ソラコムは、AIとIoTを融合した新戦略の中核としてマネージドAIエージェントサービス「SORACOM Agent」を発表した。同サービスはITの専門知識がなくても、IoTを活用した業務の自動化や現場改善、プロダクト開発を実現できることを特徴としている。
プランニングやプロトタイピング、開発、運用までのIoTプロジェクトの全工程において、ユーザーに伴走するマネージドAIエージェントと位置づけている。2026年7月7日から、Technology Preview版として公開する。なお、説明会では同社のAI活用戦略や「トークン資本」の考え方についても語った。
SORACOM Agentとは? IoT構築を支援するマネージドAIエージェント
ソラコム 代表取締役社長CEOの玉川憲氏は「IoTはハードウェア、通信、AI、アプリケーション、セキュリティのすべての要素が必要となり、総合格闘技ともいえる領域である。そこに対して、ソラコムが10年間に渡って蓄積したIoTのドメインナレッジを活用したAIエージェントが構築できるのではないかと考えた」と話す。
SORACOM Agentに課題を伝えて解決案を提示したり、目標を伝えたりするだけで、IoTによる実現方法や手順を考え、複数のツールを操作しながら、タスクを自律的に遂行する。
たとえば「センサから異常検知のアラートが出たら、内容を把握し、対応策をあわせて知らせて」と自然言語で指示すれば、ソラコムが提供するデバイス管理やデータ収集、画像分析、自動通知といったIoTサービス群を組み合わせた仕組みを提案し、構築する。
特徴として、専門家でなくても気軽に相談すれば自律的にタスクを完遂する「自律性」、対話によるやりとりやプロジェクトを繰り返すことで、現場の暗黙知を蓄積し、それを再利用できる「長期記憶」、ユーザーごとに隔離した環境内で動作させたり、ユーザー自身の知的資産として手元に保持したりできる「セキュア」、ローカル環境が不要で、AIエージェントの設定や運用がSORACOM上で行える「フルマネージド」の4点を挙げている。
AIエージェントとの対話は、SORACOMユーザーコンソールを利用するほか、スマートフォンによる音声でのやりとりも行える。玉川氏は「クマ被害が全国で深刻になっているが、SORACOM Agentに『箱罠IoTを作りたい』と話しかけ、要望を伝えると仕様をまとめてくれるなどの使い方もできる。SORACOM Agentは予算の概算や、箱罠をどう組み立てるかといったことを教えてくれる」といったユニークな事例も紹介した。
また、SORACOM Agentと、AIボットサービス「Wisora(ウィソラ)」を組み合わせることで、現場で発生していることをリアルタイムで説明してくれる。ソラカメで撮影した画像をもとに、倉庫のなかにどれぐらいの在庫があるのかを確認し、音声で回答してくれるなどの使い方も可能になる。
SGP.32対応SIM/eSIMを発売 - グローバルIoT運用を支える新基盤
一方、コネクティビティ領域での新製品として、SORACOM Connectivity Hypervisorが利用できるSGP.32 対応SIM/eSIMを発売した。サーバ側のeIM(eSIM IoT Remote Manager)と、デバイス側のIPA(IoT Profile Assistant)の連携で、出荷後のデバイス上でも通信事業者のプロファイルをリモート(OTA)でダウンロードし、切り替え、管理が可能になる。
これにより、SORACOM Connectivity HypervisorではSGP.32に準拠しつつ、ユーザーはSORACOMのeUICC上のプロファイルを自在に追加・切り替え・管理できるオーケストレーション機能を活用でき、利用目的や対象国に応じて、必要なプロファイルを追加、管理し、運用の自動化が可能。
また、SORACOMコンソール上で管理を行える環境を提供するほか、サードパーティーのSIMの管理も行えるようにしたり、他社発行のSIM/eSIMであってもSORACOMを利用できたりする環境も実現する。
ソラコム CTO(最高技術責任者)の安川健太氏によると、特定の国の法令でグローバルローミングで使い続けることを禁止しているケースがあるという。また、5Gスタンドアローンでは通信キャリアへの提供に限定されているためSIMを入れ替える必要があり、IoTの長いライフサイクルで旧世代通信サービスからの切り替えに苦慮しているなどのケースがある。さらに、ビジネス上の理由で、複数の通信キャリアを切り替えなくてはならない場合のSIM管理が課題となっているケースもあるようだ。
同氏は「こうした課題に対応するために、物理的なSIMの管理とプロファイルを切り離し、遠隔から柔軟にプロファイルの追加・切り替えが行える仕組みが必要なため、SORACOM Connectivity Hypervisorを提供する」と力を込める。
今回のSGP.32 対応 SIM / eSIMの発売により、あらゆるデバイスがSORACOM Connectivity Hypervisorに対応できる。IPAを内蔵するとともに、SORACOM プロファイルのプリインストールを可能とし、追加の設定やプロビジョニングを行うことなく、届いたその日からSORACOM Connectivity Hypervisorでプロファイル管理ができるという。
安川氏は「これまでのどこでもつながるという価値に加えて、長い将来にわたり安心して通信を使える環境を実現できる」とした。
音声接続サービスとコネクテッドカー向け新サービスを発表
加えて、音声対応に関する新たなサービスとして「SORACOM Air RTC Gateway」も発表した。IoTデバイスなどの通信モジュールのVoLTE機能と、SIM認証を活用し、ユーザーが指定するVoIPやPBX、AIに音声をルーティングする音声接続サービスだ。
デバイス側には特別なソフトウェアが不要であるほか、SIM認証によって安全性を担保。任意のVoIPプロバイダやIP PBXへの接続が可能で、プログラマブルな設定管理も実現する。AIエージェントとの接続も可能であることから、保守現場とつないで、音声で業務支援を行ったり、AIエージェントが不具合を検知して、認証した担当者にだけ、音声で通知したりといった活用もできる。
安川氏は「音声付き回線を別途調達するのはコストが高いという問題がある。また、特定の番号宛の発信のみが必要であっても、制限設定の手間があったり、不要な着信によってIoTデバイスに影響を及ぼしたりといった課題もある。SORACOM IoT SIMにより、直接、通信モジュールの VoLTEに接続し、こうした課題が解決できる。認証基盤として活用することで、内線通話や社内資料へのアクセスにeSIMを活用できるようになる。SORACOMは人やモノやAIに、音声通話を提供するプラットフォームへと進化することになる」と語った。
また、コネクティッドカー向けの新たなサービスとして「SORACOM Automotive Suite」を発表した。これまで、ソラコムがSORACOMプラットフォームとして提供してきた「SORACOM Air:Global Connectivity」「SORACOM Connectivity Hypervisor」「Virtual Private Gateway」「SORACOM Enterprise Support」を組み合わせて提供する。
さらに、自動車業界向けに新たにSORACOMダウンストリーム課金プラットフォームを提供することも発表。ユースケースや通信先ごとの利用量を計測して、提供先企業が自らのブランドで、エンドユーザーの利用量に応じて課金をしたり、通信制限をしたりといったことが可能になる。同機能も、SORACOM Automotive Suiteに含まれる。
安川氏は「お客さまのブランディングにより統合したUXを、自動車メーカーに提供する。高度な要件が求められるコネクティッドカーの開発や運用を加速できる。世界各国の通信キャリアのプロファイルを自由に管理し、長期にわたる自動車のライフサイクルに対応した通信サービスを提供できる」と述べている。
なお、既存製品の機能強化についても説明した。AIボットサービスのWisoraでは、ハンドオーバー機能を新たに搭載。コンタクトセンターなどで、例外的な処理に対応する場合に人が介入できるようにした。これにより、人とAIの協働モデルを実現するという。
また、同社独自のクラウドを前提としたネットワークインフラ「SORACOMクラウドネイティブ・コア」を、通信事業者に対し、マネージドサービスとして提供することも発表した。
IoT契約回線900万超、SORACOMの導入事例と事業拡大
ソラコムは2014年11月の設立以来、IoT通信プラットフォーム「SORACOM」を提供しており、クラウドカメラ「ソラカメ」、Wisoraなどにも事業を広げている。現在、通信サービスでは、206の国・地域で利用ができ、581の通信キャリアと接続。IoT契約回線数は900万以上となっており、4万社以上が利用しているとのことだ。
ソラコム CEO of Japanの齋藤洋徳氏は「多くの国でマルチキャリアの利用が可能であり、カバー範囲の拡大や通信の冗長性を実現する。売上高の約半分が海外で、ガートナーのMagic Quadrantではリーダーの1社に位置づけられている」とした。
一方、さまざまな業界でSORACOMが利用されていることを紹介。豊田自動織機では物流拠点でのトラックの入退場時刻管理に活用し、JR九州では鉄道車両をリアルタイムで稼働状況を管理して予防保全に活用。MIXIでは子ども向け見守り端末によるサービス提供にSORACOMを採用している。そのほか、スマート自動販売機の稼働管理や、ドローンによる監視サービスなど、新たな用途での利用も増えているという。
さらに、Wisoraでは「まごチャンネル」を運営しているチカクが、公式LINE上でAIボットが回答する仕組みを構築し、顧客の自己解決の促進と友人サポートの省力化を実現している。
加えて、ソラカメとAI/IoTアプリビルダー「SORACOM Flux」を組み合わせた事例では、東洋製罐グループホールディングが新たな缶の製造に切り替える際に、ソラカメを活用して、古い缶が生産ラインに残っていないことを自動で確認し、業務効率を向上させている。
日本航空とJALカーゴサービスではコンテナにソラカメを設置し、蔵置率をAIが自動判別することができるという。この仕組みは、SORACOM Fluxを利用して、現場メンバーが構築したという。
「After AI」への変革とトークン資本時代の競争戦略
今回の説明会では、ソラコムにおける先進的なAI活用の現状や、企業がAI活用において抱える課題、今後のAI利用の方向性などについても言及した。
玉川氏は「活版印刷が『知の複製』、インターネットが『知の共有』であったとすれば、生成AIは『知の創造』を実現するものになる。人間だけが可能としていた領域に初めて踏み込んだものであり、人類史において最大級のインパクトをもたらすものになる」との認識を示す。
そのうえで同氏は、たとえば2025年にClaude Codeが登場したことで、AIが開発者を上回る品質のコードを書くようになり、人がコードを書く時代は大きな転換点を迎えたという。そうした急速に時代が変化するなかで、企業の競争力はどこに残るのか、人の役割はどう変わるのかという点で大きな危機感を持ったとのこと。
玉川氏は「ソラコムは、2025年7月に、After AIの組織になることを宣言した。ソラコムはインターネットが当たり前の時代に創業し、それをベースにした働き方を前提としてきた。しかし、生成AIを前提とした時代における働き方、組織、会社を作るのかを改めて検討した。結果、約200人の組織をビジネスごとの小さな人数に分け、それぞれにAIとともに仕事をする形にした。現場ではストレスがかかり、大変な苦労もしたが、1年で大きく変わることができた。全社でAIが活用され、さまざまな業務タスクやプロセスが自動化され、AIと人が協業するような環境が構築できた」と、同社のAI変革への取り組みを振り返った。
現在、社員のAI利用率は100%でコードはほぼ100%が生成AIによるものとなり、プロダクトのAI化を推進。1年間で売上販管比率を6ポイント削減できたという。同氏は「売上高は2桁の成長を維持している。人は減らさずに、より価値の高い仕事に取り組み、生産性を向上させた」と胸を張る。
ソラコムでは「個人利用」「データ基盤」「AI支援タスク」「AI駆動プロセス」「複利ループ」という5つのレベルで成熟度モデルを設定。
玉川氏は「個人利用は進んでも多くの企業がレベル2のデータ基盤整備の壁にぶつかっている。営業、人事、製品などのデータが連携できていないため、効率が向上しないという段階だ。また、レベル3ではAIボットなどでタスクをAIで自動化し、組織で共有すること、レベル4のAI駆動プロセスでは大半の業務をAIが代替する段階に入り、人は監督したり、フィードバックしたりする役割に変わる。そして、レベル5の複利ループでは、人とAIが協業し、業務プロセスがAI主体で改善することになる」との見立てだ。
こうした状況を鑑みて、同氏は「これからの企業は社内でAIを構築する力が重要となり、それを実行するのは人である。人がAIを作り、人が知識を与え、そのAIが人の意思決定を加速する。そして、人がその結果にフィードバックを返す。この学習ループが回り続けることで、トークン資本は複利的に蓄積されていく。自社独自のトークン資本が企業の競争力の源泉になる。だが、トークン資本の時代において人的資本は中核であり、人の役割はAIのリーダーになることである。これがAfter AIの組織の姿である」と述べた。
ここで言うトークン資本とは、AIとの協働を通じて蓄積される知識・データ・推論履歴などの資産と同社は位置付けている。
そのうえで、玉川氏は「ソラコムの新たな役割は、お客さまがトークン資本を貯めるために、安全な器を提供することである。お客さまのフィジカルデータやデジタルデータを取得し、これをリアルワールドAIプラットフォームに取り込み、お客さまのトークン資本を蓄積することに貢献する」と述べた。









