サイボウズは今年4月、ノーコードで業務アプリを構築できる「kintone」のユーザーイベント「kintone hive 2026 nagoya」をZepp名古屋(愛知県 名古屋市)で開催した。本稿では、制服販売を手掛ける三杉がkintoneとECを組み合わせ、同じ人数で売上2倍、繁忙期には午前3時までだった残業時間をゼロにした事例を紹介する。
三杉は愛知県 碧南市を中心に、県南部で6店舗を展開する学生服専門店。地元の学校の制服や通園・通学用品の企画から、製造、販売までを広く担っている。昭和2年の創業から約100年間、地域の制服販売や補正(お直し)など、学校服のある日常風景を守ってきた。
企画室長の杉浦成氏は「学校にとっては運営を支えるパートナーであると同時に、保護者にとっては困ったときに頼れる身近な存在でありたい」と述べていた。
少子化で衰退産業と呼ばれる制服業界、繁忙期には午前3時まで残業
少子化が進む現代、制服業界はその影響を真っ向から受けている。以前の三杉ではアナログ業務も多く残っており、各店舗の紙伝票を毎日車で本店へ運んでいたという。繁忙期には夜中3時まで業務が及ぶ場合もあり、本店に伝票が届くのは早くても翌日、という状態が続いていた。
代表取締役を務める杉浦力氏は「紙の伝票を届けることが唯一の情報共有だと思っていた。タイムリーな経営判断は不可能だった」と振り返った。
特に、3月10日の愛知県立高校の合格発表日から、15日のメーカー受注締切日までの6日間は「地獄の6日間」と呼ばれ、この6日間で年間売り上げの3分の1以上を計上するほどだ。しかしその分、現場は多忙を極め、終業は早くても午前3時という状況だ。この期間の激務に耐えられず、多くの社員が会社を離れた。
採寸・注文・集金まで手作業、幼稚園販売が重い業務だった
愛知県 刈谷市内の16幼稚園、1500人への制服販売も重要だが負担の大きい仕事だったという。三杉は幼稚園への制服販売を、将来の顧客名簿獲得の一環として注力していた。
「その実態は、人とお金と時間をかなり圧迫した業務となっていた」(杉浦成氏)
各幼稚園で採寸会を開くたびに人員を派遣し、採寸から注文受付、手書き入力、商品準備、現金集金まで、すべての工程を手作業で実施していたという。毎回アルバイトを20人ほど動員し、3~4週間もこの業務は続く。
「小さく作って育てる」戦略でkintoneは現場に定着
アナログ業務に追われる三杉だったが、既にkintoneを活用していた地元商店街の知人に紹介され、2019年にkintoneと出会う。IT活用の経験が全くない同社であったが、「このままではダメだ」という危機感から、kintoneの活用と業務改善に着手。
「私たちの仕事はただの物売りではない。入学式で緊張していた顔の子が、卒業式には晴れやかな表情で制服に袖を通してくれる。そして数年後には弟や妹がまたお店に来てくれる。だからこそ、保護者や家族の情報を丁寧に管理することが、すべての基盤になると考えた」(杉浦成氏)
同社がまず作成したのは、「保護者アプリ」と「学生アプリ」。この2つにより、保護者と学生のデータを関連付けて記録できるようになった。誰の何番目の子が、どのサイズの制服を購入したのかが蓄積される、いわば"家族のデータベース"を構築した。
同社のkintone活用は、最初からうまくいったわけではない。ITに不慣れな現場では、「テーブル」「ルックアップ」「関連レコード」など専門用語が頻出するkintoneの操作につまづくときもあった。
そこで同社は半年間かけ、まずはアプリを小さく作って育て、現場に定着させる方針で運用を開始した。
紙伝票をなくすため、kintone×ECで受注をデジタル化
三杉はその後、「販売実績(受注情報アプリ)」を作成。これにより、各店舗の社員が販売実績を入力すれば、本店ですぐに情報を確認できるため、車で紙の伝票を運ぶ必要がなくなった。
「今日、どの店で、何が、何枚売れたのかが本店にいながらすぐに確認できる、これまでの当たり前が変わる瞬間を味わった」(杉浦力氏)
しかし、同社は次の壁に当たる。次に経験した大きな壁は、店舗での顧客とのやり取りが紙で行われていたことだった。聞き取った情報を紙に書いていたため、受注データの入口は依然として紙のままになっていた。
この壁を解消するため、同社はECを"販売チャネル"ではなく、受注情報を最初からデジタルで取得する仕組みとして導入した。パートナーとして伴走支援するちらし屋ドットコムと共に、kintoneとECを組み合わせて店舗受注をデジタル化する取り組みを始めた。
同社はECを単なるネット販売ではなく、受注情報を最初からデジタルで取り込む仕組みとして位置付けた。紙への転記をなくし、受注の入口をデジタル化することで、業務全体のボトルネックを解消する狙いだった。
制服の購入時に1家族1アカウントを登録すると、家族情報や来店日次、注文情報や採寸データが自動でkintoneへ連携される。店頭に来店した際にも、店員と一緒にユーザー側のアプリから情報を登録することで、最新のデータがkintoneに自動で集約される利点がある。
同社はこれにより、来店予約から受注、接客、納期、リピート対応、弟や妹などきょうだいの対応まで、すべての工程でデジタル化に成功した。
売上2倍・残業ゼロ、人も辞めない職場へ
紙への転記をなくし、受注の入口をデジタル化したことで、業務全体のボトルネックが解消された。その結果、少人数でも多くの注文を処理できるようになり、同じ人員で売上2倍、残業ゼロを実現した。
杉浦力氏は、「kintoneとECの仕組みにより、少子化の逆風を吹き飛ばすことができた」と会場に強く訴えた。
従来は20人の人手が必要だった幼稚園16園の対応は、2人で済むようになった。人員は90%減の効果だ。3~4週間必要だった期間も、わずか1週間で完了できるように。
さらに、午前3時まで仕事が残っていた3月の「地獄の6日間」でも残業ゼロ、定時退社を実現できるまでに効率化できたという。その結果、5年前と比較して、同じ人員で売上2倍を達成した。
「紙への記入やシステムへの転記作業がなくなったことで、現場のミスが減った。業務効率化によって現場のスタッフに余裕が生まれ、接客の品質も向上している。数字以上に、お店の雰囲気が劇的に変わった」と杉浦力氏は話していた。
さらに同氏は「kintoneで実現したこの仕組みを全国の同業者へ広げ、街の制服屋が笑顔を取り戻し、かつてのような明るい業界に変えていきたい。制服業界は衰退産業だと言われ続けているが、制服業界をもう一度花開かせたい」と述べ、プレゼンを結んだ。









