エンジンを持たないグライダーは話が違うが、飛行機には騒音問題がついて回る。特にジェット機になってから顕在化した話で、周囲が住宅地で囲まれてしまった伊丹空港のように、発着できる機材の種類を制限する事例も出てくる。もっとも、昔のレシプロ・エンジンを使用する戦闘機でも、相応の騒音は出るものだ。

騒音測定にはマニュアルがある

航空機の騒音低減に用いられている技術については、本連載の第23回で取り上げたことがある。

ただ、環境保護のために騒音規制を実施するとなると、何かしらの定量的な基準が必要である。そこで環境省では、航空機の騒音測定・評価に関するマニュアルを用意している。このマニュアルで書かれている内容に従って、測定地点の選定や計測を実施すれば、ひとつの客観性のある指標ができる。

面白いのは、測定の方法だけでなく、測定期間に関する定めもあることで、基本的には「連続する7日間」となっている。曜日によってトラフィックの状況が変わることもあるから、すべての曜日をカバーするには7日間が必要、ということだろうか。

  • 伊丹空港に着陸したボーイング787。周囲の都市化が進んでいる様子は一目瞭然 撮影:井上孝司

    伊丹空港に着陸したボーイング787。周囲の都市化が進んでいる様子は一目瞭然

騒音が問題になるのは、飛行機が離着陸する飛行場の周囲である。高度が上がってしまえば、地上まで音は聞こえてこないし、聞こえたとしても大したボリュームにはならない。離着陸のどちらがうるさいかといえば、これはもちろん離陸である。十分な速度まで加速するために、エンジン出力を全開にするので、そうなる。

そして御存じの通り、飛行機は離陸でも着陸でも、向かい風になるように針路をとるから、双方向の測定が必要になる。例えば、同じ羽田空港の北側でも、南風運用が多い夏季には着陸機が主体だから騒音は控えめになるが、北風運用が主体になる冬期には離陸機が主体となるため、話が変わる。

機材・エンジンによって騒音の程度は違ったものになるため、新型機、あるいは同じ機種でもエンジンが新型に変われば、測定のやり直しが必要になる。最近では、鳥取県の航空自衛隊美保基地に新型給油機KC-46Aが到着したが、その際、美保基地に着陸する前に、騒音計測のための飛行を実施していた。KC-46Aはボーイング767ベースの給油機だから、傾向としては767と変わらないはずだが、新しい機体であることに変わりはない。

戦闘機でも、新型機の配備前に騒音計測をはじめとする環境影響評価を実施している。例えば、アメリカではこの辺がまことにオープンで、新型機の配備先候補になった基地について、環境影響評価を実施した上で、報告書を作成・公開している。

数字の上での騒音と体感騒音

ここから先は余談。

もちろん、客観的な指標として「騒音計などの測定器を用いたデータ収集」は欠かせない。ところが実際のところ、うるさく感じるかどうかは、dB(デシベル)の数字だけでなく、音の質に影響される部分が大きいのではないか。と、個人的には考えている。

だから、計測器で測定した数字が同じでも、「うるさく感じる機種」と「それほどでもない機種」が出現する可能性がある。言葉を換えれば、同じ「うるさい」でも、「うるさい」の質が異なる、という話。あまり良い例えではないかもしれないが、温度計で測定した気温と体感温度の違いみたいなものだ。

燃費改善をはじめとする経済性の追求とともに、環境性能としての騒音低減も追求している民航機の場合、昔と今とで比較すると、騒音の問題は緩和されてきている。それでも離陸上昇中は相応にうるさいが、着陸する機体を滑走路端の辺りで撮っていても、カメラを放り出して耳を塞ぎたくなるようなことは起こらない(筆者の鼓膜が多分に鍛えられている、という可能性はあるにしても)。

ところが、騒音対策などどこ吹く風、の戦闘機は話が違う。およそ戦闘機と名の付く機体で、静かな機体というのは聞いたことがない。しかしその中でも、印象的なやかましさというものがある。

具体的に名前を挙げてしまうと、F/A-18E/FスーパーホーネットとF-35ライトニングIIである。F/A-18E/FのF414エンジンは高音の成分が強く、いわば「金切り声のような騒音」を発する。それに対して、F-35のF135エンジンは低音の成分が強く、腹に響く。筆者は冗談で「腹に響くので、消化促進になる」といっている。岩国基地に行けばどちらも配備されているから、聞き比べができる。

  • 比較的コンパクトな見た目とは裏腹に、F-35は腹に響く爆音を響かせる 撮影:井上孝司

    比較的コンパクトな見た目とは裏腹に、F-35は腹に響く爆音を響かせる

F/A-18E/Fと同じ、GE製F414エンジンを搭載した機体というと、サーブのグリペンEもある。ただ、双発のF/A-18E/Fに対してグリペンEは単発だから、実機が飛んでいるところを見た経験からしても、まだしもマシであったと思う。

悪い意味で裏切られたのが、U-2S偵察機。グライダーみたいな外見の持ち主で、着陸進入中は大した騒音を出さない。ところが、エンジン全開で上昇するときは豹変して、とんでもない騒音を出す。これは、外見から勝手にイメージしていたら裏切られた、という種類の話になるのだが、そんなところまで「体感騒音を構成する要素」に入ってくると、手の打ちようがなさそう。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。