2026年7月24日、大阪で自治体向けイベント「kintone hive Government 2026」が開催された。kintoneを活用する自治体が、業務改善のノウハウや取り組みを共有するイベントで、今回が2回目の開催となる。
その中で滋賀県が紹介したのが、kintoneの全庁導入後に直面した「失敗」と、そこからの立て直しだ。2年間の導入およびサービス利用費用は約2000万円に上ったものの、活用された業務は22件、費用対効果(試算)は約520万円にとどまったという。
なぜ活用が進まなかったのか。滋賀県庁 総合企画部 DX推進課県庁DX推進係の中村周輔氏が、原因分析から業務改善の仕組みを再構築し、令和7年度にはサービス利用費用が約900万円となる一方、1年間の費用対効果(試算)が約3000万円となるまでの取り組みを紹介した。
2000万円を投じるも効果は520万円、なぜkintone活用は進まなかった?
滋賀県では、2年間のkintoneの導入およびサービス利用費用が約2000万円に上った。一方、実際に活用された業務は22件で、2年間の費用対効果(試算)は約520万円にとどまり、期待した成果を得られなかったという。
kintoneによるDX推進の担当となった中村氏は、kintoneについて学ぶ中で「学習コストが低い」「プラグインを使えばさまざまな業務に利用できる」と感じた一方、県庁内での導入状況は「惨憺たる状況」だったと振り返る。
そこで原因を分析したところ、3つの問題が浮かび上がった。1つ目は、外部業者への委託に頼りすぎたことで庁内にノウハウが蓄積されていなかったこと。2つ目は、庁内で事例やノウハウを共有する仕組みが不足していたこと。そして3つ目が、運用ルールを明確にしないままアプリが乱立するなど、ガバナンスが不足していたことだ。
中村氏が担当となってから相談窓口を設置したものの、今度は対応できる件数に限界が生じた。職員同士のコミュニティも十分に盛り上がらず、事例集についても掲載基準が高く、活用されにくかったという。
中村氏は、こうした問題の根本に、行政組織にありがちな「前例踏襲」があったと説明する。他団体の成功事例をそのまま取り入れ、滋賀県庁の組織や実情に合わせて再構築していなかったのだ。
「前例踏襲」をやめる、滋賀県が作った業務改善のフレームワーク
そこで滋賀県が取り組んだのが、個別の施策を改善する前に「何を実現したいのか」から考え直すことだった。
中村氏は業務改善を「目標」「軸」「手段」「効果」の4段階に整理した。
目標:何を実現したいのかを定める
軸:目標達成のために、どのような姿勢・観点で進めるかを定める
手段:具体的に何を行うかを決める
効果:どのような成果を得るかを確認する
例えば庁内コミュニティの場合、単に「コミュニティを作る」ことを目的にはしなかった。「kintoneを導入して業務の価値を上げる」ことを目標とし、そのために「職員が自ら問題意識を持って業務改善に取り組む」ことを軸に設定。その手段として「つながりがゆるいコミュニティ」を形成し、ノウハウ共有などを通じて職員の主体性を伸ばすことを狙った。
中村氏が重視したのは、目の前の課題から施策を考えるのではなく、ゴールから逆算して理想を設定することだ。また、現場職員を巻き込んで役割を分担し、相談、対応、報告、事例掲載といった個々の施策をバラバラに進めず、一つの仕組みとして捉えることも重視した。
相談から事例共有までを一本化、費用対効果は約3000万円に
こうした考え方に基づき、既存の取り組みも見直した。
相談窓口では案件ごとに管理し、継続してフォローできる体制を整えた。庁内コミュニティについても、全庁スペースのスレッドからDX推進課への質問板へと再構築した。
事例集も変更した。他部署で実際に行われた改善例を掲載するとともに、業務改善の初心者にも理解しやすい内容に改めた。
例えば紹介された事例の一つが、公用車の運転日誌だ。従来は紙による報告書への記入や、過去の利用状況を確認するために紙資料を探す作業が発生していた。そこで公用車にQRコードを設置し、スマートフォンからkintoneのフォームを開いて運転内容を報告できるようにした。蓄積されたデータもkintone上で検索・分析できるようになり、公用車の管理や利用状況の把握を容易にしたという。
さらに、相談申し込み、相談対応、運用報告、事例掲載までを一つのフローとしてつなげた。個別の相談を解決して終わりにするのではなく、そこで得られた成果を事例として共有し、次の業務改善につなげる仕組みとした。
こうした改善の結果、令和7年度のサービス利用費用は約900万円となり、kintoneで得られた1年間の費用対効果(試算)は約3000万円となったという。
こうした成果につながったのは、ツールそのものを変えたからではない。kintoneの使い方に加え、相談から事例共有まで、業務改善を進める仕組みそのものを再設計したことが大きかった。
失敗事例も共有へ、滋賀県から近畿4府県に広がる取り組み
中村氏の取り組みは滋賀県庁内だけにとどまらない。近畿4府県のkintone導入自治体と外部事業者によるローカルコミュニティ「きんキントーン会議」を立ち上げ、自治体の枠を越えたノウハウ共有と価値共創にも取り組んでいる。
行政組織では失敗を避けがちだが、中村氏は、失敗を恐れて立ち止まることが住民の不利益につながる場合もあると指摘する。kintoneの活用を進めるためには、成功するまで試行錯誤し、失敗を許容して挑戦を続けることが重要だと強調した。
そして、業務改善に必要なのは特別なスキルや人材、予算だけではなく「たった少しの勇気」だと語った。
一方で、他自治体の成功事例をそのまま持ち帰ればよいわけではない。それでは滋賀県自身が陥った「前例踏襲」を繰り返すことになる。中村氏は「目標→軸→手段→効果」という考え方を、それぞれの自治体の組織や実情に合わせて再構築することが重要だとまとめた。





