日本ヒューレット・パッカード(HPE)は10月6日、「Agentic AI時代の新しいIT運用を支えるHPEソリューション」に関する説明会を開いた。同社 執行役員 プリセールス統括本部長兼Geo Chief Solution Architectの中村史彦氏は、AI活用が生成AI中心の段階から、自律的に推論や実行を行うAgentic AI(エージェンティックAI)の時代へ移行しつつあるとの認識を示し、企業が目指すべき姿として「Agentic Enterprise」を提唱した。
AIは「生成」から「自律的な推論・実行」の段階へ
冒頭、中村氏は「2022年のChatGPT登場以降、生成AIが企業で急速に普及した。次の潮流としてAIエージェント同士が連携して業務を遂行するエージェンティックAIへの期待が高まっている。エージェンティックAIでは複数のエージェントが状況に応じて判断し、人やシステムと連携しながら業務を進める。さらにその先には、物理世界で動作するフィジカルAIの時代も見据えている」と説明した。
HPEはこうした変化をAgentic Enterpriseと表現し、AIエージェントが企業のデジタル労働力として人と協働しながら価値を創出する新たな企業運営モデルであり、その実現に向けて企業のIT基盤や運用モデルにも変革が求められるという。
マッキンゼーの調査によれば、AIエージェントを本格展開している大企業の割合は2025年の27%から2026年には40%へ拡大したほか、IDC Japanの予測では国内AIサーバ市場において推論用途の支出が2027年に学習用途を上回り、その後も成長が続く見通しだ。
Agentic AIがもたらす4つの運用課題
他方、Agentic AIの本格利用には多くの課題が存在すると中村氏は指摘する。第1の課題は、業務の複雑化と動的化だ。従来のシステムでは事前に定義されたワークフローに従い処理が進んでいたが、エージェンティックAIの時代にはAIエージェントが状況に応じて、さまざまなデータやアプリケーションにアクセスし、複数のエージェント同士が連携して処理を実行する。そのため、処理経路を事前に定義することが難しくなり、人だけで全体を把握・制御することが困難になるという。
第2の課題は、トークン消費量の急増によるコスト管理だ。エージェンティックAIではエージェントが推論、ツール実行、結果検証、再試行を繰り返す。その結果、従来の一問一答型の生成AIと比較してトークン利用量が大幅に増加する。
中村氏は公開事例を引用しながら、約100のAIエージェントを並列稼働させたケースでは月間6000億トークンを消費し、API利用コストが月額100万ドル規模になった例を紹介した。今後はトークンエコノミクスの管理が重要になるとの見方を示した。
第3の課題は、AIワークロードによるインフラ需要の変化だ。推論処理が増加するとGPUだけでなくCPUの重要性も高まる。中村氏は「AI学習中心だった従来環境ではCPU1に対してGPU8程度の構成が一般的だったが、推論処理の比重が高まることで将来的には1対1に近づく可能性がある」と説明した。また、分散配置されたAIエージェント同士の通信が増えることで、ネットワーク性能や信頼性、セキュリティへの要求も高まるという。
第4の課題はセキュリティとガバナンス。AIエージェントが企業内で自律的に動作するようになると、どのエージェントが何を実行したのか、どこへアクセスできるのかを管理する必要がある。また、AIを活用したサイバー攻撃の高度化・自動化・大規模化にも対応しなければならない。
GreenLake Intelligenceでクローズドループ運用を実現
こうした課題への回答としてHPEが提示したのが「GreenLake Intelligence」だ。中村氏は「エージェンティックAI時代には従来の人手中心のIT運用では限界がある。AIを動かすITから、AIとともに判断・最適化するインテリジェントなITへの転換が必要になる」と力を込める。
その中核となるのがクローズドループ運用だ。クローズドループ運用では、環境全体を継続的に観測する「Observe」、状況を分析して次の行動を判断する「Reason」、実行する「Act」、結果を評価する「Validate」の4段階を繰り返す。
AIエージェントがこのサイクルを継続的に回すことで、複雑化するハイブリッドIT環境を最適な状態に保つという考え方だ。HPEはネットワーク、コンピュート、ストレージ、運用ソフトウェアを横断して連携させることで、環境全体で観測・判断・実行を行うGreenLake Intelligenceを構築している。最終的には各コンポーネントのAIエージェントが相互に連携するAgentic Meshの実現を目指しているという。
「HPE CloudOps Software」がAgentic Enterpriseを支える
GreenLake Intelligenceを実現する主要コンポーネントとして、HPEは「HPE CloudOps Software」を展開している。CloudOps Softwareは「Morpheus」「OpsRamp」「Zerto」の3製品で構成される。
Morpheusはオーケストレーションを担う製品で、オンプレミスとクラウドを統合管理し、セルフサービスポータルや自動化機能を提供する。管理者は複数環境を一元管理でき、利用者は必要なリソースをセルフサービスで利用できる。同製品には自然言語で操作可能なCopilot機能も搭載されており、AIエージェントによる自動運用にも対応する。
OpsRampは可観測性を担う製品だ。インフラやアプリケーションだけでなく、AIエージェントやLLM利用状況も含めて可視化する。イベント相関分析による原因特定や修復アクションの提示、自律復旧機能も備える。また、エージェンティックAI時代を見据え、エージェントリクエスト数、LLM利用状況、トークン消費量、コスト、キャッシュ効率などを可視化する機能も追加された。AI運用そのものを監視対象に含めている点が特徴だ。
Zertoはデータレジリエンスを担う。ランサムウェア対策や災害復旧に加え、AIエージェントによる誤操作や不正アクセスによるデータ改変にも迅速に対応できる仕組みを提供する。Agentic AI時代の運用基盤において、最後の防御ラインとしての役割を果たす。
「HPE AI Factory」でAI基盤と運用を統合
説明会の終盤には、AI基盤向けソリューション「HPE AI Factory」についても紹介された。HPEはNVIDIAと共同開発した「HPE Private Cloud AI」をはじめ、大規模環境向けやソブリンAI向けのポートフォリオを展開している。
特徴は、AI基盤に必要なハードウェアやソフトウェアだけでなく、CloudOps Softwareを標準的に組み合わせて提供する点だ。AIサービスを迅速かつガバナンスの効いた形で展開し、継続的に運用できる環境を提供する狙いがある。
中村氏は「エージェンティックAIを安全にスケールさせるためには、インフラ、ネットワーク、運用を個別最適化するのではなく、一体的に運用する必要がある」と強調。HPEはGreenLake Intelligenceを軸に、企業のAgentic Enterpriseへの移行を支援していく考えだ。







