2026年6月2日~5日の期間において、台湾・台北市の台北南港展覧館 第1&第2展示ホール(TaiNEX 1 & 2)で開催された世界最大級のコンピュータ見本市「COMPUTEX TAIPEI 2026」において、Synologyはエンタープライズ向けストレージなどを展示。本稿では新製品を中心に紹介する。かつて、中小企業向けのNAS(Network Attached Storage:ネットワーク接続ストレージ)ベンダーとしてブランドを確立してきたSynologyは、近年エンタープライズ市場への進出を鮮明にしている。
会場では、同社のエンタープライズ戦略を構成する「ストレージ/データ管理」「次世代のデータ保護」「AI×生産性」「映像監視」の4つの領域ごとに製品が展示されていた。このうち、とりわけ重要性が高いと見られるのが、ストレージとデータ保護だ。いずれもIT基盤の中核を構成する領域であり、Synologyの戦略を読み解くうえでの鍵となる。
Synologyのエンタープライズ向けストレージ戦略
ストレージ分野では、ミッションクリティカル環境を想定した新たな製品構成が示された。具体的には、アクティブ-アクティブ構成に対応したオールNVMeモデル「PASシリーズ」の「PAS7700」が展示された。これは2つのノードが同時にアクティブとして動作する構成を前提としたもので、高い可用性を要求される業務システムへの適用を想定した設計となる。
アクティブ-アクティブ構成は、従来のアクティブ-スタンバイ構成と比較して、障害発生時の切り替え時間を最小化できる点が特徴であり、システム停止を避けたい用途に適している。同社がこの構成を前面に打ち出したことは、単なるファイルサーバ用途に加え、業務システム基盤としての役割を意識していることがうかがえる。
さらに同社は、スケールアウト型の大容量ストレージとして「GSシリーズ」の「GS3400」を展示。最大11.5PB(ペタバイト)まで拡張が可能となっており、大規模データ環境に対応した仕様となっている。
スケールアウト構成は、ノードを追加することで容量と性能を段階的に拡張でき、データ量の増加が予測しにくい環境や大規模データを扱う用途に適しているという。GSシリーズの投入は、同社が従来のスケールアップ型NASから分散型のストレージアーキテクチャに踏み出していることを示すものだ。
ランサムウェア対策を強化するActiveProtect
データ保護領域では、DPシリーズとして提供する専用バックアップアプライアンス「ActiveProtect」が中心的な役割を担う。会場では「DP5200」や「同7400」などが取り上げられていた。
同製品はエアギャップ、イミュータブル、バックアップ検証の機能を備えたデータ保護ソリューションとして位置付けられている。
エアギャップは、バックアップ環境をネットワーク的または論理的に分離することで、攻撃の影響を受けにくくする仕組みを指す。
イミュータブルは、一度保存したバックアップデータを一定期間変更・削除できないようにする仕組みであり、ランサムウェアによるデータ改ざんや削除から保護するための技術だ。近年、バックアップデータそのものが攻撃対象となるケースが増えているなかで、このような機能は必須要件となりつつある。
ActiveProtectは、これらを組み合わせることで、多層的なデータ保護を実現する構成となっている。また、ActiveProtectは既存のNAS製品に付随する機能としてではなく、専用アプライアンスとして提供される。これはバックアップをストレージ機能の延長ではなく、独立したインフラとして設計するという思想を反映している。
ストレージとバックアップを統合するデータ基盤設計
今回の展示におけるストレージとデータ保護は、個別の製品としてではなく、相互補完的な関係として設計されている点も興味深い。
たとえば、高可用性を重視したPASシリーズや、大規模データを扱うGSシリーズが「データの保存」を担うのに対し、ActiveProtectはそのデータを「保護する」役割を担う。この構造自体はシンプルだが、重要なのは、両者が同一ベンダーの製品として統合的に提供される。
企業にとって、ストレージとバックアップは密接に関連する領域でありながら、従来は別製品や別ベンダーで構成されることも多かった。同社ではこれらの領域を統合することで、導入や運用の負荷を低減しながらも、一貫したデータ管理を実現しようとしているようだ。
イミュータブルやエアギャップといった機能は、単体で導入するだけではなく、ストレージ環境全体の設計と組み合わせることで初めて効果を発揮する。ActiveProtectのアーキテクチャがどこまで一体化されるかが、実運用での評価を左右するポイントになるだろう。
「DSMエージェント」が担う統合基盤
ストレージとデータ保護を支える基盤として位置付けられるのが「DiskStation Manager(DSM)」だ。これまでDSMは同社製品の操作性や機能統合を支える中核ソフトウェアとして機能している。
これを進化させたものとして、近日公開予定でSynologyエコシステム全体にわたる事前構築済みの統合機能を備えた、DSMに内蔵されているAIエージェント「DSMエージェント」を紹介している。
定期的なヘルスチェックやサービスの状態、プロアクティブなアラートといった定型ワークフローを効率化するほか、不審なログイン、異常なファイルアクティビティ、ログ指標などのセキュリティインシデントの調査を可能としている。また、バックアッププロセスの検証やギャップの検出、復元ガイダンスを行うことも可能だという。
特にストレージとデータ保護の領域においては、設定管理、運用、監視、復旧といった一連のフローをどこまでシームレスに扱えるかが重要になる。DSMの進化は、こうした運用体験の統合に直結する要素であり、Synologyの競争力の源泉となるだろう。
周辺領域としてのAIと映像監視
展示では、AIを活用した生産性向上や映像監視といった領域も取り上げられている。AI領域では「Synology AIソリューション」として、プライベートクラウド環境上で生成AIを活用するアプリケーション群が提示されている。これにより、文書作成や情報検索、コラボレーションといった業務データを外部に出さずに実行できるという。
映像監視では、専用の監視カメラや映像管理ソフト「Surveillance Station」、AI解析を担う「DVA(Deep Video Analytics)シリーズ」を組み合わせた構成が紹介されている。近日中のリリース予定の360度魚眼カメラ「FC600」、ドームカメラ「DC400」「DC500Z/DC800」で人物検知や異常行動の認識などの情報を収集。
その後、DVAシリーズでリアルタイム分析が可能となるほか、最大3000拠点規模のカメラ・拠点を統合管理できる仕組みを備えている。これにより、大規模環境においても映像の取得から分析、管理までを一体的に行えるエンドツーエンドの監視ソリューションを提供する。
特に映像監視は、データ容量の増加が顕著な分野であり、ストレージ基盤との親和性は高いとみられる。
NASベンダーからデータ基盤ベンダーへ
COMPUTEX 2026における展示内容を整理すると、Synologyの戦略は明確だ。つまり、ストレージを軸としながらもデータ保護、AI活用、監視といった周辺領域を統合し、企業のデータライフサイクル全体をカバーする“ソリューションベンダー”へとシフトすることだ。
その中でもストレージとデータ保護は中核を構成する領域として重点的に強化されている。アクティブ-アクティブ構成やスケールアウト、イミュータブル、エアギャップなどは、いずれもエンタープライズ市場で求められる要件を意識している。
Synologyがこれらをどこまで統合し、実運用で価値として提供できるかが、今後の評価を左右することになるだろう。今回の展示は、その方向性と現在地を示したものと位置付けられる。








