宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は10月20日、同日打ち上げたH3ロケット10号機について記者会見を開催し、結果を報告した。搭載した火星衛星探査機「MMX」は所定の軌道に投入されており、打ち上げは成功。H3ロケットの成功はこれで3機連続(6号機、9号機、10号機)で、成功率は80%ちょうどまで向上した(成功は10機中8機)。
ロングフェアリングの初飛行に成功
H3ロケットは、初号機がいきなり失敗。1年で飛行を再開し、5機連続成功でもう大丈夫かと思われた矢先、7機目の8号機で再び失敗するという事態になった。しかし、わずか半年で飛行再開を果たし、そこから3機連続で成功。直近の3機については、30S、22S、24Lと全て形態が違っており、柔軟性の高いH3ロケットの新たな出発を印象づけた。
MHIの江口雅之・常務執行役員 防衛・宇宙セグメント長は、「連続して成功するのは、顧客に訴求する力が強い」とコメント。「少しずつ信頼感をアピールできているのではないか。さまざまなところから話をいただいているが、昨年や一昨年よりも増えている。衛星打ち上げの受注に向けて、良い環境ができている」と、手応えを述べた。
JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャは、節目となる10号機を迎えたことについて、「ロケットは2ケタ目にもなれば、一人前にならないといけない」とした上で、「H3はこれまでいろいろなことがあったが、その1つ1つを反映して信頼性が向上、安心して使ってもらえるロケットに成長した」と自信を見せた。
10号機は、国産フェアリングによる最強形態「24L」の初打ち上げだった。これで、固体ロケットブースタ無しで最も安価な30S形態から、大型静止衛星や小型衛星コンステレーションの打ち上げなどに活用できる24L形態まで、全て実証できたことになる。まだ「LE-9」エンジンタイプ2の完成が残っているが、これについては「まもなく」とした。
なお、今回は天候に恵まれ、H3ロケットとしては初の延期無し打ち上げとなった。種子島の打ち上げで延期が無かったのは、H-IIAロケット43号機以来、約6年ぶり。H3も、2号機、3号機、5号機、7号機、6号機の5機は1回延期しただけだったのだが、改めて、天候さえ良ければ一発で打ち上げられる、という能力を示したといえるだろう。
有田プロマネがかつてファンクションマネージャを務めたH-IIBは、9機中の4機が延期無しだった。「H-IIBは初号機から“ジャストオンタイム”だったのでそれが当たり前だと思っていたが、H3ではなかなかできず、不甲斐ない思いもしていた」という有田プロマネだが、今回ようやく実現して「一人前になった1つの証になったかな」と笑顔を見せた。
H3の深宇宙への打ち上げ能力も実証
今回はH3ロケット初の惑星間軌道への打ち上げということで、これまでの10機では最長のミッションとなった。しかし打ち上げシーケンスは、各イベントとも、計画値からの誤差はわずか数秒ほど。きわめて順調に進行し、打ち上げの1時間11分13秒後、MMXの分離に成功した。火星遷移軌道への投入精度についても、非常に高かったという。
第2段エンジン「LE-5B-3」が大西洋上で2回目の燃焼を開始し、高度がどんどん上がるのを見て、「本当にこれから遠くに行くんだな」と思ったという。なお、MMXを分離した後の第2段も地球を脱出し、火星の方に行ってしまうが、火星に落として汚染することがないよう、最後には火星から離す方向に残存推進剤を放出したそうだ。
軌道上の関係により、火星へ向かうチャンスは2年ごとに訪れるのだが、MMXはH3ロケットの開発遅れにより、前回の打ち上げ機会を逃していた。今回、最高の形でMMXを送り出すことができて、有田プロマネは「やっと川勝さんとの約束が果たせた。肩の荷が下りた」と、安堵の表情を見せた。
一方、その川勝康弘MMXプロジェクトマネージャは、今回、初めて種子島宇宙センターの管制室で打ち上げを見守った。「いろんな画面があって、どこを見れば良いのか分からなかったが、節目節目でH3やMHIの方が“ヨシ!”とか“OK!”などと言うので、だんだん大船に乗った気持ちになり、みんなと一緒に喜んでいればいいんだと楽しんだ」と笑わせた。
分離後のMMXからの電波は、国内の3カ所の地上局で待ち構えており、ほぼ期待通りの時刻に受信。電力、温度、通信など、安定した状態にあることを確認した。翌日には初期クリティカル運用フェーズも無事終了し、今後、3カ月ほどをかけ、搭載機器のチェックアウト(初期機能確認)を行う予定だ。
いよいよ5年間のミッションがスタート
MMXの次の大きなイベントは、2027年8月に予定されている火星周回軌道への投入だ。これは、決められたタイミングで大きな減速を行う必要があり、やり直しができない一発勝負。地球周回のミッションならエンジンの噴射を遅らせることも可能だが、これはそのタイミングにやらないと、火星を通り過ぎてしまう。
これまで、日本の月・惑星探査では、火星探査機「のぞみ」、金星探査機「あかつき」、小型月着陸実証機「SLIM」など、たびたび推進系に不具合が発生している。のぞみは、最終的に火星周回を断念。あかつきは、最初の金星周回に失敗している。惑星周回は、未だに簡単なミッションではない。
川勝プロマネは、過去のこうした不具合についても言及し、「同じ問題については、再発しないような対策をしっかりやってきた」とコメント。「それ以外にもどんな異常事態が発生する可能性があるか、設計のかなり早い段階から検討していて、できるだけリスクを下げるような努力をやってきたつもり」と、自信を見せた。
なお、MMXの打ち上げ時重量は4,480kgで、そのうち推進剤は3,030kg(往路分1,840kg、復路分1,190kg)と、およそ3分の2を占める。打ち上げが2年遅れ、その間にロケット側のマージンを減らすことができたため、ミッションがよりロバストになるよう、その分は推進剤を積み増したそうだ。
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