インド宇宙研究機関(ISRO)は2025年1月16日、軌道上で2機の衛星を自律的にドッキングさせる実証ミッション「SpaDeX」に成功した。
インドが軌道上ドッキング技術を実証したのは初めてであり、月から土や砂を地球へ持ち帰るサンプル・リターンや宇宙ステーションの建造など、将来の宇宙計画に向けた大きな一歩となった。
SpaDeX
SpaDeXの目的は、地球低軌道上で、2機の衛星を使い、自律的なランデヴーとドッキング、そしてドッキング解除に必要な技術を実証することにある。
SpaDeXはSpace Docking Experiment(宇宙ドッキング実験)を略したもので、「スペーデックス」と発音する。
2機の衛星はそれぞれ「SDX01」と「SDX02」と呼び、搭載機器などを除きほぼ同じつくりになっている。1機あたりの質量は約220kgの小型衛星で、ISROの小型衛星標準バスであるMicroSatを使っている。
衛星をはじめ、ドッキング機構やランデブー・ドッキングに必要なセンサー、衛星間通信リンク、それらのソフトウェアなど、必要な技術はすべて自主開発、国産化したとしている。
両者は打ち上げ後、同じ軌道上を、お互いが約20km離れた状態で飛行する。そして、まず相対位置を測るレーザー距離計と、相対位置と速度を測るコーナーキューブレトロリフレクターを使い、徐々に距離を詰めていく。
距離が数十mになったところで近接・ドッキング・センサーとレーザー・ダイオードを併用し、相対位置と速度をより精密に測りながら、さらに接近する。そして、最終的にはメカニズム・エントリー・センサーによって、ドッキング機構同士が接触したことを検出できるようになっている。
ドッキング機構は、直径45cmのリングに、間隔を空けて3枚の花びらが咲いているような形をしている。ドッキング時には、相手の花びら同士の隙間に自分の花びらを滑り込ませ、かみ合わせる。その後、お互いにリングを引き寄せることで、完全に結合する仕組みとなっている。
この仕組みは、大きさこそ違えど、国際宇宙ステーション(ISS)で使用されているIDA(International Docking Adapter)や、中国の宇宙船に使われている機構、またスペースシャトルなどで使われていたアンドロジナス・ドッキング機構(APAS)と似ている。これらは、どちらの側からでもドッキングを行える、すなわちSDX01から02へ向かってドッキングすることも、その逆も可能という特徴がある。
3度の中止を乗り越え成功
SpaDeXは、日本時間2024年12月31日1時30分(インド標準時12月30日22時00分)、サティシュ・ダワン宇宙センターから、PSLVロケットで打ち上げられた。
両衛星は同じ高度約470km、軌道傾斜角55度の円軌道上に、約20kmの間隔を置いて投入され、打ち上げは成功した。
その後、SDX01がターゲット――ドッキングされる側に、SDX02がチェイサー――SDX01に接近してドッキングする側となり、徐々に距離を詰めていった。
当初は1月7日にドッキングする計画だったが、問題が見つかり中止された。
9日にも試みられたものの、衛星間距離を225mまで近づける段階で、衛星が予想以上にドリフト(漂流)し、両衛星の相対位置が整わず中止された。3度目の挑戦となった11日には、両者の距離は3mにまで近づいたものの、そこで近接・ドッキング・システムが何らかの異常を検知し、自律的に中止された。
そして、1月16日9時49分(日本時間)、4度目の挑戦にして、ついにドッキングに成功した。その8分後には、ドッキング機構を引き込み、完全な結合も果たした。
ISROは今後、2機を結合した状態で、ひとつの衛星と見立てて制御する技術の実証や、ドッキングを解除して、両衛星を分離する技術の実証も予定している。
ドッキングの解除後は、両衛星はそれぞれ独立して運用する予定で、再ドッキングを行う計画はないという。
SDX01は高解像度カメラを搭載しており、地球を観測する。SDX02にはマルチスペクトルセンサーと放射線モニターを搭載しており、地球観測や放射線の観測を行うことになっている。
SpaDeXの先にあるもの
軌道上での自律ドッキング技術の実証に成功したことは、インドにとって将来の宇宙ミッションに向けた、大きな一歩となる。
インドは早ければ2027年にも、月から土や砂などのサンプルを地球に持ち帰る探査機「チャンドラヤーン4」の打ち上げを計画している。
この探査機は周回機と着陸機から構成され、着陸機のみが月に降り立ち、サンプルを回収したあと小型ロケットを発射して、月の軌道上で待ち構えている周回機とドッキングし、地球への帰路につくという、複雑な工程を取る。この周回機と着陸機のドッキングに、SpaDeXの技術が必要となる。
さらに、2026年以降は、有人宇宙船「ガガニャーン」による有人宇宙飛行も計画している。さらに、2028年からは宇宙ステーション「バラティヤ・アンタリクシャ・ステーション」の建造も計画しており、ステーションの組み立てや、ガガニャーンによる宇宙飛行士の輸送にとっても、ドッキング技術は不可欠である。
そして、これらの成果を下敷きにして、2040年ごろにインド人宇宙飛行士を月面に着陸させる計画もある。
SpaDeXの成功は、インドの宇宙開発における重要な節目となった。今後、ドッキング技術が十分に確立されれば、さらなる挑戦へ踏み出すことができるだろう。
SpaDeXの成功は、インドの宇宙開発における重要な節目となった。この技術の確立により、インドはさらなる挑戦に向けて着実に前進することができる。将来のさまざまなミッションに向け、重要な一歩を刻んだと言えるだろう。
参考文献
・ISRO successfully completed docking of two SPADEX satellites (SDX-01 & SDX-02) in the early hours of 16 January, 2025.
・SpaDeX Mission