PCメーカーであるカスタマたちは既にIntelの独占状態になっていた386市場にAMDが戻ってきたことを歓迎した。しかし、保守的なカスタマも多かった。"本当に完全互換なのか?"、"ハードは独自だが、Intelのマイクロコードを使っているそうじゃないか、AMDの製品を使ったことによって、Intelが我々を訴えたらAMDは補償してくれるのか?"などなど。

私も、AMDから買いたいのはやまやまだけど、法律問題があって踏み込めないというカスタマにAMD本社から法務部門の人間を呼んで顧客を訪問しまくった。やはり、そのころからIntelの市場独占が始まっていたのであって、Intelはその独占ゆえにますます強大になっていったのは明らかであった。

ある日本のお客に行ったとき、"君、Intel製品に完全互換と言うことは、Intelの386のバグ(不具合)も起こるということだよね、それを保証できるの?Intel製品で起こることはすべて再現してもらえる互換品でないと我々は使えない"と言われて絶句したのを憶えている。市場独占というのはそういうことなのだという実感が身に染みてわいてきたのを今でもはっきり思い出す。その後、AMDはIntel互換と言う考え方を捨てて、ソフトウェア互換という考え方に舵を切ったが、それは当然と言えば当然の帰結であった。

しかし、PC市場は成長に次ぐ成長、新たなPC・AT互換機メーカーが参入し、しのぎを削っていた時代なので、時間とともにAm386は次第に市場に受け入れられ、AMDの屋台骨を支える存在となった。

Am386 (提供:長本尚志氏)

(次回は7月6日に掲載予定です。)

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。
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