発見に加えて重要性を増す「修復」
AIの進化によって、ソフトウェアの脆弱性を発見するスピードが大きく変わりつつあります。従来は人手により多くの時間を要していた脆弱性の発見が、AIの支援によって加速し始めています。
これまでの脆弱性対応では、いかに正確かつ迅速に脆弱性を発見するかに重きが置かれてきました。AIの進化に伴い脆弱性の発見が加速するなかで、脆弱性を迅速に修復する実行力の重要性が高まっています。脆弱性は見つけるだけではリスクを低減できません。攻撃者が既知の脆弱性を悪用するまでの時間も短くなっているなか、企業には発見した脆弱性を迅速かつ確実に修復する体制づくりが求められています。
パッチ管理が担う役割
発見した脆弱性に対応するうえで、中心的な役割を果たすのがパッチ管理です。パッチ管理とは、ソフトウェアの更新プログラムを検証し、適切な対象へ展開・適用するための運用プロセスです。「パッチ」と呼ばれるこの更新プログラムは、技術的な不具合を修正し、セキュリティを強化し、時には新たな機能を加えることで、既存のソフトウェアをより安全かつ使いやすい状態に保ちます。
しかし、パッチ管理は一度の作業で完結するものではありません。実際のパッチ適用は、次のような工程の積み重ねによって成り立っています。
- 資産の棚卸しと検出:どの端末に何が導入されているかを把握する
- 分類と調査:把握した資産を、リスクの大きさに応じて分類する
- ポリシーの作成:更新プログラムを配布する時期と方法を定める
- 検証:管理された環境で更新プログラムを検証する
- 文書化:変更した内容を記録する
- 展開:更新プログラムを実際に配布する
- 監査と監視、レポート:問題の有無を確認し、状況を記録する
- 見直しと改善:結果を踏まえ、次のサイクルに反映する
つまり、パッチ管理はセキュリティのためだけの作業ではなく、日々のIT運用に組み込まれた活動として、重要な技術更新を支え、コンプライアンス上の課題にも対応するなど、複数の役割を担っています。
従来型運用における工程の分断
問題は、これらの工程が現場では一つの流れとして管理されず、個別の作業として運用されがちなことです。脆弱性の検出から影響範囲の特定、パッチの検証、承認、展開、適用状況の確認までの作業が担当者やツールごとに分かれていると、実際にパッチを適用するまでに多くの時間を要します。
従来型のパッチ適用は、もともと時間も人手もかかる作業です。管理するIT資産が多いほど、その負担は膨らみます。脆弱性の一覧を可視化できても、その後の対応が手作業中心であれば、リスクは残り続けます。AIによって脆弱性の発見が加速するほど、修復までの遅れはより大きな課題になります。
脆弱性対応の遅れが招く被害
修復の遅れが深刻な被害につながることは、実際の事例が示しています。中小企業から大企業まで、未適用のソフトウェアが抱えるリスクと無縁でいられる組織はありません。サイバー攻撃では、既知の脆弱性を悪用して侵入を試るケースがあります。こうした攻撃のリスクは、適切なパッチ管理によって低減できる可能性があります。
修復の遅れがもたらす影響は、米国で実際に発生したインシデントにも表れています。例えば2025年2月には、マルウェアによって米国の軍や防衛関連の認証情報が数百件流出しました。同じ月には、あるIoT機器メーカーに関するデータベースが保護されないまま公開され、ネットワーク名やパスワードを含む20億件超の記録が露出しています。医療分野では、ランサムウェア攻撃によって深刻な業務停止や情報漏えいが発生した事例も報告されています。こうしたインシデントは、脆弱性への対応の遅れが深刻な被害につながり得ることを示しています。
AI時代に高まるNデイ攻撃のリスク
忘れてはならないのは、AIが防御する側だけでなく、攻撃する側にも活用されているという点です。公開されたパッチを手がかりに、攻撃者が脆弱性の内容や悪用方法を迅速に分析できるようになっています。その影響が表れやすい領域の一つが、Nデイ攻撃です。
Nデイ攻撃は、ゼロデイ攻撃と対比して語られることがよくあります。ゼロデイ攻撃が未公表の脆弱性を狙うのに対し、Nデイ攻撃は修正プログラムが公開済みであるにもかかわらず、まだ適用されていない環境を標的にします。
パッチの公開は防御の第一歩である一方、その内容は攻撃者が脆弱性を分析する手掛かりにもなります。AIの活用によって攻撃者の分析速度が高まれば、未適用環境はこれまで以上に短期間で攻撃対象となる可能性があります。パッチの公開から悪用までの期間が短くなるなか、企業には従来以上の対応スピードが求められています。ただし、対応を急ぐあまり、安全性の確認をおろそかにすることはできません。
求められるのは、速さと安全性の両立
とはいえ、全てのパッチを無条件に直ちに適用すればよいわけではありません。業務への影響が大きい更新プログラムや、不具合を含む更新プログラムまで一律に適用した場合、かえってシステム停止や業務への支障を招く可能性があるためです。
重要なのは、リスクの高い更新プログラムを適切に優先順位付けし、管理された環境で十分に検証したうえで適用することです。また、更新プロセスを継続的かつ安定的に運用することも欠かせません。迅速な対応と安全な運用を両立することが、AI時代のパッチ管理の基盤となります。
こうした状況を踏まえると、これから求められるのは人手に依存した運用ではなく、リスクの特定から修復までを継続的かつ効率的に実行できる自律型のパッチ運用です。そこで次回は、パッチ管理が「自動」から「自律」へどのように進化していくのかを掘り下げます。
著者プロフィール
NinjaOne戦略・オペレーション担当バイスプレジデント エルザン・ウイグル
統合IT運用プラットフォームを提供するNinjaOneにて、市場開拓(GTM)戦略やパートナーシップ、エンタープライズ営業を担当し、グローバルビジネスおよびコーポレートディベロップメントを統括。日本をはじめとする重点市場へのグローバル展開を指揮し、新規市場への参入にあたっては、パートナーネットワークとともにエコシステムの構築をけん引。
NinjaOne入社以前は、Alphabet傘下の独立系グロースファンドであるCapitalGに在籍し、同ファンドの投資先である高成長のエンタープライズソフトウェア企業やサイバーセキュリティ企業を支援。2024年にCapitalGがNinjaOneへ投資した後、NinjaOneに入社。CapitalG以前は、GoogleおよびOracleで市場開拓などの各種職務を歴任。
デューク大学フュークア経営大学院で修士号を、カリフォルニア大学バークレー校で学士号を取得。