電子カルテ 挿絵

私は馬鹿なので、あまり病院に行かない。しかし生意気にも年に1回ぐらいは、腹が痛くなったり熱が出たりして病院にいくことがある。

だが、滅多に行かないせいで「かかりつけの病院」というものがなく、その都度、ネットで「近い病院」「今開いている病院」を検索、という、ぐるなびで昼飯を決めるかのようなノリで、飛び込み受診をしてしまうのだ。

そんな一見患者として、さまざまな病院を見てきたわけだが、同じ診療科でも、病院によってかなりの差がある。もちろん、診察する手に相当なビブラートがかかっている、という場合でもなければ、医者の良し悪しなど一見ではわからない。

だが「新旧」に関しては、入った瞬間わかる。つまり、同じ病院でも、設備が新しいか、古いか、には相当な差があるのである。

「便所まで最新」という病院もあれば、未だに水銀の体温計を出してきたり、血圧を測るのに「シュッシュシュッシュ」したりする病院もあるのである。

しかし、「こっちの病院はMRIだが、あっちの病院は実際に患者を輪切りにして調べる」というレベルの差だと困るが、血圧測定が自動だろうが「シュッシュシュッシュ」だろうが、正確に測れているならどっちでもいいし、便所が温水洗浄便座じゃなければ患者の命に関わる、というのは肛門科以外あまりないだろう。

今回のテーマも病院にとって「命に直接関わるわけではないが、こっちの方が便利」なものである。

電気は「ヤバイ順」に回される

電子カルテ(でんしカルテ)とは、従来医師・歯科医師が診療の経過を記入していた、紙のカルテを電子的なシステムに置き換え、電子情報として一括してカルテを編集・管理し、データベースに記録する仕組み、またはその記録のことである。(引用:「電子カルテ」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2018年5月14日 (月) 19:00)

まずカルテとは診療記録のことだ、診察室で、医者がこっちの話を聞きながら、ドイツ語で何か書いているあの紙のことだろう。数年ほど保管の義務があり、私のような一見患者な上、「一週間後経過を見るためまた来てください」と言ったのに「もう痛くないからいいや」と来ないような野郎のカルテですら、所定の期間は置いておかないといけないのだ。

当然場所も取るし、整理も大変だ。よって一般企業が、請求書や領収書を電子化しようとしているように、病院もカルテを電子化しようという動きになってきているのだ。

しかし、現時点でカルテを電子化している病院は一部にとどまっているようだ。電子カルテのメリットは、場所を取らない、ペーパレスで経費削減、検索ですぐ出せる、などが挙げられるが、停電すると使えない、データ消失や流出の恐れがあるなどのデメリットがある。

停電対策をしている病院は多いと思うが、非常電源というのは「ヤバイ順」に回されるものである。私の家にも停電時非常用コンセントが一個だけあるが、どこにあるかというと冷蔵庫の横だ。私的には、冷蔵庫の中身が腐るより、ソシャゲの体力が溢れる方が一大事なのだが、一般的には「冷蔵庫が一番優先」なのである。

病院で一番優先されるものと言ったら、もちろん人命だ。当然、非常電源は重要な医療器具順に回されるはずである。電子カルテは、それらと比べるとかなり優先順位が低いだろう。カルテを優先して、カルテの持ち主が死んだら本末転倒だ。

病院用非常電源も進化しており、電子カルテまでカバーできるものもあるようだが、当然そのレベルの非常電源を導入するには多額の費用がかかる。電子カルテ導入に金がかかり、さらにそれを確実に機能させるための非常電源にまた金がかかるため、個人医院がそこまでやるのはかなり難しいのである。

それに病院だって、カルテにかける金があるなら、まず「シュッシュシュッシュ」を自動にするだろう。これらの理由から、現在では電子カルテの導入は、余力のある大きな病院に限られているようだ。

ただ個人的に、「歯医者」はこういったハイテク化が早い気がする。どこの歯医者も一部屋ごとにパソコンモニターがついているなど、全体的にオシャレで小綺麗なのである。歯医者がもうかっているのか、それとも、そうしないと客がこない激戦区だからなのか。

確かに血圧が「シュッシュシュッシュ」だろうと、大勢に影響はないだろうが、なんとなく「シュッシュシュッシュ」じゃない病院の方に行きたくなってしまうのが人情だろう。ハイテクは受診する側の気分にもわりと影響しているのかもしれない。

<作者プロフィール>

著者自画像

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)、「カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄 - 」(2018)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2018年5月22日(火)掲載予定です。