3年ぶりに多くがリアル会場での開催となった国内最大級のIT関連展示会イベント「CEATEC 2022」。その中にはローカル5Gに関連する展示がいくつかなされていましたが、以前と比べるとその勢いはやや落ちているように見えます。なぜでしょうか。→過去の次世代移動通信システム「5G」とはの回はこちらを参照。

3年のうちに新技術ではなくなったローカル5G

長らく続いたコロナ禍で、中止やオンラインでの開催を余儀なくされてきた多くの展示会イベント。しかし、コロナ禍の影響が落ち着いてきたことから海外だけでなく、国内の大規模展示会イベントもリアル開催を本格的に復活させるケースが増えているようです。

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とりわけ国内のITに関連するイベントとして大きな存在となるのは「CEATEC」でしょう。CEATECもコロナ禍の影響が深刻化した2020年からはオンラインでの開催に切り替わっていましたが、それが落ち着いた2022年は久しぶりに、千葉県の幕張メッセでのリアル開催となっています。

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    3年ぶりにリアル開催が復活した「CEATEC 2022」。規模はやや縮小したが多くの企業などが大規模なブースを構え、自社技術の展示を実施していた

まだ、コロナ禍から完全に明けていないこともあってカンファレンスなど一部は、オンラインの開催となっており、2019年と比べれば規模は縮小していましたが、それでも久しぶりのリアル開催とあって多くの人が訪れたようです。2023年はより本格的な復活が進むことに期待したいところです。

そのCEATECで5G関連の注目要素といえば、やはりローカル5Gに関連する取り組みではないでしょうか。

コロナ禍前の2019年は5Gのサービス開始直前ということもあって、ローカル5Gに関する各社の展示も大きな盛り上がりを見せてきましたし、オンライン開催だった2年の間も各社のローカル5Gに関連する取り組みが多くアピールされていました。

では2022年、CEATECでのローカル5Gは盛り上がっていたのかと言いますと、正直なところローカル5Gに関連した展示をする企業自体は減少しており、2019年と比べればイベントの中でもあまり目立つ存在となってはいない印象を受けました。

これまでローカル5G関連の展示に力を入れていた富士通や京セラなどのブースでも、関連する展示を見ることができませんでした。理由としては、やはりCEATECが各社の製品やサービスをアピールする場から研究開発中の新技術をアピールする場となりつつあることから、すでにサービス提供が始まっているローカル5Gの関するアピールの場とはなりにくかったことが考えられます。

実際、今回のCEATEC 2022の展示を見ますと「METERVERSE EXPO JAPAN 2022」の展示が大きな面積を占めるなど、注目を集める新技術の展示に多くのスペースが割かれていた印象です。

NECの小型基地局が受賞、関心は依然高く

しかし、イベント全体でローカル5Gの存在感がまったくなかったのかというと、そうではなく、依然高い関心が寄せられている様子は見て取ることができました。

とりわけそのことを象徴していたのが、「CEATEC AWARD 2022」で総務大臣賞を受賞したNECのローカル5G向け小型基地局「UNIVERGE RV1200」です。これは第61回で紹介したローカル5G向けの小型基地局で、無線部と制御部を一体化して小型軽量化を実現しただけでなく、サブ6の周波数帯のみに対応したことで低コスト化し、100万円を切る価格を実現したというのが大きなポイントとなっています。

ローカル5Gを展開する企業は規模が小さく、そうした規模に見合った低価格の機器が存在しないことが普及を阻む大きな壁となっていただけに、ローカル5G環境を安価に構築するのに貢献したことがUNIVERGE RV1200の高評価につながったようです。

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    NECの「UNIVERGE RV1200」は「CEATEC AWARD 2022」で総務大臣賞を受賞。ローカル5Gの課題となっていた基地局コストの高額さをクリアした点が評価されたようだ

他にもローカル5Gに関連する展示をする企業はいくつか見られました。中でもローカル5Gの利用を広げる上での課題解決に取り組んでいるのが東芝で、同社は今回のCEATECに合わせて分散型アンテナシステム「DAS」(Distributed Antenna System)を展示していました。

ローカル5Gはビルや工場など建物内で利用されるケースも多いですが、その場合課題となるのが電波をより多くのエリアに届けることです。

もちろん、基地局やアンテナを複数設置すれば問題は解決するのですが、その分高額な基地局を複数導入しなければならず、コストがかかってしまいますし、敷地外に電波が漏れて近隣のローカル5Gネットワークに影響を与える可能性もあります。

そこで、DASは基地局からの電波を光ケーブルを通じて親局から中継器、そして子機へと送信、子機に接続したアンテナから再び射出することで壁で遮られた場所や異なる階などに電波を届けやすくなるとのこと。

建物内を低コストでカバーすることが求められるローカル5Gのエリア構築をする上で重要なソリューションとなりそうです。

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    東芝が出展していた分散型アンテナシステム「DAS」。ローカル5Gの電波を光、ケーブルを通じ壁を隔てた場所に届けやすくする仕組みだ

そのほかにも、NECやアルプスアルパインがローカル5G対応の端末を展示するなど、端末のバリエーション不足解消に向けた取り組みも進められているようです。

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    アルプスアルパインが出展していたローカル5G対応デバイス。車載向け5G対応通信モジュールを開発した実績を生かし、過酷な場所でも動作し続けられる高信頼性の実現に力を入れているとのこと

各社の努力によって設備面での環境改善自体は進められつつある様子は見て取ることができるだけに、それらを活用してローカル5Gの具体的な実用化事例が増えることが大いに期待されるところです。