この半導体ニュースのまとめ

・AMATが総額約50億ドルを投じる半導体研究開発拠点「EPICセンター」を開設
・材料、製造装置、プロセス技術を同一施設で並行開発し、本格量産までの期間短縮を目指す
・TSMCやIntel、メモリ各社に加え、アドバンテスト、SCREEN、キオクシアの日本企業も参画

Applied Materials(AMAT:アプライド マテリアルズ)は10月12日(米国時間)、米国カリフォルニア州サニーベールにある同社キャンパスで、半導体プロセス技術と製造装置の共同研究開発拠点「EPIC(Equipment and Process Innovation and Commercialization)センター」を開設した。

顧客プロジェクトの開始に伴って投資額を段階的に拡大し、総額約50億ドル規模とする計画で、同社によると、半導体プロセス技術と製造装置の共同研究開発に特化した施設として世界最大級になるという。

AIインフラの拡大に伴い、半導体には演算性能だけでなく、電力効率、メモリ帯域、チップ間接続、熱対策などの向上が求められている。トランジスタや配線、メモリ、先端パッケージングを個別に開発するだけでは、AIシステム全体が求める性能や電力効率を実現することが難しくなりつつある。

EPICセンターでは、半導体メーカーやシステム企業、製造装置メーカー、大学の研究者がAMATの科学者やエンジニアと同じ施設で共同開発を行い、マテリアル イノベーションから本格量産までの期間短縮につなげることを目指す。

  • Applied Materialsがシリコンバレーに設置したEPICセンター
  • Applied Materialsがシリコンバレーに設置したEPICセンター
  • Applied Materialsが米カリフォルニア州サニーベールで公開した「EPICセンター」。顧客プロジェクトの開始に伴って投資額を段階的に拡大し、総額約50億ドル規模とする計画 (出所:AMAT)

約1万6000m2の先進クリーンルームを整備

EPICセンターの建屋面積は60万平方フィート(約5万6000m2)で、このうち約4エーカー(約1万6000m2)を先進クリーンルームが占める。

完成までに延べ600万時間を超える建設作業を要し、基礎に使用したコンクリートはオリンピック規格のプール34杯分、鉄筋構造に使用した鋼材はエッフェル塔2基分に相当。クリーンルームを覆う屋根には長さ約300フィート(約90m)のトラスを34本採用。この重さはスクールバス12台分に相当するとしている。

同施設は規模が特徴というわけではなく、研究段階の材料やプロセスを、実際の半導体製造に近い環境で評価できる点を特徴としており、これにより大学や研究機関で生まれた材料やデバイスのアイデアを、業界規模の装置へ移し、量産を見据えた条件で検証できるようになるという。

逐次開発から材料・装置・プロセスの並行開発へ

半導体業界では従来、基礎的な材料研究、製造装置とプロセスの開発、プロセスインテグレーション、パイロット生産を多くの場合、それぞれ異なる環境で進めてきたため、研究成果を次の開発段階へ移すたびに、データや試料、プロセス条件を引き継ぎ、移管先の装置や製造環境で条件を再構築する必要があった。

新材料が研究段階で優れた性質を示しても、量産装置で安定して成膜・加工できなければ半導体製造へ導入することはできないことから、EPICセンターは、材料を研究する人、製造装置を開発する人、半導体を製造する人を1つの施設へ集め、こうした段階間の引き継ぎを減らすことを目的として設計された。

材料、装置、プロセス技術を逐次的ではなく並行して開発することで、新材料や新技術の成功率を高めるほか、課題を早い段階で見つけて設計へ反映し、研究から商用化までの学習サイクルを短縮することにつなげる。

AMAT セミコンダクタ プロダクトグループ プレジデントのPrabu Raja氏は、原子レベルの寸法では材料や材料界面が従来とは異なる挙動を示すため、それらを業界規模で実用化するには、連携した開発と統合ソリューションが必要になると説明する。

顧客のエンジニアが、技術を自社工場へ導入する前の段階より最適化に向けた取り組みへと参加することで、EPICセンターから送り出す技術を、高性能・高歩留まりで量産を立ち上げられる状態へ近づける狙いだ。

TSMCやIntel、メモリ大手などが創設パートナーとして参画

EPICセンターには、半導体メーカーだけでなく、システム企業、製造装置メーカー、大学など、AIテクノロジースタックを構成する幅広い企業・組織が参画。創設パートナーとしては、TSMC、Intel、Samsung Electronics、Micron Technology、SK hynixが名を連ねるほか、イノベーションパートナーとしてBroadcom、アドバンテスト、SCREEN、キオクシア、BE Semiconductor Industries(Besi)が、リサーチパートナーとしてArizona State University、Rensselaer Polytechnic Institute、Stanford University、UC Berkeley、UCLA Samueli School of Engineeringが参画している。

創設パートナー5社は、TSMCが2nm以降の半導体に向けた新たなデバイスアーキテクチャ、低抵抗配線、先端パッケージングなどを対象に、研究開発から本格量産への移行を加速するほか、Intelは、次世代トランジスタや配線、先端パッケージングを対象に材料とプロセス技術を共同開発する。Samsung Electronicsは、先端ロジック、半導体メモリ、先端パッケージングを横断した共同開発を推進。Micronは次世代メモリ技術を研究段階から本格量産へ移行する期間の短縮を目指す。そしてSK hynixは、AIコンピューティングで課題となるデータ移動性能の向上に向け、HBM、DRAM、NANDにおける材料やプロセス技術の転換をAMATと共同で進めるとしている。

日本からアドバンテスト、SCREEN、キオクシアが参画

イノベーションパートナーであるBroadcomは、AIシステムに求められる演算、メモリ、コネクティビティを高密度に統合するため、将来のシステム要件と先端パッケージング技術を結び付けるほか、アドバンテストは、AMATのマテリアル エンジニアリングおよびプロセス制御技術と、半導体テスト・計測技術を連携させる。先進的な3Dアーキテクチャや異種集積では、前工程で得られるプロセス情報と、後工程のテストや計測で得られる結果を結び付ける必要性が高まっている。両社は前工程と後工程の間にあった情報や技術の分断を減らし、歩留まり向上と量産立ち上げの短縮につなげるとしている。

また、洗浄装置大手のSCREENは、次世代チップアーキテクチャを支えるウェットプロセスと、AMATが強みとするドライプロセスやマテリアル エンジニアリングとの共同最適化を進める。3Dデバイスや先端パッケージングの構造が複雑化する中、成膜、エッチング、材料改質、洗浄、ウェットエッチング、表面処理など、隣接する複数工程を連携させ、性能と歩留まりを高める狙いだ。

日本の半導体メーカーであるキオクシアは、メモリ、ロジック、インターコネクトが統合システム内で連携する次世代メモリ技術を対象に、AMATやほかのパートナー企業と共同開発を進める。具体的には、先進メモリセルや新たなメモリ構造、マルチチップ積層アーキテクチャ、積層型メモリ向け先端パッケージング、マテリアル エンジニアリングなどの技術開発が想定される。

Besiは、高精度なダイ・ツー・ウェハボンディング技術と、AMATの前工程プロセス技術を組み合わせ、次世代AIシステムを支えるハイブリッドボンディング技術の開発を進めるとしている。

大学研究を製造現場に近い環境で検証

半導体の新たな材料やデバイス構造は大学の研究室から生まれることも多いが、研究用装置と量産用装置では、ウェハサイズや処理能力、プロセス条件、装置構成などが異なる。

EPICセンターでは、リサーチパートナーを中心とした大学の研究者や学生が、半導体メーカーが利用する業界規模の装置やAMATの技術者へアクセスできる環境を整備。研究室で生まれたアイデアを、実際の製造に近い環境で試作・評価し、量産時に生じる課題を早期に把握することで、研究成果が半導体製造へ採用されるまでの期間を短縮することを目指すという。

半導体の材料や製造プロセスに関する知識に加え、デバイス、装置、プロセスインテグレーションを横断して考えることのできる人材を育成する場としての役割も期待されている。

知的財産を保護しながら共同開発

EPICセンターへ参加する各企業・大学は、それぞれの技術ロードマップ上の課題を持ち込み、研究者やエンジニアを施設へ派遣し、知的財産を保護できる環境が構築された現場でAMATと共同で短サイクルで試作、評価、改善を繰り返すこととなる。

半導体メーカーにとっては、次世代の材料や製造装置へ早い段階でアクセスできることに加え、開発サイクルと量産導入までの期間を短縮できるメリットがある。一方、AMATは複数世代にわたる顧客の技術課題を早期に把握できるようになる。顧客が将来必要とする材料、装置、プロセス技術を研究段階から共有することで、自社の研究開発投資を重点領域へ振り向け、装置やサービスを顧客のロードマップへ早い段階から組み込む狙いがある。

AI時代の半導体開発を「共創」へ転換

AI半導体では、複数ダイを1パッケージに収める必要があり、しかもそれぞれを横に配置するだけでなく、上下に積層することも求められるようになってきている。そうなれば、チップごとのトランジスタや配線、メモリ、先端パッケージングなどといった個別最適化だけでは間に合わず、システム全体の性能、電力効率、帯域幅、熱などを考慮して複数の技術を同時に最適化する必要がでてくる。

特にデバイス構造が3次元化し、異なる機能を持つ複数のチップを組み合わせる異種集積が進めば、材料や材料界面、製造プロセスの相互作用も増える。IDM全盛の時代で、製造装置、半導体材料、前工程、後工程、システムまで一気に社内やグループ内だけで実現できた過去はいざ知らず、システムの複雑化が急激に進む現代において、半導体メーカー1社が保有する技術だけで、こうした課題のすべてを解決することは難しい。そのため、少なくとも半導体メーカーとは直接競合しないAMATがEPICセンターという枠組みを用意し、半導体メーカー、システム企業、製造装置メーカー、大学が、それぞれの技術を持ち寄って開発する形で、こうした課題解決につなげていくこととなる。

2023年の計画公表時に最大40億ドルとしていた投資規模は、顧客プロジェクトの開始に伴って段階的に拡大し、総額約50億ドル規模となる見込みである。

AMATは、材料の基礎研究から装置・プロセス開発、プロセスインテグレーション、量産立ち上げまでを同じ施設でつなぐことで、次世代半導体技術を研究成果で終わらせず、AI時代に必要な規模で早期に量産できる仕組みの構築を目指すとしている。