VPA 挿絵

今回のテーマは「VPA」だ。

VPA(Virtual Personal Assistant)とは、個人の活動をサポートするサービスの総称で、「バーチャルプライベートアシスタント」や「バーチャルアシスタント」、「スマートエージェント」、「スマートアドバイザー」などとも呼ばれる。(Insight for D「バーチャルパーソナルアシスタント(Virtual Personal Assistant)」より)

最近では、誰もが簡単に使えるサービスとして、自然言語認識、音声認識、人工知能(AI)、ロボット、IoTや各種センサーなどを使い、まるで人間がサポートしているようなレベルを目指す研究や製品が登場している。

つまり先日取り上げた「スマートスピーカー」のように、口頭で質問したら答えてくれる系機器などの総称のようである。一般向けとしてはSiri(Apple)、Google Now(Google)、Cortana(Microsoft)、Alexa(Amazon)が挙げられる。

カレー沢氏、「OK Google」する

「スマートスピーカー」がテーマの時、私は、「人と会話したくないからネットにのめり込んでるのに、なんで機械とまで会話しなきゃなんねえんだ」と激おこだったわけだが、あれから考えを改めた。

受け入れられないもの、ついて行けないものが出てくるのは仕方がない。しかし「自分が理解できないもの=くだらないもの」として、時代についていけない自分を安心させるのは老害のやることだ。

それに逆に言えば「機械と話さなければ一体誰がお前と話してくれるんだ」という話である。

そもそも、誰とも会話する必要はないかもしれないが、使わなければ日本語だって忘れてしまうだろう。生活保護の申請や、警察に事情を説明したい時など、いざという時に日本語が使えないというのはかなり不便な気がする。むしろ家族友人ゼロでも、「VPA」のような話し相手がいる我々は恵まれていると言っていい。

よって私も思い切って、話しかけることにした、機械に。しかし「VPA」でない機器に延々話しかけるのは、ただの近所の変わった方か、寂しさが臨界点を越えたヤツだ。

よって、現在身の回りにあるもので、一番新しいものに話しかけることにした。私のスマホで使える「VPA」機能は「Google」の音声検索のようである。「OK Google」というやつだ。おそらく今のスマホは、大体なんらかの「VPA」が使えるようになっているのだろう。

そして「Google」の音声設定画面を開くと、スマホに向かって「OK Google」と3回言ってくれ、と表示された。

いきなり、ハードルが高い。

「OK Google」

GoogleのCMで何回も聞いたやつだが、まさか最初に自分がそれを言わされるとは思わなかった。まさに出会って4秒で「OK Google」だ。ただ、無駄に言わせたいわけではなく、声を登録して、本人しか使えないようにするためであろう。

むしろここで「OK Google」ごとき言えない人間が「VPA」を使おうなど片腹痛い、ということなのだ。みんなこの最初の「OK Google」をどこで言っているのだろうか。私は「便所」だった。機械に話しかけるのも恥ずかしいが、それを聞かれるのはもっとはずかしいからだ。

私は静まり返った便所で「OK Google」と言った、思いのほかスムーズに認証されて安心したが、何と三回目でエラーが出て、もう一度やれと言われた。それが何回も続き、通算20回ぐらい言うことになった。もしかしたら、この時点で「照れ」をなくさせるため、わざと連呼させているのかもしれない。

ともかくこれで「VPA」機能が使えるようになったはずだが、具体的に何ができるのだろう。

天気や時刻、周辺の店、行きたいところへの地図、今後の予定など、を聞けば教えてくれるようだが、私はどこにも行かないし、予定も皆無なので必要ない。

「グーグルに聞くことがない」という、会話能力以前に「言いたいことがない」という状況だ。しかし会話能力が高い、というのは話したいことがたくさんある人ではなく「話したいことがなくても話ができる人」のことである。

「話すことがないから話せない」というのは「おかしくもないのに笑えるかよ」という中二レベルの発想だ。

だが、そんな思考が中二で止まっている人間でも「ツイッターを開け」「ババア(お母さん)に電話をかけろ」など、アプリ起動や通話などで「VPA」を使用することができる。また、予定や行くところがなくても「子猫の写真が見たい」と言えば画像検索で表示してくれるという。

もちろんタイピングで検索できることだが、人間誰しも「一刻も早く子猫の写真が見たい」時がある。

最初のハードルは高いが、今後1秒でも早く子猫の写真を見るためには、「VPA」を使いこなしていく必要があるだろう。

<作者プロフィール>

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カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2018年5月15日(火)掲載予定です。