SMBC日興証券は250万以上の口座数を持つ、大手証券会社だ。全国に窓口を持ち、専門家からの細やかなアドバイスを受けられるというサポート力も魅力だといわれている。1万円から1000円単位で金額指定をして株式投資のできる「キンカブ」など独自の金融商品も多く、ライトな投資初心者から大きな投資をしたいユーザーまで幅広くカバー。そんなSMBC日興証券が新たな取り組みとして11月からスタートさせたのが、オウンドメディア「FROGGY」(フロッギー)だ。

「FROGGY」

SMBC日興証券 ダイレクトチャネル事業部 兼 経営企画部 副部長の吉岡伸輔氏

「SMBC日興証券では毎月1万口座以上が新たに開設されますが、実際には開設後1年たっても取引のないお客様も数多くいらっしゃいます。直近で、一定期間取引のないお客様の割合は半分近くに上っています」と語るのは、SMBC日興証券 ダイレクトチャネル事業部 兼 経営企画部 副部長の吉岡伸輔氏だ。

世の中には、年金問題や老後破綻といった将来に向けた「お金の不安」に関するキーワードが多く出回り、若い世代も高い貯蓄意識を持っているといわれている。しかしゼロ金利時代でもあり、ただ貯金しているだけでは十分な資産が形成できないのも現実だ。そこから投資へと目を向けた人々が一度は口座を開設するが、数回の取引しかしない、もしくは実際の取引には至らないケースもある。「FROGGY」は、そのハードルを下げていくのが目的だ。

「投資した商品の価値が下がって損失を被るリスクが怖いという回答が約4割なのに対して、投資を始めるために必要な知識がないという回答は、その1.5倍にあたる約6割でした。我々としてはまったくリスクのない商品というものは作れませんが、知識をつけてもらうことはできるという考えでスタートしました」と吉岡氏は「FROGGY」誕生の背景を語る。

不足している知識をつけてもらう場をつくりたいという気持ちの中に、投資に対するネガティブな感情や意識を払拭したいという想いもあったという。

FROGGYロゴ

「FROGGY」という名前の由来について吉岡氏は、「FROGGY」の名前を決めるまでにはいろいろな案がありましたが、最終的に金運守りとしても知られ、世界でも縁起物として扱われることの多いカエルにしました。卵からかえる、お金が返ってくるなど、いろいろひっかけられるキーワードですが、投資に対して一部の方が持っている『不労所得を得るのはあまりよいことではない』というイメージを変えたいという気持ちもありました」と説明した。

日本ではお金について語ることをよしとしない文化や、額に汗して働くことは尊いが、不労所得を得るのは自慢できることではないというような考え方もある。しかし積極的な資産形成のためには、そうした考え方から脱却する必要があるというのがSMBC日興証券の考えだ。

「最終的には、『FROGGY』を通じてお金について考えてもらい、自信をもって自分の『お金』について考え、立ち向かい、『SURVIVE=生き残る』ことができる未来を作りたいと考えています」と吉岡氏は、お金についてしっかり向き合ってもらうための知識を得られる場として「FROGGY」を活用していく考えを明らかにした。

既存顧客に新たな視点から伝えるため、プロを集めたチームでスタート

「FROGGY」が当初メインターゲットにしているのは、SMBC日興証券の既存ユーザーだ。前述の通り、口座開設という投資への一歩を踏み出しながらも投資の世界に入れていないユーザーを中心に、口座開設の一歩が踏み出せない顧客に向け、今までとは異なったアプローチで情報を伝えようとしている。

「証券会社のサイトというのはどこも似ていて、金融商品の名前がずらりと並んでいます。商品の説明だけでは投資のイメージがわかない、情報が多すぎてよくわからないという声もありました。しかし、既存サイトほうがぴったり合うお客様もいらっしゃるのです。そのため、既存サイトを変更するのではなく、新しく違った切り口のものを提供しようということでオウンドメディアを立ち上げました」(吉岡氏)

同社は、2015年夏から数度のインターネットアンケートや聞き取り調査などを行い、コーポレートサイトやライバル会社のサイトなどについてどこに抵抗感を持っているのか、知りたいことは何なのかといったユーザーの声を詳細に拾い上げることからプロジェクトをスタートさせた。経営企画部から7名がほぼ専任で取り組む形になった。

「私自身、他の仕事も抱えていましたので、これに専念してよいといわれて驚きました」と吉岡氏が語るように、SMBC日興証券としてはかなり力を入れて立ち上げが行われた。

メディアの運営は、調査・企画段階から関わってきたクリエイティブエージェンシーである「SIX」がディレクションを行い、クリエイターのエージェント業務を行う「コルク」と、メディアプラットフォーム「cakes」を運営する「ピースオブケイク」も加わり、吉岡氏以下8名のSMBC日興証券のスタッフとともに企画立案およびコンテンツ制作を行っている。

「証券会社目線ではない、多種多様で柔らかな切り口のコンテンツからお金について伝えるものを作りたいと考えていました。外部のクリエイターと話す中で、写真やイラストのクオリティは見る人に理解されるはずだという考え方を得て、ストックフォトだけを使うのではなく、プロの作品でいくと決めました」と吉岡氏。

「暮らし」がテーマの記事。記事はマンガやイラストが多用されている

現在は週に一度編集部で集まって、企画立案などを行っているという。「FROGGY」には著名な漫画家やイラストレーター、写真家といったクリエイターのコンテンツに加えて、著名人や有名な投資家、上場企業の社長へのインタビューも掲載されているが、これらの最終的な掲載判断を行っているのはSMBC日興証券側だという。

「こういう企画がおもしろいというような切り口、どう伝える方がよいというアドバイスはプロの編集の方からいただくわけですが、最終的には我々が判断しています。またプロのみなさんからは、お任せで甘えていてはいけないともいわれているので、自分たちでコンテンツを作る準備もしています」と吉岡氏はプロの力を借りつつ、自らの発信力を鍛えている様子も語った。

3週で10万PVを達成した好調な滑り出し

FROGGYを開始するにあたっては、コーポレートサイトでのお知らせは行ったものの、それ以外に大きな広報活動は行っていない。当初のターゲットを既存ユーザーとしたため、主な告知はユーザーへのメールになっている。

「我々から発信するさまざまなお知らせメールの中で紹介しただけで、まだメールマガジンという形にもなっていません。すでに10万PVを達成しましたが、メールからクリックして来てくださった方は、今のところ全体の3割といったところです」と、公開3週間の実績を吉岡氏は語る。

その他のうちの6割を占めるのはSNSで、大きな流入口となっている。「FROGGY」に連載をすることになったクリエイターが、自らの作品を見られる場所としてSNSで紹介したことなどが大きなPVにつながったという。

「元々ファンのいるクリエイターが読者を引っ張ってきてくれることは期待していましたが、やはり大きな効果がありました。またインタビューさせていただいた方の知名度により、Facebookでも大きな反応があるなど、効果を感じています」と吉岡氏。10万PV、4万6000UUという好調な滑り出しを果たした「FROGGY」だが、今後は当面の目標として月間30万PVを目指すという。

「まだ始まったばかりで落ち着いていませんが、7割程度がスマートフォンからのアクセスで、朝8時台の利用が多いようです。毎日1記事をアップしていますので、通勤時間などに気軽に読んでいただきたいですね。今後はタイミングを見てもう少し広く「FROGGY」についてお知らせしたいと考えています。まずは今年度末あたりをめどに、メールマガジンを発行する予定です」と吉岡氏。

将来的には直接投資を行える「場」として成長させる

告知を重ねてPVを伸ばすというのは当面の目標であり、メディアとして「FROGGY」を大きく成長させることだけが目的ではない。ある程度の存在に成長させた上で、社内的には次のステップに進む予定だ。それは、「FROGGY」を単なる「お金の事を知るためのメディア」ではなく、そこで得た情報を活かして実際に投資行動へつなげられる「場」にすることだ。

すでにコンテンツの編集方針としては、投資や資産形成に証券会社を使ってもらうための意識づけや、購入へつながるような導線づくりが意識されている。投資家の成功事例インタビューには多くのPVが集まっており、投資への関心の高さは見えてきている。

「投資」がテーマの記事

「これからは投資へのヒントになるような記事や、少し違った切り口での銘柄紹介などを増やして行きたいですね。そして、「FROGGY」から直接金融商品の売買ができるシステムを構築したいと考えています。その時は通常のお客様向けサイトよりも簡単なインターフェースを作るなど、「FROGGY」色がついたお客様に合ったものを作りたいですね」と吉岡氏は語る。

同氏はミッションとして「普通の人に、資産形成の手段として投資を選んでもらう」ということを挙げ、少し投資をかじってみるというのではなく、長期的な分散投資などの本格的な利用に向けての入り口として「FROGGY」が成長して行くことを目指したいと今後の展望を語った。