今回のテーマはビーコンである。

例えばポマトのような、合体させたは良いがイマイチ市民権を得ていない新種野菜のような単語だが、どうやら食い物の話ではないようである。その時点で私の興味は9割削がれた。

しかし、何となく聞いた覚えがあるような言葉であるし、どことなくアナログな響きにさえ感じるが、これもITワードらしい。

ビーコンとは、光や電波などを発する固定された装置などのことで、その光を見た人や信号を受信した電子機器などが現在地を知るのに使われる。(出典:IT用語辞典e-Words)

久しぶりに意味を読んでも意味がわからねえワードのお出ましである。

無線と狼煙と尻文字と

誰も気づいていないかもしれないが、最新ITワードをわかりやすく解説するのが当コラムの趣旨だ。しかし書くほうも解説するワードの意味を理解していないため、読者も何も言われているのかわからないが、筆者も何を言っているかわからないという、ポルナレフ状態が頻繁に起こる。

もっとわかりやすく言えば、無線標識のことだ。わかりやすく、と言ったが私はますます見失ったので、そっちが勝手に理解してくれることを期待して言った。さらに原義までさかのぼると「狼煙」や「篝火」という意味になる。

もうこの時点で私以外の人間はわかったと思うが、つまり情報局が発信した「3秒後隕石が落ちてくるので何とか避けて」という情報を、ビーコンを受信する設備のある船や飛行機が間一髪避けたり、隕石が落ちてくるという覚悟が出来た上で無事隕石の餌食になれたりするというわけである。

無線なら何でも良いと言うなら、キレのいい尻文字をする人と、それを何十キロ離れていても認識できる人さえいれば、それはもはやビーコンと言えるような気がするが、これは最新ITコラムである。何を燃やせばイイ狼煙が上がるかを論じる場ではない。だがあえて言うなら、「もっと負ける技術」を燃やすとイイのが上がるので、早速10冊ぐらい買って燃やしてみよう。

何となく聞いたことがあるが、意味は知らないもの

船や飛行機なんか運転しないし、普通免許証さえもっていない、そもそも身分を証明するものが何もないという当コラム読者には無縁な言葉のように思えるが、ビーコンはスマホにも搭載されている。だが、スマホがキャッチするのは50km先の尻文字などではない、Bluetoothという信号だ。

Bluetoothも、何となく聞いたことがある程度の単語だ。もはや自分の世界は「何となく聞いたことがあるが、意味は知らないもの」で構成されており、それが何か知らないまま生きて死ぬんだろうなという気がしてきた。

具体的にどのように使われているかと言うと、例えば店舗においた機器が発信する「からあげ5トン5%オフ」などのクーポン情報を、近くを通りかかった人間の持つスマホが受信し、プッシュ通知でクーポン情報を知らせてくれるのである。

それでは、Bluetoothを発信しているところを通るたびに、プッシュ通知が鳴って小うるせえと思うだろうし、プッシュ欄がガチャつくのはあまり良いことではない。

私はソシャゲで珍しくレアカードが出たりすると、感極まりスマホ画面のスクリーンショットを取ってツイッターに上げたりするのだが、「それはいいけどプッシュ通知欄汚ねえ」「電池残量少なすぎ」などと言われてしまうからだ。

とはいえ無差別に情報を受け取るのではない。例えばセブソ-イレブソの発信する情報は、セブソのアプリが入っているスマホしか受け取らないため、勝手に受信して通知欄がパンクするということはない。

しかし、便利かと思ってアプリを入れたが、プッシュ通知がうぜえという理由でアプリを削除してしまう人間もいるため、ビーコンを使った販促はまだ試行錯誤の段階のようだ。

カレー沢氏がBluetoothで動かしたあるモノ

私に関して言えば、生活半径が大体1メートルという、無線を使うまでもなく、尻文字もクリアに見える範囲で生きているため、そういったものには無縁なように感じるが、一度Bluetoothというのを具体的に使ったことがある。

数年前、腹に張って振動を送るだけで痩せられるという、努力嫌いのデブが生涯10台は買うといわれているマシンを買ったのだが、それはPCなどから発信される音楽(Bluetooth)をマシンが受信し、音楽に合わせて振動するというものだったのだ。

何故数あるダイエットマシンから、その世界一いらない機能がついた奴を選んだかはわからないが、せっかくだからと私はそのマシンを腹に貼り付け、PCからミッシェル・ガン・エレファントのゲット・アップ・ルーシーを流した。

ゲッアッルシーと振動する腹、それが私のBluetooth体験である。ちなみにそのマシンの値段は3万円だった。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年11月29日(火)掲載予定です。