サイボウズは、製造業向けオンラインイベント「製造業 IT Special Seminar」を開催した。セッション「AI時代に生き残る! 製造業のデータ活用戦略」では、半導体や産業機械など製造業に関する情報を発信するものづくり太郎氏と、サイボウズの南崎健太郎氏が、世界の製造業におけるAI活用の動向や現場への導入について語った。

  • ブーステック代表取締役/PLMコンサルタント/SEMICON Japan Ambassador/ものづくり系YouTuber ものづくり太郎氏(講演映像より)

    ブーステック代表取締役/PLMコンサルタント/SEMICON Japan Ambassador/ものづくり系YouTuber ものづくり太郎氏(講演映像より)

ものづくり太郎氏は、国内外の製造業の現場や産業イベントを取材しており、近年はフィジカルAIをはじめとする製造業とAIの動向にも注目している。同氏によると、世界の製造業ではすでにAIを前提とした製品やシステムが登場しているという。

一方、南崎氏は、サイボウズ エンタープライズ営業部のQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)改善スペシャリストとして、製造業の現場目線でQCD改善や業務改善を支援している。

  • サイボウズ エンタープライズ営業部 QCD改善スペシャリスト 南崎健太郎氏(講演映像より)

    サイボウズ エンタープライズ営業部 QCD改善スペシャリスト 南崎健太郎氏(講演映像より)

両氏の対談から、AIによって製造業の現場がどう変わりつつあるのかを見ていこう。

CADやIPC、PLCにもAI実装、製造業で広がるAI活用

まず南崎氏は、製造業ではAIの有用性への理解が進む一方、具体的な導入方法をイメージできていない企業も多いとして、AI活用を広げるためのヒントを太郎氏に求めた。 これに対して太郎氏は、製造業へのAI導入は避けられないとの見方を示した。その背景として、最新のCADやIPC(産業用PC)、PLC(制御装置)などにAIが組み込まれ、工作機械のNC(数値制御装置)でもAIエージェントの活用が始まっていることを挙げた。

  • 対談の模様(講演映像より)

    対談の模様(講演映像より)

太郎氏は2025年、ドイツで開催された産業見本市「ハノーファー・メッセ」を訪問。設計用CADにAIエージェントが組み込まれ、材質特性や加工条件などについてAIと対話しながら設計できる環境を目にしたという。

また、産業用PCなどを手掛けるベッコフオートメーション(Beckhoff Automation)の事例にも言及した。半導体製造装置にAIを実装したIPCが搭載され、半導体洗浄に使われる複数のモーターの回転制御などを、自然言語による指示でAIが制御する仕組みが登場しているという。

こうした事例を踏まえ、太郎氏は製造業の設計や制御、運用でAIの活用が進んでおり、日本企業もこうした変化への対応が求められるとの見方を示した。

エージェントAIで変わる製造業の現場オペレーション

AIは設計や制御、画面設計、運用といった領域の境界を曖昧にし、製造現場の業務スタイルを変える可能性があると太郎氏は指摘する。例えば、若い世代が製造現場に入るようになれば、PLCを動かすためにラダー言語で制御方法を記述する従来の手法ではなく、AIを活用した制御を選ぶ可能性があるという。

さらに太郎氏は、ベッコフオートメーションがMCP(Model Context Protocol)に対応した対話型AIツールを展開していることを紹介。AIが異なるシステムを横断して扱うことで、製造現場のオペレーションが変わっていくとの見方を示した。

  • ベッコフオートメーションのAI技術を活用した「TwinCAT CoAgent」<a href="https://www.beckhoff.com/ja-jp/products/automation/twincat-projects-with-ai-supported-engineering/" target="_blank">(公式Webサイト)</a>

    ベッコフオートメーションのAI技術を活用した「TwinCAT CoAgent」(公式Webサイト)

太郎氏は、SAPとDMG森精機による取り組みにも言及した。SAPは2026年のハノーファー・メッセで、DMG森精機のCNC工作機械を使ったデモを披露。設計から工具管理、CNCプログラム、SAP Digital Manufacturingまでを連携し、機械側のダッシュボードでAIを活用した機能や稼働・保守に関する情報を提供する仕組みを紹介している。

また、太郎氏はNVIDIAのVSS(Video Search & Summarization)にも言及した。画像や映像などをAIで解析できるようになれば、製造現場でも作業員の動作や品質検査の画像、作業環境の映像など、これまで活用が難しかった情報をデータとして扱えるようになる。

太郎氏は、こうした技術によって「どこが作りにくかったか」「どの工程がボトルネックか」といった現場の情報もAIで可視化できるようになる可能性を指摘。そのため、製造業ではAIが利用できる形でデータを整備しておくことが重要になるとの考えを示した。

既存システムの「隙間」を埋める、kintoneによるデータ化

AIを活用するには、製造現場にある情報をAIが利用できる形でデータ化しておく必要がある。太郎氏は、そのための選択肢としてkintoneに言及。ERPやPLMなど既存システムがカバーしきれない領域の情報をデータ化する用途で活用できるとの見方を示した。

南崎氏は具体例として、製品の製造に必要な部品情報をまとめたBOM(Bill of Materials:部品表)を挙げた。製造現場ではMES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)やSCADA(Supervisory Control and Data Acquisition:監視制御システム)などが利用される一方、その周辺には紙やExcelで管理されている業務も残っているという。

こうした領域でSAPとkintoneを連携させ、実績収集やスケジューリングなどにkintoneを活用する事例があると南崎氏は説明した。

PLMとの連携では、BOM情報をkintoneに集約し、現場で必要な情報を閲覧できるようにする使い方も紹介された。これにより、CADやPLMを直接利用しない現場の担当者にも、必要な情報を提供できるという。

このほか南崎氏は、調達管理における価格交渉履歴、EOL(End of Life:生産・販売終了)管理、ヒヤリハットや危険予知などの安全管理、不具合対策・信頼性試験管理など、製造現場に点在するさまざまな情報のデータ化にkintoneを活用できると説明した。

太郎氏は、こうした既存システムの隙間にある情報をデータ化することで、kintoneをAI時代の製造業における「AI-readyなデータ基盤」として活用できるとの見方を示した。

AI時代に求められる製造業のデータ戦略

製造業では、設計や制御、運用などさまざまな領域でAIの活用が始まっている。こうした環境で重要になるのが、製品や業務に関するデータだけでなく、これまで現場に蓄積されてきた知見やルール、プロセスをデータとして整備していくことだ。

今回の対談では、最新の製造設備やAIエージェントの事例から、ERPやPLMなど既存システムの隙間にある情報のデータ化まで、製造業におけるAI活用の現在地が紹介された。AIを活用できるデータ基盤をいかに整えていくかが、今後の製造業にとって重要なテーマになりそうだ。