航空機による対潜戦(ASW : Anti Submarine Warfare)において、ソノブイは不可欠なセンサーのひとつだ。アクティブ・ソナー、あるいはパッシブ・ソナーを内蔵した筒型のブイで、ソナーには指向性を備えたものもあれば、そうでないものもある。外見は似ていても、中身は意外と多種多様だ。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
潜水艦の探知に欠かせないソノブイの役割
本連載では頻出している話だが、海中にいる潜水艦をレーダーで探知することはできないので、探知手段の主流は音響センサー、すなわちソナーである。そのソナーの形態は複数あるが、航空機によるASWでは、ケーブルで吊るして海中に降ろす吊下ソナー(ディッピング・ソナー)と、冒頭で書いたソノブイがある。
吊下ソナーはアクティブ/パッシブ兼用、ソノブイは前出のようにアクティブもパッシブもある。アクティブ・オペレーションなら探知目標の方位と距離を一発で探知できるが、ソナーで探信している誰かさんがいることを、周囲に “広告” することになる。
パッシブ・オペレーションならそういう問題はないが、単独では音源の存在、あるいはそれの方位が分かるぐらいだ。ただし、音響情報処理あるいはソナー員が生の音響を聴くなどして、探知目標の種類を識別できる可能性もある。
だからASWを担当する哨戒機は、固定翼機であれ回転翼機であれ、ソナー本体と、パッシブ・ソナーから上がって来るデータを対象とする音響情報処理の機能を機上に持つのが一般的となる。
無人機によるソノブイ投下、各国で実証が進む
ところが近年、無人機にソノブイ・シューターを搭載して、ソノブイ投下の手段として使用する提案、あるいは試験の事例がいろいろ出てきている。
ちょっと古いところだと、2018年の「国際航空宇宙展」で、ベル・テクストロンがティルトローター型無人機にソノブイ・シューターを組み込んだ機体の模型を展示していた。
2020年にはノースロップ・グラマンがウルトラ・エレクトロニクス(後のウルトラ・マリタイム)と組んで、ヘリコプターにソノブイ・シューターと受信機を搭載して実証試験を実施した。ただしこれは無人機で運用するための機能実証が目的で、ヘリコプター自体は有人機だった。ノースロップ・グラマンは機体を、ウルトラ・エレクトロニクスはソノブイまわりを担当した。
2022年のユーロナヴァル展示会では、そのウルトラ・マリタイムがUMSスケルダーと組んで、ソノブイ投下の機能を備えた無人ヘリコプターをカナダから受注したとの発表があった。UMSスケルダーの回転翼無人機、スケルダーV-200にウルトラ・マリタイムのソノブイを組み合わせる。
このカナダの件はIDEas (Innovation for Defence Excellence and Security) の一環だというから、直ちに装備化するというよりも、将来を見据えた実験的な取り組みと考えられる。
ウルトラ・マリタイムはさらに、2025年にゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)との提携も発表した。MQ-9Bシーガーディアンにウルトラ・マリタイムのソノブイを搭載しようとの目論見である。
そしてGA-ASIは2025年12月に、シーガーディアンからソノブイを投下する試験を実際に行った。このシステムは、マルチスタティック捜索にも対応できるとしている。
最近だと、トルコ軍が実施した演習において、バイカル・テクノロジーズのバイラクタルTB3無人機がソノブイ2個を投下する実証試験を実施している。
ソノブイを投下するだけでは潜水艦を探知できない
このように、無人機をソノブイ投下のプラットフォームにする取り組みはいろいろ出てきているが、そこで「それなら無人機で有人機と同様にASWができる」と思うのは、いささか早とちりというもの。
なぜかといえば、ソノブイを投下するのは単にセンサーを撒くだけの話であって、そこから上がってきた音響情報の処理がなければ話が先に進まない。そして無人機は無人だから、機上にセンサー・オペレーターは乗っていない(乗っていたら無人機ではなくなってしまう)。
すると、無人機をソノブイ展開にだけ使用して、音響情報処理は有人機に担当させる手が考えられる。この場合、有人機と無人機はペアを組んで行動することになろう。ソノブイから送信できる電波が届く範囲に有人機がいなければならないからだ。一方で、有人機が搭載するソノブイ・レシーバーをそのまま使えるので、システム構築の手間やリスクは最小限で済む。
ただしこの方法では、特に敵対的な海域だと具合がわるい。有人機が敵に撃ち落とされるリスクが増すからだ。それでは何のために無人機を使うのかという話になってしまう。ソノブイ散布に使える手駒が増えるのはメリットだが。
それなら、地上または艦上に音響情報処理装置とセンサー・オペレーターを用意して、そこにデータを送る手はどうか。これだと現場の上空に有人機を送り込む必要はなくなるが、ソノブイから発信した電波が陸上または艦上まで届くかどうかという問題がある。また、ソノブイから上がってきた生のデータをそのまま送ると、通信の負荷が増える可能性もある。
AIで音響情報を処理、無人機の可能性を広げるSensorMAXか
前置きがえらく長くなってしまったが、ここまで書いてきたような問題点を確認しておかないと、本題の話につながらないので御容赦いただきたい。
この、「無人機でソノブイ散布はできるが、その後の音響情報処理に課題を残す」という問題の解決に、前回に取り上げたSensorMAXが役立たないか、という話が本題である。
ロッキード・マーティンのリリースでは、ソノブイが水中で収集した音響情報データをMH-60Rの機上に送り、SensorMAX で処理した情報を地上に送る、と述べている。しかし、その処理の機能を無人で実行できるようになり、かつ、そのための機材を無人機に搭載できる程度まで小型軽量・低消費電力化できたらどうなる?
つまり、ソノブイから上がってきたデータのエッジ処理を無人機の機上で行えないか、という話である。生データの代わりに処理済みのデータだけを送り、「この辺に潜水艦らしきものがいる」「探知した潜水艦は○○級らしい」といった情報だけ送れば、無人機と地上・艦上の間の通信負担は減る。
そしてSensorMAXは人工知能(AI : Artificial Intelligence)と機械学習(ML : Machine Learning)の合わせ技であり、学習による進化を期待できる。つまり、導入当初よりも運用実績を積み重ねた後の方が、より優れたエッジ処理を行えるという話になるかもしれない。



