Microsoft 365の導入が完了し、日々の運用が始まると、管理者にはさまざまな課題や対応すべき業務が発生します。今回は、ヘルプデスクやユーザーサポート体制の構築、障害発生時の対応フローと連絡体制、管理者としての情報収集・アップデートの重要性、そして運用効率化のためのポイントについて解説します。
ヘルプデスクとユーザーサポート体制の構築
Microsoft 365は多くの機能を持ち、ユーザーにとって便利である一方で、操作方法やトラブル対応についての問い合わせが増える傾向にあります。組織内で円滑にサービスを活用するには、ユーザーからのサポート要求に迅速かつ的確に対応できる体制が不可欠です。
ヘルプデスク体制の設計
ヘルプデスク体制を設計するにあたっては、以下を行う必要があります。
サポート窓口の明確化
ユーザーがどこに問い合わせればよいのか、組織内のサポート窓口を明確にし、周知徹底します。問い合わせフォームやメール、チャットなど、組織の規模や文化に合った手段を選びましょう。
サポートの分業と役割分担
サポート担当者が複数いるのであれば、基本的な操作サポートからテクニカルなトラブル対応まで、問い合わせ内容に応じて担当者を分けることで、効率的な対応が可能です。
外部委託の活用
組織内リソースが限られている場合は、外部のヘルプデスクサービスを活用する選択肢もあります。特に、ベンダーからMicrosoft 365を購入・導入する際は、ベンダーのサポートサービスの内容や料金を確認し、効率的にベンダーのサービスを利用するといいでしょう。
(ベンダーからの購入、直接購入の別については、当連載の第1回記事を参照してください)
サポート業務の自動化・効率化
続いて、サポート業務の自動化・効率化にも取り組みたいところです。具体的な内容は以下の通りです。
問い合わせ受付の自動化
Microsoft FormsやPower Automateを活用し、問い合わせフォームから自動でチケット発行や担当者への通知を行う仕組みを構築できます。
ナレッジベースの整備
よくある質問やトラブルシューティング手順をまとめたFAQやナレッジベースを作成し、ユーザーが自分で解決できる環境を整えます。SharePointやTeamsを活用するといいでしょう。
運用業務の自動化
ユーザー申請や権限更新などの運用業務も、Power Platformなどの自動化ツールを活用することで大幅に効率化できます。
ただし、Microsoft Power Platformの一部の機能は、契約しているMicrosoft 365プランによっては、機能が制限されたり、追加ライセンスの購入が必要になったりすることがあります。
Microsoftサポートへの問い合わせ
Microsoft 365の使い方や設定方法が不明な場合、またトラブルが発生した場合、Microsoft 365管理者は、Microsoft 365管理センターからMicrosoftサポートに問い合わせることができます。その手順は以下の通りです。
(1)「サポート」→「ヘルプとサポート」をクリックしてサポートページを開ける。
(2)質問事項を入力し、回答が見つからなければ、直接Microsoftサポートに問い合わせることができる。
(3)Microsoftサポートへの問い合わせ状況や過去の問い合わせ履歴は「お問い合わせの表示」をクリックして確認できる
障害発生時の対応フローと連絡体制
Microsoft 365はクラウドサービスであり、障害やメンテナンスによるサービス停止が発生することがあります。管理者は、障害発生時にどのように対応するかを事前に決めておく必要があります。
障害発生時の体制の設計
障害発生時に誰がどのような連絡を行うか、連絡先リストや連絡フローを事前に準備しておきます。
組織内のコミュニケーションツールがMicrosoft 365だけの場合、Microsoft 365のテナント全体の障害が発生すると障害連絡・告知さえできなくなります。全社的なネットワーク接続障害の場合には、Microsoft 365以外のネットワーク・コミュニケーションも使えなくなります。このような事態の発生を想定した、連絡体制を設計します。
例えば、非常時の連絡手段として、スマートフォンの連絡体制を整えておく、組織内放送設備の利用ルールを定めておくことなどが考えられます。
障害発生時の対応
障害発生時には、主に以下のような対応が必要になります。
(1)組織内ネットワークの正常性の確認 組織内ネットワークが正常に動作しているのかどうか、Microsoft 365以外のWebアクセスで確認します。
(2)障害情報の確認 まずはMicrosoft 365管理センターのサービス正常性ダッシュボードで障害情報を確認します。
(3)組織内外への影響調査 どの業務や部門、外部取引先に影響が出ているかを迅速に把握します。
(4)ユーザーへの周知 障害の状況や復旧見込みを組織内メールやTeams、その他の手段で迅速に周知します。
(5)サポートへの問い合わせ 必要に応じてMicrosoftサポートやベンダーに問い合わせ、状況確認や対応指示を受けます。
障害対応のポイント
運用をしていると、障害が発生することがあります。その際の対応のポイントを紹介しましょう。
平時からの準備
管理センターへのアクセス方法や連絡先リスト、サポート窓口を普段から確認し、必要な情報をすぐに参照できるようにしておきます。
冷静な対応
障害発生時は混乱しがちですが、冷静に情報を収集し、適切な対応を心がけます。
復旧後の振り返り
障害が解消した後は、原因や対応プロセスを振り返り、今後の改善に活かします。
Microsoft 365のサービス正常性の確認
Microsoft 365管理センターの「正常性」メニューで、Microsoft 365の各サービスが正常に稼働しているかどうか確認できます。また、現在の設定状況に対して管理センターからアドバイスがある場合は、アドバイザリとして表示されます。
「正常性」→「サービス正常性」メニューをクリックして、稼働状況を確認できます。
管理者としての情報収集・アップデートの重要性
Microsoft 365は頻繁に新機能やアップデートがリリースされます。管理者は常に最新情報を把握し、組織に必要な機能や設定を適切に導入する必要があります。以下が、情報収集の方法です。
メッセージセンターの活用
Microsoft 365管理センターのメッセージセンターで、新機能や変更点、メンテナンス情報を確認します。
ロードマップの確認
Microsoft 365ロードマップで、今後リリース予定の機能や開発中の機能を把握します。
コミュニティやブログの活用
Microsoft Tech Communityや公式ブログ、各種フォーラムを活用し、他組織の成功事例やトラブル事例を学びます。
アップデートの周知とトレーニング
新機能や変更点をユーザーに周知し、必要に応じてトレーニングを実施します。
メッセージセンターによるロードマップ確認
Microsoft 365の仕様変更や機能追加のアップデート情報、メンテナンス情報などは、Microsoft 365管理センターのメッセージセンターに表示されます。毎週確認し、最新情報をチェックしましょう。
なお、メッセージセンターの内容は英語でリリースされますので、英語が苦手な方はEdgeなどのウェブブラウザで自動翻訳するといいでしょう。 仕様変更に伴って、テナント管理者が、移行作業や設定変更や一般ユーザーへの告知を行わなければならないこともあるため、必ず確認するようにしてください。
「正常性」→「メッセージセンター」をクリックして、Microsoftからのメッセージを確認できます。
情報収集のポイント
上記で紹介した情報集を行う際のポイントは以下になります。
定期的な情報チェック
週に1回はメッセージセンターやロードマップを確認し、重要な情報は関係者と共有します。
組織内ナレッジの蓄積
得た情報や運用ノウハウを組織内ナレッジとして蓄積し、他の管理者やユーザーと共有します。
外部リソースの活用
ベンダーやコミュニティ、セミナーなど外部の情報源も積極的に活用します。
運用効率化のためのポイント
Microsoft 365の運用管理は多岐にわたり、IT部門の負担が大きくなりがちです。運用効率化のためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
運用業務の自動化
ユーザー申請や権限更新、申請承認フローなどを自動化し、手作業を減らします。
一元管理と標準化
管理ポータルや自動化ツールを活用し、業務を一元管理します。
不要なデータや権限の整理
不要なチームやサイト、アカウントを定期的に整理し、ストレージや権限の無駄を省きます。
監査ログの活用
Microsoft 365の監査ログ保存期間は標準で90日です。必要に応じて、ログをダウンロードして長期で保管するか、Microsoft 365 E5やPurview Audit Premiumなどの追加ライセンスを購入して長期保管できるようにするなど、セキュリティ監査やコンプライアンス対応に備えます。
他組織の成功事例の導入
組織内の他部門あるいは、Microsoft 365関連サイトやベンダー提供の情報から得られる他組織の成功事例を参考にし、自社の運用に取り入れます。
まとめ
Microsoft 365の運用・サポートは、単なる技術的な業務ではなく、組織の生産性と安全性を支える重要な役割です。ヘルプデスク体制の構築、障害対応フローの整備、情報収集・アップデートの継続、そして運用効率化のためのベストプラクティスの導入を通じて、管理者は組織のデジタル変革を支える存在となります。
本連載を通じて、Microsoft 365管理者として知っておくべき基本的な考え方や概念を解説してきました。日々の運用の中でこれらのポイントを意識し、組織の成長と安全なIT環境の実現に貢献してください。
また、Microsoft 365の管理は、組織の情報セキュリティポリシーと密接に関係します。情報セキュリティやコンプライアンスへの意識を常に持ち、組織のルールや法令を守りながら運用を進めます。組織内の管理部門、法務部門との密な情報共有は必須です。





