米マイクロソフトは10月13日から14日(現地時間)にかけて、開発者・エンジニア向けの年次カンファレンスである「Microsoft Ignite 2022」をオンラインとリアルによるハイブリッド形式で開催している。同イベントでは同社の製品・サービスの新機能・活用法、ITやビジネスにまつわるトレンドや最新のトピックスを紹介しており、一部のセッションはオンデマンドでの視聴が可能だ。

同期間には、日本独自のイベントとして「Microsoft Ignite Spotlight on Japan」が開催され、50を超える日本語での独自セッションが行われている。

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10月13日には日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長の岡嵜禎氏が、「Microsoft Cloudで実現する知的生産性の向上」と題したキーノートセッションで、マイクロソフトのクラウドソリューションの活用事例やテクノロジーの特徴を紹介した

  • 日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長 岡嵜 禎氏

    日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長 岡嵜 禎氏

講演の冒頭で、岡嵜氏は「キーワードは『Do more with less』で、Microsoft Cloudを活用することでより少ない時間、より少ない資源で、より多くの価値を実現できると考えている。オープンで拡張可能なクラウドをベースにしたさまざまなサービスを活用することでビジネスアジリティを向上させられる。また、統一されたデータプラットフォームによってデータから新たなインスピレーションを得ることで、開発や運用の効率を向上できる」と語った。

「Microsoft Cloud」の業種特化型ソリューションの活用事例を紹介

Microsoft Cloudは、「セキュリティ」「インフラストラクチャ」「デジタル&アプリ イノベーション」「データとAI」「ビジネスアプリケーション」「モダンワーク」の6つの領域において同社のソリューション群を統合的に提供するサービスとなる。

また、同サービスでは金融、医療、製造、非営利団体、小売、持続可能性など、特定の業界・業種向けの特化型ソリューションもリリースしている。講演では業種特化型ソリューションの活用事例が紹介された。

2022年7月に北海道電力から発表された火力発電所における巡視点検業務用のアプリケーションの開発事例では、Microsoft HoloLens 2(HoloLens 2)とAzure Spatial Anchorsが利用されている。同時例はMR(Mixed Reality)を活用したもので、HoloLens 2にデジタルコンテンツを表示し発電所の設備点検の効率化や技術承継の課題解決を目的としたものだ。

また、スタートアップによる新たなサービス開発においても同社のクラウドソリューションは活用されている。ファミリーマートがバックヤードにおける飲料陳列業務の自動化のために導入したTelexistenceのロボットソリューションのシステム基盤にもMicrosoft Azureが活用されている。同事例では、インターネットを通じて人が遠隔からロボットを操作することも可能で、過去の販売実績データを学習して陳列タイミングの最適化も行っているという。

「エンタープライズとスタートアップが融合するビジネスは今後も積極的に支援していきたい」と岡嵜氏。

  • ファミリーマートで利用されているTelexistenceのロボットソリューション

    ファミリーマートで利用されているTelexistenceのロボットソリューション

併せて岡嵜氏は、2022年6月から7月にかけて開催された「Interrop Tokyo 2022」のローカル5G環境の構築において、通信事業者とシステムインテグレーター向けのサービスであるAzure private MEC(Multi-Access Edge compute)が利用されたことを明かした。

マイクロソフトでは、現在もさまざまな業界に合ったリファレンスアーキテクチャやソリューション開発を継続しているという。

  • 「Interrop Tokyo 2022」ではAzure private MECを利用して、2週間でローカル5G環境の構築が行われたという

    「Interrop Tokyo 2022」ではAzure private MECを利用して、2週間でローカル5G環境の構築が行われたという

クラウド利用がグローバルに拡大する中、米マイクロソフトは現在、60以上の拠点でクラウドビジネスを展開している。安定したクラウド環境の提供のため、200以上のデータセンター群を保有し、世界でも最大級の光ファイバーネットワークを自社で保有している。

「そうしたインフラの下で、ユーザーはグローバルに、スピーディかつセキュアにビジネスアプリケーションを展開できる。また、Microsoft Azureはクラウドからエッジまで包括的なソリューションを提供しているが、どのような適用形態であっても、ID、セキュリティ、開発基盤、データなどを同じテクノロジーの下であつかえるため、開発・運用も効率化できる」(岡嵜氏)

ガバメントクラウド担当者がマイクロソフトに期待すること

国や自治体が提供するサービス基盤としてもクラウドの活用が進む。国内では日本政府の共通クラウド基盤である「ガバメントクラウド」の整備をデジタル庁が推進している。ガバメントクラウドは、マイナンバーやマイナポータル、GビズID、デジタル田園都市構想など、「デジタル社会実現のための重点計画」の下でデジタル庁が進める施策の1つだ。

講演では、デジタル庁 Head of Government Cloudの梅谷晃宏氏がゲスト登壇し、「ガバメントクラウドは国民のみなさまに近いサービスを支えるためのインフラだ。IaaS、PaaS、SaaSと主要なクラウドサービスを揃えることで、価値あるサービスを迅速・柔軟・セキュアに、かつコスト効率高く提供していくことを目指している」と説明した。

  • デジタル庁 Head of Government Cloud 梅谷晃宏氏

    デジタル庁 Head of Government Cloud 梅谷晃宏氏

梅谷氏が率いるガバメントクラウドの整備を進めるチームは、半数以上が民間企業出身のエンジニアで構成されており、テクノロジーの進展に合わせた最適なクラウドサービスの選定や、政府が利用するうえで適したリスクコントロール・セキュリティの基準(テンプレート)の策定を行っているという。

2022年10月3日には、ガバメントクラウドで利用するサービスに、Microsoft Azureが新たに選定された。それを踏まえて、岡嵜氏は「マイクロソフトに期待すること」を梅谷氏に尋ねた。

梅谷氏は、「クラウドは安心して使えるものだと理解してもらうことが重要になるが、マイクロソフトのこれまでのプラクティスやナレッジを生かして、国民のみなさまに周知できるような協力体制の構築をお願いしたい。また、マイクロソフトはクラウドに限らず提供する製品が幅広い。デジタル社会実現に向けてデジタル庁でさまざまな計画を立てているが、どんなパーツ(アプリケーションやツール)がハマるか、大きな視点で一緒に考えて取り組みに参加してほしい」と述べた。