVP Deluxe/WiFi-APはこちらで紹介されているが、ここからCool MempipeとWi-Fi用カード/アンテナを取り去った構成と考えれば良い。現時点での価格は\33,000~\34,000といったあたりで、ハイエンドマザーボードとしては常識的な価格帯に納まっている。

Photo05:4本のPCI Express x16スロットを持つ構成。オンボードデバイスは、ハイエンドマザーとしても常識的な範疇。

このマザーボードであるが、やはりPhenomの消費電力の多さに対応してか、EPS12Vの2x4の補助電源コネクタが装備されている(Photo06)のはちょっと注目である。これまでSocket AM2のマザーボードはATX12Vの2x2補助電源コネクタのみを装備するのが一般的だったが、Phenomでは流石にEPS12Vで無いと持たないのかもしれない。CPUへの電源供給は10-Phaseになっている(Photo07)。ただSocket AM2+からはSplit Power Plane(CPUコアとそれ以外で別々に電源を供給する方式)の構造をとっているため、CPUコアに8-Phase、CrossBarやL3キャッシュ、Memory Controllerなどに2-Phaseという割り振りになっているようだ。

Photo06:通常の利用では半分だけを使ってATX12V相当で動作できるが、必要なら2x4のEPS12Vを接続できるようになっている。勿論今回はEPS12V電源を使った。

Photo07:何も8-Phaseにしなくても、4-Phaseで各Phaseの供給電力を2倍にしたほうが制御が楽では? という気もするのだが、それを敢えて8-Phaseにしなければいけないほどに、Phenomは電圧変動にセンシティブなのかもしれない。

それ以外のオンボードデバイスについては石川氏のレビューと重複するのでここでは割愛するが、PCI Expressについてちょっと説明をしておく。AMD 790FXはPCI Express x16レーンを2本出すことが出来る。なので、PCI Express x16スロットが2本であれば何も考える必要はない。ところが今回の様に4スロットある場合、これをどう配分するかが難しい事になる。解決策はいくつかある。

図3

王道は図3の様にPCI Express Switchを噛ますという、SkullTrailと同じ方法である。ただPCI Express Switchを必要とする分、どうしてもこれはコスト上昇につながる。配線数も増えるので、こちらに起因する基盤コストの上昇も考えねばならない。

図4

逆に一番安く済むのは、図4の様に配線を初めからx8相当に分割するやり方である。これは配線も最小で済むし、PCI Express Switchに起因するレイテンシの増加も起きない。ただ、CrossFireを構成する場合はともかく、ビデオカードが1枚しかない場合でもx8で接続することになってしまうのが欠点である。

図5

そこでM3A32-MVP Deluxeで採用されたのが、図5の様な方式である。つまりビデオカードが1枚の時にはx16レーンを1本のスロットに供給し、2枚の時は両方にx8レーンを供給する形だ。この場合の欠点は、1枚しか装着しない場合でもレーンによってx16の場合とx8の場合があることだが、まぁこれは装着する場所を選べば済む、ということだろう。

Photo08:以前はこうしたスイッチではなく、カードを使って物理的に配線を切り替える(例えばこちら)事が多かったが、流石にこれはスマートではないと判断されたようだ。

Photo08を見ると、PCI Expressスロットは右から順に1/2/3/4となっているが、スロット1/3の右脇に小さなチップが並んでいるのがお分かりだろうか? このチップは文字通りの"Switch"として動作する。通常Switchと呼ぶ場合、それはSwitched Fablicの意味が多いが、今回は単純なSwitchである。

Photo09:配線から判断すると、2切り替えスイッチを4つ封入したパッケージという感じである。これ1つでPCI Express x2レーン相当を賄えるので、これが4つでx8というわけだ。

今回の場合、ここで利用されるのはASUSTekの子会社である台湾ASMedia TechnologyのAS1430である。このASMedia TechnologyはFabless Foundaryというよりは、正確にはDesign Houseというべきか。DTVコントローラとかプロ向けAudio Processorなどをリリースしたり、SoC向けにMIPS32のライセンスを受けたり、と傍から見ている限りはIC Design全般に関わっている感じである。最近だとVIAでChipset Businessを率いていたChewei Lin氏が退社してこのASMedia Technologyに参加するという話がDigiTimesで報じられるなど、もう「何でも屋」という雰囲気だ。このASM1430にしても、汎用品を持ってきたというよりは、5GHzの信号を取り扱えて安価なSwitchをこのために製造したという観が強い。

Photo10:ASM1430×4のそばにこのASM8283が配される。こちらはSingle Endの信号になっており、PCI Expressの信号を直接扱うわけではなさそうだ。

ちなみにこのASM1430を制御すると思しきコントローラがこちら(Photo10)のASM8283である。というわけで、図6にこのPCI Expressスロット周りの推定配線図を示す。

図6

実際、2枚のRADEON HD 3850を用意し、

  • Slot1/Slot3のどちらかに1枚だけ装着(Photo11)
  • Slot1/3に1枚づつ装着(Photo12)
  • Slot1/2に1枚づつ装着(Photo13)
  • Slot2/Slot4のどちらかに1枚だけ装着(Photo14)

してCatalyst Control Centerから情報を見てみると、この推測を裏付ける結果になっている。

Photo11:Slot1ないしSlot3に1枚だけ装着すると、問題なくどちらのカードもx16相当になる。

Photo12:Slot1/3の組み合わせでも、やはりどちらのカードもx16相当のまま。

Photo13:Slot1/2、あるいはSlot3/4の組み合わせにすると、帯域がどちらもx8に減る。

Photo14:Slot2/4のどちらかに1枚、あるいはSlot2/4の両方に1枚という組み合わせは、いずれもx8となってしまう。