2025年5月21~23日にかけて、日本では第2回目となる防衛・セキュリティ総合展示会「DSEI Japan」が開催された。しばらく、そこで拾ってきた話題を取り上げてみようと思う。

  • 日本でのDSEIの開催は2回目。多くの人が注目する、自衛隊関連や日本の大手メーカーの出展だけがDSEIではない 撮影:井上孝司

指揮管制装置とは

いきなり私事で恐縮だが、筆者は「指揮管制装置大好き人間」である。Command and Control Systemとか、BMS(Battle Management System)とか、いろいろな呼び方がされるが、要は「戦闘状況の把握と指揮を支援するシステム」である。

昔なら、紙の地図の上に自軍や敵軍のユニットを示す駒を置くなどして、戦場の状況を把握していた。指揮官はそれを見ながら、指揮下の部隊をどう動かして、どこを攻撃させて(あるいは、どこを守備させて)、任務の達成につなげようか、と知恵を絞っていた。

しかしこれでは、地図上に置かれた駒は動いてくれないから、自軍あるいは敵軍のユニットの動向に関する新たな情報が入ってくるまで、変化が分からない。

第一、その動向に関する情報が確実に、遅滞なく届くかどうかすら確実ではない。無線による口頭の伝達が主な手段になるから、言い間違いや聞き間違いのリスクもついて回る。また、指揮下の部隊が報告を上げてくるときに、場所を間違えるリスクもある。

しかし、GPS(Global Positioning System)みたいな測位システムが登場したことで、自軍のユニットについては所在を正確に知る手段ができた。GPSで把握した緯度・経度の情報を、無線データ通信で送ればよい。敵軍のユニットについてもセンサー技術の進化により、探知・位置標定できる可能性は昔よりも高まった。

そうした情報をコンピュータにぶち込んで、集中管理する。しかしそれだけでは不十分で、地図・地形を初めとする、いわゆる地理空間情報、兵要地誌の類も必要になる。単にユニットの位置を表示するだけでなく、作戦計画を立てる上でも、地理空間情報は不可欠なものだ。

「Sitaware」と「BMS」

今回、デモを見せていただいた指揮管制システムは複数ある。

ひとつは、2年前のDSEI関連記事でも紹介した「Sitaware」。これはデンマークのシステマティック(Systematic A/S)という会社の製品だ。もうひとつは、シンガポールのSTエンジニアリング(ST Engineering)のBMS。

  • システマティックでは「Sitaware」のデモを実施していた。日本ではなじみが薄いが、欧米諸国では多くのカスタマーを獲得している 撮影:井上孝司

  • STエンジニアリングのBMS画面例 撮影:井上孝司

どちらも基本的な機能は似ている。指揮下のユニットに関する位置情報は、前述したようにレポートが上がってくるから、おおむねリアルタイムで把握できる。その位置やステータスは、地図画面上で確認できる。部隊の種類(兵科の違い)は、NATOで規定している記号で表示しているから、これで判別できるようになっている。

そこで指揮官は画面を見ながら、指揮下にある部隊を組み合わせて戦闘序列(order of battle)を構成したり、それぞれの部隊に任務を割り当てたり、攻略すべきターゲットを指示したりする。その際に、地形や建物といった情報があれば、「通りやすいルートや通りにくいルート」「敵軍から見えてしまう場所と、敵軍に見つからずに済む場所」の区別ができるので、これも作戦計画立案の役に立つ。

それだけなら紙の地図を使う場合と大して変わらないが、コンピュータ化のメリットはちゃんとある。作戦計画が決まったら、指揮下の部隊に作戦命令を下達しなければならない。それをいちいち手作業で書いて配布する代わりに、指揮管制システムが、任務割当の命令(tasking order)を作成する作業を支援してくれる。

しかも、最前線の部隊までネットワーク化していれば、いちいち命令を紙に印刷して届ける必要はなく、送信すれば瞬時に届く。例えば、「Sitaware」なら、前線部隊指揮官用の「Sitaware Frontline」や、最前線で個人単位で使用する「Sitaware Edge」という製品があるから、そこに最新状況や任務割当の命令をダイレクトに送り込める。

さらに、実際に任務を発起した後は敵軍と接触したり交戦したり、自軍が進撃あるいは交代したり、被害を受けたりといった具合に状況が動く。それについても、情報がネットワークにアップロードされれば、指揮官が見ている画面に反映される。それを見て、作戦の手直しを図るなどするわけだ。

そんな手順の片鱗を、デモで見せていただいたわけである。ちなみにSTエンジニアリングのBMSでは、英語版のデモ機に加えて、日本語で表示するデモ機も用意していた。本気だ。

  • STエンジニアリングのBMSで、指揮下の部隊に任務割当を行っている画面 撮影:井上孝司

  • 左下に注目してみて欲しい。海外メーカーが日本語表示のデモ機を持ち込んできた事例は極めて珍しい 撮影:井上孝司

連合作戦における相互運用性

先にも触れたが、システマティックの「Sitaware」は欧米で多くのカスタマーを獲得している。これが何を意味するか。

複数の国の軍が組んで連合作戦を実施する場面で、それぞれ独自の指揮管制システムを使用していたら、果たして、情報のやり取りや共有が円滑に進むものだろうか。

その点、皆が同じ「Sitaware」を使用していれば、同じネットワークに接続することで、情報のやり取りや共有が円滑に進むと期待できる。相互運用性の実現とはこういうことだ。

それは、2年前のDSEIに関する記事で取り上げた、サーブの交戦訓練支援システム「GAMER」にもいえること。これは歩兵や車両同士の交戦を訓練する際に、実弾を撃つ代わりにレーザーを “撃つ” 仕組みとして、極めてリアルな訓練をできるようにしたシステムだ。

これもやはり、連合作戦を実施する可能性がある国の軍同士で同じGAMERシステムを使用していれば、合同訓練・合同演習を円滑に実施できる。そのために専用の機材を用意しなくても、普段から使用しているGAMERを持ち込めばリアルな模擬交戦ができる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。