アリアン

アリアン・ロケットの開発は1973年に始まった。1975年にはELDOと、もう1つ別の組織であった「欧州宇宙研究機構(ESRO)」とが統合され、「欧州宇宙機関(ESA)」が設立された。そして1979年12月24日、アリアン・シリーズの最初のロケットである「アリアン1」の1号機が打ち上げられた。アリアン1は11機が打ち上げられ、1986年に引退した。

また1986年には打ち上げ能力を増したアリアン2が登場し、1989年までに6機が打ち上げられた。また、ややさかのぼって1984年には、アリアン2よりもさらに打ち上げ能力を増したアリアン3も登場しており、1989年までに11機が打ち上げられている。

そして1980年には、アリアン・ロケットの運用を担う企業として、アリアンスペース社が設立された。欧州各国の出資によって設立された企業だが、フランスがその半分以上を負担しており、本社もフランスに置かれている。

アリアン1ロケット (C)ESA

アリアン1、2、3ロケット (C)ESA

そして1988年6月15日、アリアン3からさらに打ち上げ能力が強化されたアリアン4が登場する。アリアン4は116機が打ち上げられ、そのうち113機が成功という、ロケット史上に華々しい成果を残して、2003年に引退した。アリアン4はアリアン1から3の設計を受け継ぎつつ、打ち上げ能力を大きく向上させることに成功し、またブースターの基数などを柔軟に組み替えられる仕組みを導入し、多種多様な人工衛星の打ち上げに対応することができた。

このアリアン4の成功、また最大のライヴァルになるはずだったスペースシャトルが、1986年にチャレンジャーの事故を起こして運用が一時停止されたこと、さらに当初の「毎週1機の打ち上げと衛星の輸送コストの大幅な低減」という目標を達成できなかったことも追い風となり、アリアンスペース社は世界で最も成功した商業打ち上げ企業となった。

アリアン4ロケット (C)ESA

アリアン4ロケットのヴァリエイション (C)ESA

禍を転じて福と為したアリアン5

だが、アリアン4の開発が進められていた1980年代の時点で、年々増加する衛星の大きさや質量に、十分に応えられないという見通しが強くなっていた。またアリアン4は前述のように、アリアン1、2、3を進化させた末に開発された「究極のロケット」で、もはや打ち上げ能力をさらに上げられるほどの余地は少なくなっていた。そこで、アリアン4までとはまったく異なる、新しいロケットの開発に着手することになる。それがアリアン5であった。

アリアン5は1996年6月4日に1号機が打ち上げられるも失敗、1997年10月30日には2号機が打ち上げられるも、今度は衛星を予定より低い軌道に投入してしまうなど、芳しい出だしではなかった。しかし現在では安定し、現時点での連続打ち上げ成功数は63機を記録している。アリアン4に続いて、アリアン5もまたアリアンスペース社が商業打ち上げ市場の頂点に立ち続けるための立役者となった。

アリアン5の最大の特徴は、静止衛星を2機同時に打ち上げられる点にある。これにより、衛星1機をロケット1機で打ち上げるよりも、衛星1機あたりの打ち上げ費用を若干安くすることに成功している。

アリアン5はもともと、欧州版スペースシャトルである「エルメス」を打ち上げるロケットとして開発されたが、そのエルメスが開発段階で徐々に肥大化したため、それに合わせてアリアン5も打ち上げ能力を増やすために徐々に肥大化していった。その後、結局エルメスは開発中止となり、あとには強力過ぎるアリアン5だけが残ることになった。しかし、この能力を生かして静止衛星を2機同時に打ち上げるというアイディアが生まれ、これが大当たりした。

もちろんアリアンスペース社がそれまでに培ってきた信頼やブランド力、またESAからの資金的な援助もあってのことではあるが、アリアン5は現在、世界で最も成功している商業ロケットになった。

アリアン5の初期型はアリアン5 Gと呼ばれ、その派生型としてアリアン5 G+、アリアン5 GSといった種類が造られたが、すべて引退している。現在運用されているのはアリアン5 ECAとアリアン5 ESの2機種で、初期型と比べて第1段ロケットエンジンや固体ロケットブースターなどが大きく改良されている。

アリアン5 Gロケット (C)ESA

アリアン5 ECAロケット (C)ESA

アリアン5 ESロケット (C)ESA

ファルコン9ロケットの出現

しかし、そのアリアン5に強敵が現れた。設立からわずか10年ほどしか経っていない米国の民間企業スペースX社のファルコン9ロケットだ。ファルコン9は低価格なことが最大の売りで、また打ち上げ成功を重ねて信頼性も確立されつつあることも手伝い、商業打ち上げ市場の中でのシェアを徐々に伸ばしつつある。

また、他国でも新型ロケットが登場しつつある。ロシアはプロトーンMロケットの後継機となるアンガラーを開発しており、すでに試験機が2機が打ち上げられている。ロシアでは2020年ごろに、プロトーンMからの代替を始めたいとしている。

さらに、現在でも低価格と高い打ち上げ成功率を誇る中国の長征ロケットも、次世代型の長征シリーズが数年のうちに登場する予定となっている。ただ、中国はかねてより、国際武器取引規制(ITAR)によって西側の衛星を商業打ち上げすることは不可能な状態にある。一時は欧州のメーカーがITARフリーな衛星を開発したりもしたが、その後規制が強化されたため、再び打ち上げられない状態になっている。したがって、差し迫った脅威にはならないが、かといって無視できる相手でもない。

また日本も、H-IIAロケットの後継機となる新型基幹ロケットの開発を進めており、2020年以降に登場する予定だ。打ち上げ費用はH-IIAの約半額、つまり約50億円から60億円ほどになる予定で、実現すればファルコン9らと並ぶ強敵になる。

これらを相手に、アリアン5では価格面で勝ち目は無い。そこで2012年11月19日と20日の2日間にわたって開催された、今後のESA全体の方針を決めるESA閣僚会議の中で、2つの新しいロケットを開発することが決定された。一つはアリアン5の正統な進化型であるアリアン5 ME。そしてもう一つは、他の次世代ロケットと本格的に戦うことを目指したアリアン6である。

アリアン5 ME

アリアン5 MEは現在のアリアン5 ECAを基に、第2段に「ヴィンチ」と呼ばれる新しいロケットエンジンを装備する。現在使われているHM7Bエンジンと比べ、ヴィンチはさらに性能が上がっており、またHM7Bには無いエンジンの再点火能力も持ち、さらに軌道上での運用可能時間も延びる。これにより衛星を静止軌道に直接投入したり、2機の衛星をそれぞれ異なる軌道に投入したりといったことが可能となる。ヴィンチという名前はもちろん、レオナルド・ダ・ヴィンチに由来している。

また電子装置も改良されることでより正確な飛行が可能となる他、衛星を保護するフェアリングや、2機同時打ち上げを行うためのシルダ5と呼ばれるアダプターも改良され、より大きな衛星の打ち上げに対応できるようになる。これらの改良によって、静止トランスファー軌道への打ち上げ能力は11.2tにまで向上する(現在のアリアン5 ECAは10.0t)。すでに開発は始まっており、初打ち上げは2018年に予定されている。

次に開発されるアリアン6には、このアリアン5 MEの開発で得られた技術や部品が多く活かされることになる。

アリアン5 MEロケット (C)ESA

(次回は1月25日に公開予定です)

参考

・http://www.esa.int/Our_Activities/Launchers/A_look_at_the_past2
・http://www.esa.int/Our_Activities/Launchers/Ariane_1_2_32
・http://www.esa.int/Our_Activities/Launchers/Ariane_42
・http://www.space-airbusds.com/en/programme/future-launchers-flpp.html
・http://www.esa.int/Our_Activities/Launchers/Launch_vehicles/Adapted_
Ariane_5_ME