このものづくり関連ニュースのまとめ
・AIによって脆弱性の発見や攻撃経路の構築が高速化し、OTへの攻撃規模が拡大
・すべての脆弱性へパッチを適用できないOTでは、運用への影響を踏まえた優先順位付けが重要
・TXOneはDiscover、Assess、Protectを運用理解型AIで連携する防御モデルを推進
OTセキュリティ向けに製造業の事業継続と運用の安定性を両立させるソリューションを提供するTXOne Networksの日本法人であるTXOne Networks Japanは9月17日、都内で「OT Security Leaders' Summit 2026」を開催した。
同イベントは2023年に始まり、今回で4回目。2026年9月15日時点の登録者数は前年比49%増の336名、登録社数は同136%増の179社となった。特に顧客企業からの登録者数は前年の60名から147名へ増え、全体に占める割合も27%から44%へ上昇した。
開会にあたって挨拶したTXOne Networks Japan 代表執行役員社長の近藤禎夫氏は、イベント開始当時は「OTセキュリティとは何か」を共有する段階だったが、その後はフレームワークによる統治や資産の可視化へと議論が進み、2026年はAI時代におけるOTセキュリティの方向性を示す段階に入ったと説明した。
AIが変えるサイバー攻撃の矛と盾
基調講演にはTXOne Networks CEOのテレンス・リュウ(Terence Liu )氏が登壇。「AIが攻撃をスケールさせる時代へ-OT防御の新たなモデル」と題し、生成AIがサイバー攻撃と防御の双方へ与える影響を説明した。
リュウ氏は、AIはセキュリティ対策へ活用できる一方、攻撃者も脆弱性の発見や攻撃経路の構築、標的への侵入に利用できると指摘する。
AIがまったく新しい攻撃手法を生み出すとは限らないが、既存の攻撃手法を自動化し、多数の標的へ並行して適用できるようになる。時間や人員の制約が小さくなれば、これまでの10倍、100倍、場合によっては1000倍という規模で攻撃を繰り返すことも可能になるという。
脆弱性の発見数は前年同期の3.4倍
TXOneが脆弱性情報データベースを基に集計したところ、2025年4月1日から8月31日までに報告された脆弱性は3785件だったが、2026年の同期間には1万3008件へ増加した。前年同期の約3.4倍となる。
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2025年と2026年の4月1日~8月31日に報告された脆弱性数の比較。2025年の3785件から2026年は1万3008件へ約3.4倍に増加したほか、TXOneの研究チームはAIを活用して5日間で30件のIoT脆弱性を発見した (提供:TXOne Networks)
すべての増加をAIに起因するものとはいえないが、AIによって脆弱性の発見を高速化できることは、TXOne自身の調査でも確認されている。
同社の研究チームは「Black Hat USA 2026」において、AIを活用して5日間で10種類のIoTデバイスから30件の脆弱性を発見したことを報告した。このうち3件は、CVSSの深刻度が最大値となる10.0のリモートコード実行の脆弱性だったという。
従来は数カ月を要する可能性があった調査を数日まで短縮できたことになる。攻撃者も同様の能力を利用すれば、脆弱性が発見されてから悪用されるまでの時間が短くなる可能性がある。
AIは攻撃経路を自律的に連鎖
AIの能力は、脆弱性を発見するだけでなく、複数の攻撃手順を組み合わせて実行する段階へ進みつつある。
リュウ氏が紹介した英国のAI Security Institute(AISI)による評価では、模擬企業ネットワークを対象に、初期偵察からネットワーク全体の掌握までを32ステップで構成。AIモデルが10回中3回、すべての攻撃経路を自律的に完遂したという。完遂できなかった試行を含めても平均22ステップまで進み、専門家なら約20時間を要する一連の処理を数分で実行したとする。
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英国AISIによるAIモデルの評価結果。32ステップで構成された攻撃経路を10回中3回完全に自律実行し、平均では22ステップを完遂した。AIが助言だけでなく、攻撃経路そのものを実行する段階へ進んだことを示す (提供:TXOne Networks)
従来のAIが攻撃方法を提案する存在だったのに対し、今後は偵察、脆弱性の特定、認証情報の取得、横方向への侵入、目的とするシステムの侵害までを自律的に連鎖させる可能性がある。
攻撃能力はソフトウェアによって急速に拡張できる一方、脆弱性を修正する人員や、OT設備を停止してパッチを適用できる時間は同じようには増えない。攻撃と防御の間には、構造的な非対称性が生じていることになる。
OTはすべての脆弱性にパッチを適用できない
こうした問題の影響を受けやすいのが、工場や社会インフラなどのOT環境である。
リュウ氏は、米国の水道・下水処理施設を狙ったサイバー攻撃を例示した。インターネットに公開されたPLCが特定され、設定を変更されたことで、運用側が設備に対する可視性や制御を失い、圧力低下や冠水などにつながる事例が発生したという。
高度なゼロデイ脆弱性がなくても、インターネットから到達できる経路と、十分に保護されていない制御機器があれば、実際の設備へ影響を与えられる。AIで機器の探索や既知の脆弱性の確認、攻撃を自動化すれば、同様の設備を短期間で広範囲に狙うことが可能になる。
一方、半導体工場や自動車工場、医薬品工場などでは、設備を容易に停止できない。更新時には設備のクオリフィケーションや工程のバリデーションを求められる場合もあるほか、装置メーカーが保守を管理しているケースや、サポートを終了したOSを使用する設備も存在する。
このため、発見されたすべての脆弱性へ一律にパッチを適用するのではなく、設備の重要性、外部からの到達可能性、悪用される可能性、操業への影響を踏まえ、対応の優先順位を決める必要がある。
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ミッションクリティカルなOT環境で即時のパッチ適用が難しい理由。24時間稼働、クオリフィケーションやバリデーション、ベンダー管理、長期の資産ライフサイクルなどが制約となる (提供:TXOne Networks)
YATA-ShieldとCTEMに共通するリスクベースの考え方
リュウ氏は、2026年5月18日に日本の国家安全保障局、国家サイバー統括室(NCO)をはじめとする関係省庁が連名で発表した、AIを活用した政府全体のサイバーセキュリティ対策パッケージ「Project YATA-Shield」について、脆弱性の数が人間の対応能力を上回る可能性を前提にした取り組みとして評価した。
YATA-Shieldでは、経営層のリーダーシップ、重要サービスの優先付け、脆弱性管理、リスクベースのパッチ適用と補完的統制、監視・対応とレジリエンスを重視する。
OTセキュリティは、経営層が責任を持って取り組まなければ、予算や人員を確保することが難しい。守るべき設備とサービスを特定し、パッチだけでなく、仮想パッチ、ネットワーク分離、許可リストなどの補完策を組み合わせる必要がある。
同様の考え方として、継続的脅威エクスポージャー管理(CTEM)への関心も高まっているとする。
CTEMは、対象範囲を定めるスコーピング、資産や脆弱性の発見、優先順位付け、実際に悪用される可能性の検証、対策へ移す動員という一連のサイクルを継続的に回す取り組みとなる。
脆弱性を列挙して終わるのではなく、実際の侵害につながるかを検証し、許容できないリスクへ具体的な対策を施すことが目的となる。
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日本政府のProject YATA-Shieldと継続的脅威エクスポージャー管理の関係。経営層のリーダーシップ、重要サービスの優先付け、リスクベースのパッチ適用、継続的な発見・評価・検証を重視する (提供:TXOne Networks)
Discover、Assess、ProtectでOT防御を体系化
TXOneが提唱しているのが、「Discover」「Assess」「Protect」の頭文字を取った「D-A-P」フレームワークである。
Discoverでは、OT環境に存在する設備やネットワーク経路、通常時の挙動を可視化する。Assessでは、設備の重要度、悪用可能性、操業への影響などの運用コンテキストを加え、対応の優先順位を決める。
Protectでは、更新可能な設備にはパッチを適用しながら、停止や更新が難しい設備には仮想パッチ、ネットワークセグメンテーション、許可リスト、マルウェア検査などを適用し、操業を継続しながらリスクを抑える。
対策後も、新たな機器の追加や設定変更、脆弱性の発見に応じて資産とリスクを再評価する。次のゼロデイ脆弱性を予測することはできなくても、設備の通常時の挙動を把握していれば、異常な通信や動作を検知できるという考え方である。
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可視化、リスク評価、防御、例外的なパッチ適用、継続的検証をOperational-Aware AIで連携するOT防御モデル。設備の通常時の挙動を基準に、操業への影響を踏まえて対策を判断する (出所:TXOne Networks)
SenninReconからSenninOneへ情報を連携
D-A-PにおけるDiscoverとAssessの入口を担うのが「SenninRecon(センニンリコン)」である。
SenninReconは、パッシブなネットワーク監視を中心にOT資産を検出するハードウェアアプライアンス。エージェントをインストールせず、PLCなどへ影響を与える可能性があるアクティブスキャンを避けながら、設備と通信を把握する。
検出した脆弱性は一般的な深刻度だけでなく、設備の重要性、外部への露出度、エアギャップの有無、仮想パッチなどの対策状況を踏まえて評価する。
一方の「SenninOne(センニンワン)」は、ネットワーク防御のEdgeシリーズ、エンドポイント保護のStellarシリーズ、可搬媒体や設備の検査を担うElementシリーズの情報を集約し、OTセキュリティを統合管理する。
企業の本社が抱えるセキュリティ部門が策定したポリシーは、現場の運用担当者が確認・承認した後に展開する。セキュリティ設定の変更が操業へ影響する可能性があるOTでは、IT部門とOT部門の役割や承認手順を明確にする必要があるためだ。
運用を理解するローカルAIへ
TXOneは今後、各製品に分散しているAI機能を「Operational-Aware AI」と呼ぶ運用理解型AIプラットフォームへ統合する方針である。
Operational-Aware AIは、個別の脆弱性やアラートだけを見るのではなく、どのPLCがどの工程に接続され、設備間でどのような通信が行われているかといった通常時の運用を学習する。
Discover、Assess、Protect、例外的なパッチ適用、継続的検証の情報を共有し、新たな脅威や設定変更が操業へ与える影響を評価する。
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Edge、Stellar、Element、Senninの各製品に分散するAI機能を、オンプレミスのOperational-Aware AIへ統合する構想。NVIDIAのハードウェアとローカルモデルを基盤に、製品横断型のAIワークフローを構築する (提供:TXOne Networks)
ただし、AIの誤った判断によって設備を遮断すれば、生産停止や品質問題につながりかねない。当初は脆弱性分析、攻撃経路のシミュレーション、緩和策の提案などへ活用し、人間が介在・監督しながら適用範囲を広げる方向となる。
企業の設備情報や操業データを外部のAIサービスへ送信することへの懸念にも対応するため、TXOneはNVIDIAのハードウェアとローカルモデルを組み合わせたオンプレミス構成を想定している。
AIデータセンターの電力と冷却も保護対象
Operational-Aware AIの適用先としてTXOneが重視するのが、AIデータセンターである。
AIデータセンターはGPUやAIアクセラレータだけでなく、受変電設備、UPS、発電機、冷却設備、監視・遠隔運用システムなど、多数のOT設備によって支えられている。
電力供給が停止すれば冷却も止まり、AIシステムを継続して稼働させることはできない。電源や冷却設備へのサイバー攻撃は、AIデータセンター全体の停止につながる可能性がある。
各国がデータとAI基盤を国内で管理するソブリンAIへの取り組みを進める中、AIデータセンターの設備を守ることは、重要インフラと国家のAI基盤を守ることにもつながる。
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AIデータセンターを支えるOT設備。GPUなどの演算資源だけでなく、受変電、UPS、蓄電、液冷設備、ポンプ、遠隔運用システムなども重要インフラとして保護する必要がある (提供:TXOne Networks)
TXOneは、AIデータセンターをAIが稼働するサイバーフィジカルインフラと捉え、D-A-Pを電力、冷却、遠隔運用を含む設備の防御へ展開する方針である。
日本では半導体が売上高の30~40%
同イベントに併せる形で開催されたメディア向けラウンドテーブルにおいて、近藤氏は日本におけるTXOneの売上高のうち、半導体関連が約30~40%を占めることを明らかにした。
半導体工場は自動化が進み、多数の製造装置がネットワークへ接続されている。製造装置やウェハの価値が高く、操業停止時の損失も大きいため、ネットワーク防御製品の導入規模が大きくなりやすいという。
TXOneは日本で事業を開始した2022年以降、半導体産業を重点分野とし、SEMI E187をはじめとするガイドラインの普及や業界関係者による議論を支援してきた。
同社によると、世界の主要半導体メーカー上位10社のうち6社、主要な半導体製造装置メーカー上位5社すべてでTXOne製品の採用実績があるという。
日本ではOTセキュリティ業務の75~80%を外部パートナーへ依存する企業が多い一方、近年は経営層や顧客企業から、OTセキュリティを経営課題としてどう位置付けるべきか、TXOneへ直接相談するケースが増えているとする。
OT防御の判断基準は現場の運用
AIによって攻撃が高速化・大規模化しても、防御側が直ちにすべての判断をAIへ任せられるわけではない。
脆弱性の深刻度だけを基準に設備を停止・隔離すれば、サイバー攻撃そのものより大きな影響を操業へ与える可能性もある。
リュウ氏は、AI時代のOT防御に求められる要件として、露出を継続的に減らすこと、リモートアクセスやIT・OT間通信、設備、可搬媒体、ソフトウェアなど、あらゆる侵入経路を統制すること、稼働率や工程の安定性、設備のクオリフィケーションといった運用コンテキストに基づいて行動することを挙げた。
AIは資産の発見やリスク評価、攻撃経路の分析、対策案の作成を高速化できる。一方、何を優先して守り、どの設備を止めず、どのリスクを受け入れるかは、設備と操業を理解したうえで判断する必要がある。
TXOneは、D-A-Pの各段階をOperational-Aware AIで連携させ、脆弱性を発見して終わるのではなく、操業を止めずに評価、防御、検証を繰り返すOTセキュリティモデルの構築を支援していくとしている。

