インド――ヴィクラム1が民間初の軌道投入に成功

中国の成功から8日後の7月18日15時35分(日本時間)、インド南部スリハリコータにあるサティシュ・ダワン宇宙センターから、スカイルート・エアロスペースの「ヴィクラム1」(Vikram-I)が打ち上げられた。「アーガマン(Aagaman、到来)」と名づけられた初飛行で、ロケットは2機の小型衛星を高度約450kmの地球低軌道へ投入した。

インドの民間企業が自社開発したロケットで軌道投入に成功したのは初めてであり、スカイルートは初の軌道飛行でこれを達成した。

  • ヴィクラム1の打ち上げの様子 (C)Skyroot Aerospace

    ヴィクラム1の打ち上げの様子 (C)Skyroot Aerospace

ヴィクラム1は全長約22mの4段式小型ロケットで、第1段から第3段が固体ロケット、第4段が軌道調整用の小型液体ロケットである。地球低軌道へ最大350kg、太陽同期軌道へ最大260kgを運ぶ能力をもち、主に小型衛星の専用打ち上げ市場ターゲットとしている。

第1段から第3段に固体ロケットを採用したことで、推進剤を打ち上げ直前に充填する設備を減らし、機体と地上設備を比較的簡素にできる。一方、固体ロケットは点火後に推力を細かく変えることが難しいため、最終段には液体エンジンを用い、衛星を狙った軌道へ正確に送り込む構成としている。

また、機体構造には炭素繊維複合材料を広く用い、軽量化を図っている。また、第4段の液体エンジン「ラマン1(Raman-I)」には3Dプリンターによる製造を採用し、部品点数や接合工程の削減を図った。ヴィクラム1は再使用型ではないが、固体ロケットの採用による運用の簡素化と、3Dプリンターによる製造工程の削減によって低コスト化を図っている。

  • 飛翔するヴィクラム1 (C)Skyroot Aerospace

    飛翔するヴィクラム1 (C)Skyroot Aerospace

今回、軌道へ投入された衛星は、スカイルートの「SCOPE」と、グラハー・スペース(Grahaa Space)の「SOLARAS S3」である。このほか、第4段には、DCUBEDの技術実証用ペイロードや、コスモサーブ・スペースの宇宙デブリ捕獲用ロボットアーム「Embrace」などが取り付けられ、分離せずに軌道上で実験を行う計画である。初飛行は、衛星の軌道投入に加え、第4段を軌道上実験プラットフォームとして利用するミッションでもあった。

スカイルートは、インド宇宙研究機関(ISRO)の元技術者が2018年に創業した。2022年には、技術実証用のサブオービタル・ロケット「ヴィクラムS」を打ち上げ、インドで初めて民間開発ロケットを宇宙空間へ到達させた。それから4年足らずで、軌道投入に必要な技術を完成させたことになる。

今後は、成功を一度きりで終わらせず、商業サービスとして定着させられるかが問われる。小型ロケットの専用打ち上げは、衛星1kgあたりの価格では、大型ロケットによる相乗り打ち上げに対抗しにくい。その一方で、相乗り打ち上げでは、あらかじめ決められた打ち上げ日程と投入軌道に左右され、衛星が目的の軌道まで自力で移動しなければならない場合もある。これに対し、専用打ち上げでは、希望する時期に希望する軌道へ衛星を直接投入でき、運用開始までの時間を短縮できる。顧客がこうした利便性にどこまで対価を支払うかが、小型衛星の専用打ち上げ市場の規模を左右する。

スカイルートはまた、ヴィクラム1より大型の「ヴィクラム2」(Vikram-II)も計画している。極低温エンジンを搭載し、同社の公表値では、低地球軌道へ最大900kg、太陽同期軌道へ最大600kgを運ぶ。また、1回の飛行で複数の軌道へ衛星を投入する能力も持たせるとしている。2027年の打ち上げを掲げているが、ヴィクラム1の成果をもとに、計画どおりに開発を進められるかが今後の焦点となる。

競争相手は国外だけではない。ISROが開発した小型衛星打ち上げロケット「SSLV」があるほか、別のベンチャー企業アグニクル・コスモスも2024年5月、3Dプリンターで一体成形した液体エンジンを積む技術実証機「アグニバーンSOrTeD」(Agnibaan SOrTeD)の飛行に成功した。現在は、その成果をもとに、軌道投入用の「アグニバーン」ロケットの開発を続けている。

ヴィクラム1は、国外の相乗り便だけでなく、国内のSSLVやアグニバーンとも競争することになる。価格に加え、量産体制、打ち上げ頻度、信頼性の実績を積み重ねられるかが、商業サービスとしての成否を左右することになるだろう。

参考文献