この半導体ニュースのまとめ
・キーサイトがソフトウェア事業における3つの注力分野を説明
・計測機器の実測データと物理シミュレーション、AIを組み合わせて設計を効率化
・半導体単体から光電融合やマルチフィジックスを含むシステム全体へ支援範囲を拡大
キーサイト・テクノロジーは8月26日、設計・開発・検証に携わるエンジニアを対象としたイベント「Keysight Design Engineering Summit 2026 Tokyo(KDES 2026 Tokyo)」を東京都内で開催した。
同イベントは、EDA、CAE、光学設計、データマネジメント、ソフトウェアテストなど、同社の設計ソフトウェアを国内で初めて一堂に集めた技術フォーラム。併せて開催されたメディア向け説明会では、同社のソフトウェア事業(Design Engineering Softwareグループ、DES)が今後注力する3つの技術領域が示された。
-

キーサイトのDESグループ部門が注力する3つの技術領域。AIを活用したエンジニアリング・インテリジェンス、電気と光の協調設計、実環境を見据えたマルチフィジックスシミュレーションを掲げる (提供:キーサイト・テクノロジー)
-

説明を行ったKeysight TechnologiesのSenior Director, Global EDA Business Development and OperationsであるYang Zou氏(左)と同Senior Director, DES Central Strategy GroupのChris Mueth氏(右)
AIで設計探索とリスク発見を効率化
第1の注力分野は「AIを活用したエンジニアリング・インテリジェンス」である。
半導体や電子機器の高性能化に伴い、信号品質、電源品質、電磁界、熱など、設計時に考慮すべき要件と相互依存性は増加している。一方、経験豊富なRF・マイクロ波設計者などは不足しており、設計とシミュレーションを繰り返す従来の開発手法だけでは対応が難しくなりつつある。
-

半導体や高速電子回路の設計が直面する課題とAIが担う役割。多数の設計候補の探索、設計リスクの早期発見、自然言語によるシミュレーション利用、専門知識の蓄積・継承などを挙げる (提供:キーサイト・テクノロジー)
キーサイトは、AIによって多数の設計候補を探索し、リスクを早期に発見することで、シミュレーションの反復回数を削減するすることを提案する。また、計算負荷の大きい解析には、サロゲートモデルや強化学習などを組み合わせ、必要な精度を維持しながら処理時間の短縮を図ることも併せて提案している。
設計ワークフローも、GUIによる手動操作からPythonによる自動化を経て、AIエージェントがスクリプトを生成・実行・改善する形へ移行するとみている。すでに同社はエージェント同士を結び付けるために必要なMCPサーバそのものとそのインタフェースを提供しているとするが、利用する大規模言語モデル(LLM)やMCPクライアントは顧客側で選択が可能とし、設計データを社内に保持したまま活用できるオープンな環境を提供していると説明する。
ただし、AIは設計候補の作成や最適化に用いるもので、検証を担うものではないという。最終的にはエンジニアが結果を監督・検証する必要があり、AIによって専門家を置き換えるのではなく、その知見や生産性を増幅することを目的としている取り組みだとする。
計測器の実測データでAIとシミュレーションを補完
キーサイトがほかのEDAベンダとの差異化要素として挙げるのが、1社で計測機器と設計ソフトウェアの双方を保有している点である。
同社は、自社の測定器開発に設計ソフトウェアを利用するとともに、完成した測定器から得られる実測データでシミュレーション結果や物理モデルを検証している。そこで得たデータや知見をソフトウェアへフィードバックすることで、モデル精度の向上やAI学習用データの蓄積につなげられるという。
AIによるハルシネーションを抑えるには、モデルの特性や各パラメータが取り得る範囲を理解し、探索領域へ適切な制約を設ける必要がある。同社は、実測データ、物理ベースのシミュレーション、エンジニアの専門知識を組み合わせることで、AIにガードレールを設け、信頼性の高い結果を得られるようにする考えだ。
CPOを見据えて電気と光を協調設計
第2の注力分野は「電気と光の協調設計」である。
AIデータセンターでは通信帯域の拡大に伴い、ラック間やデータセンター間の接続で光通信の活用が広がっている。将来的にはCPU、GPU、メモリ、電気IC、光ICを同一パッケージに搭載するCo-Packaged Optics(CPO)の普及も見込まれる。
CPOでは、電気回路と光回路に加え、信号品質、電源品質、熱、機械構造などが相互に影響するため、個別のICやデバイスだけでなく、システム全体を対象にした協調設計が必要になる。
-

CPOの協調設計を支援するキーサイトのソフトウェア群。メモリ、Ethernet、信号品質、電源品質、3次元インターコネクト、光回路、フォトニックデバイス、マルチフィジックスなどを横断して解析する (提供:キーサイト・テクノロジー)
キーサイトは、高周波・高速デジタル回路設計向けEDAソフトウェア「PathWave Advanced Design System (ADS)」を中心とする電子回路向け製品と、光システム向けシミュレーションツール「VPI Design Suite」、フォトニックおよびオプトエレクトロニクスデバイスの厳密な電磁界シミュレーション向けフォトニックデバイスツール「RSoft」、ADSプラットフォーム上で動作する光電融合設計(EPDA)向け包括的なフォトニック回路設計自動化ツール「ADS Photonic Designer」などを組み合わせ、光システムからデバイスへ設計を落とし込むトップダウンの探索と、デバイスからシステム全体を検証するボトムアップの解析を統合することが可能だとする。
-

キーサイトが構築する電気・光協調設計の統合ワークフロー。光システムからデバイスへ設計を落とし込むトップダウンの探索と、デバイスからシステム全体を確認するボトムアップの検証に対応する (提供:キーサイト・テクノロジー)
同社はこの数年、同分野の強化に向けてさまざまな買収を手掛けてきている。例えば、VPI Design Suiteを手掛けてきたパートナーのVPIphotonicsを2026年6月に買収完了を発表しているほか、2025年10月にはSynopsysからRSpftを含むOptical Solutions Groupの製品群の買収完了ならびにAnsysのPowerArtistの買収完了を発表しており、こうしたソフトウェア領域を強化することで、従来から強みを持つ高周波・高速電子回路の設計領域をフォトニクスや光学へ広げ、半導体、パッケージ、システムを横断した設計環境の整備を推進しているとする。
マルチフィジックスで実機試作を削減
そして第3の注力分野が「実環境を見据えたマルチフィジックスシミュレーション」である。
同社は電子機器の設計で重要となる物理領域として、「電磁界・回路」、「熱」、「構造力学」、「流体」、「光学」の5つを挙げる。チップレットやCPOなどでは、電気特性だけでなく、発熱、機械的応力、冷却、接合工程などが性能や歩留まりを左右するため、複数領域を並行して検証する必要がある。
そのための「Keysight Multiphysics Software」は幅広い分野を扱う汎用CAEではなく、電子機器の設計に対象を絞り、構造、熱、流体などの解析を既存の電気設計ワークフローへ組み込む製品だとする。電気系エンジニアが専門外の解析ツールを習得するのではなく、必要な範囲の機械・熱解析を設計工程の中で実行できるようにすることを意識したものだという。
また、同製品については自社の測定器開発にも活用しているとする。従来は実機を試作して落下試験を繰り返すなど、物理的な試験を行っていたが、現在は仮想空間上で落下時の変形や部品破損を確認し、物理試作前に問題を発見する取り組みを進めているという。
これらのAI、電気と光の協調設計、マルチフィジックスを活用することで、従来はさまざまな開発の後半段階で発見されていた問題を設計段階で把握するシフトレフトを推進しようとしている。さらに実機の測定結果を仮想モデルへ戻すことで、シミュレーション精度を継続的に高めることも進めようとしている。
なお同社は、半導体設計分野は引き続き重要という見方を示しつつも、支援範囲をデバイス単体からコンポーネント、パッケージ、システムへと広げ、計測機器の実測データ、物理シミュレーション、AIを循環させることで、半導体や電子システムの開発効率と品質を向上させていくことを目指すとしている。

