【政界】モディ印首相から「妹」とお墨付きを得るも 安定政権を睨む高市首相の足元は波乱含み

首相の高市早苗は7月、グローバルサウス(新興・途上国)の雄であるインドを初めて訪問した。約150社の日本企業の関係者が同行し、首相のモディとの記者会見では2兆円規模の対印投資や約120件の協力文書を発表。高市はモディから「妹」と呼ばれる親密ぶりで、元首相、安倍晋三の後継者であることを改めてアピールした。国内でも高い支持率を維持するが、衆院議員定数削減や飲食料品の消費税率引き下げを巡って野党だけでなく自民党内からも反発が出るなど、政権運営は波乱含みだ。

日印関係を新たな高みへ

 気温は30度を超え、蒸し暑い日が続く7月の印・ニューデリー。日本の首相の訪問に合わせ、街中には笑顔の高市の写真と「ようこそ」と日本語とヒンディー語で印刷されたポスターが掲示された。

 高市は1日から2泊3日の日程でインドを訪問した。首脳同士が相互に相手国を訪問する「シャトル外交」の一環だ。昨年8月にモディが日本を訪れて当時首相だった石破茂と会談しており、今回は日本側が訪問する番だった。

「お互い『兄』と『妹』として付き合いを続けていく約束をした。兄であるモディ首相と共に日印関係を新たな高みへ引き上げていく」

 2日、モディと共同記者発表に臨んだ高市は充実した表情でこう語った。モディもまた高市を「私の妹」と呼び、「ビジョンを持ち、国民から高く支持されているリーダー」と持ち上げた。両首脳は会談で、エネルギーや防衛分野での協力に合意し、高市が力を入れる経済安全保障やAI(人工知能)に関する成果文書も発表した。

 高市の訪印には、スズキ社長の鈴木俊宏をはじめ、日本企業の経営者らが同行し、日本貿易振興機構(JETRO)が主催した「日印経済フォーラム」には150社以上の日本企業と80社以上のインド企業が参加。半導体やバイオガス分野など約120件の企業間の協力文書も発表する充実ぶりだった。

 日本政府関係者は解説する。

「今回の高市首相の訪問はインド側から熱烈なラブコールがあった。当初、モディ首相は北東部のアッサム州で首脳会談を行おうとしていた。アッサム州は2019年にモディ首相が当時の安倍晋三首相を招こうとした場所であり、モディ首相は間違いなく高市首相を安倍路線の後継者と見ている」

 高市がモディを兄と呼んだように、安倍もまたモディを兄と呼んで信頼関係を構築した。モディは22年9月に日本武道館で行われた安倍の国葬にも参列し、「大切な友」の突然の逝去を悼んだ。

 アッサム州は安倍が提唱し、高市が引き継いだ「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想にとって重要な地でもある。中国が進出を強めるバングラデシュとインド北東部を一体の経済圏として捉え、インド洋につながる産業バリューチェーンの要であり、日本がこれまでインフラ整備や企業の進出を後押ししてきたからだ。

 結局、日本が国会開会中で日程の制約などもあったことから、アッサム州での首脳会談は見送られ、首都・ニューデリーで開催されることになった。とはいえ、高市は短時間の滞在ながらモディと首脳同士の個人的な信頼関係の構築に成功したといえる。

 FOIPに加え、多国間協調や国際機関に距離を置くトランプ米政権の発足や米印関係の悪化で、ここ数年、首脳会議が開かれていない日米豪印の枠組み「クアッド」の実効性を高める足がかりにもなる。

機上で国会空転に悩み?

 ニューデリーを発ち、東京に向けて機上の人となった高市。その胸中を訪印成功の充実感が満たしたのも束の間、すぐに国内で山積する難題をいかに処理するかという悩みが占めていたかもしれない。

 高市の外遊中、文字通り国会は空転していた。高市の中傷動画問題を巡る対応に加え、与党の自民党と日本維新の会が衆院議員定数削減法案と「副首都」法案の審議を強行したことに野党が猛反発、全党一致して本会議・委員会を欠席する事態が続いていた。

 7月17日の会期末が近づく中、自民が「先送りできない喫緊の課題」と位置付ける皇族数確保に向けた皇室典範改正案をはじめ、再審制度見直しの刑事訴訟法改正案など重要法案の審議日程も綱渡りになっていた。

 政権にとって無視できなかったのは、中道改革連合や立憲民主党などの抵抗野党だけでなく、連立政権入りが取り沙汰されてきた国民民主党や、「国旗損壊罪」創設法案を与党と共同提出した参政党までが結束して抵抗したことだ。

 野党が態度を硬化させたきっかけは、6月22日の衆院予算委員会で高市が中傷動画問題や「サナエトークン」問題について、口頭の答弁に代えて文書の提出で対応する考えを示したことだ。それ以上に、与党が29日に定数削減法案を審議入りさせたことで、普段は確執を抱える野党全党がまとまる状況になった。

 定数削減法案は与野党の選挙制度協議会で議論し、1年以内に結論が出なければ、衆院比例代表を自動的に45議席削減するという内容で、中小政党の野党ほど打撃が大きい。日本維新の会が主張していたものだが、連立を組む自民党内にさえ慎重論はあった。

 それでも高市は6月12日に維新共同代表の藤田文武と会談した際、「必ず今国会で実現する」と伝え、審議入りを後押しした。昨年10月の党総裁選に勝利したものの、公明党の連立離脱で窮地に陥った高市としては、連立参加で政権発足を後押しした維新の意向は無視できない。

 高市は今年2月の衆院選で自民だけで定数の3分の2以上の議席を獲得した後も、連立政権合意書に書かれた政策の実行を党内に訴えてきた。

 野党が審議拒否を続ける中、官邸からは事態を打開するため、国会の会期を60日間延長する案も浮上した。憲法59条の規定で、法案が衆院を通過して60日以内に参院で採決されない場合、否決されたとみなすことができる。その後、与党が衆院の3分の2以上の賛成で再可決すれば、法案を成立させられるという訳だ。

 今国会は衆院選を受けた特別国会であり、通常国会と異なり延長が2回できるという特殊事情もあった。ただ、60日延長論は参院の存在意義にも関わるだけに、野党だけでなく、少数与党の中で法案成立に汗をかいてきた参院自民党も受け入れにくい。

 自民ベテランは「官邸は維新の言うことを聞き過ぎだ。閣法(内閣が提出した法案)ではない議法(議員が提出した法案)で国会を延長するなんて聞いたことがない。定数削減法案も副首都法案も無理に今国会で成立させる必要はない」と冷やかに語る。

国民民主との連立も不透明

 与野党対立は自民党副総裁の麻生太郎や党幹事長の鈴木俊一らが進めてきた国民民主党の連立政権入りにも影を落とした。一時は国会閉会後の早い時期の連立も現実味を帯びていた。

 麻生は6月25日夜には都内の日本料理店で、代表の玉木雄一郎や幹事長の榛葉賀津也らと会食していた。だが、皮肉にも翌26日に定数削減法案の審議入りが決まり、国民民主が態度を硬化させた。7月2日のBSフジの番組では玉木が「(自民は)連立しませんか、協力してやりませんかと言いながら、こちらが呑めないような法案とか政策を出してくる。笑顔で顔面パンチ。国会運営さえ円満に行かないのに連立にはならない」と言い切った。

 国民民主は高市が超党派の社会保障国民会議で議論を進める飲食料品の消費税減税にも反対しており、連立入りは遠のいたという見方が永田町で一気に広がった。

消費税減税で〝小渕の乱〟

 高市が意欲を見せた消費税減税も迷走した。

 国民会議議長を務める自民党税調会長の小野寺五典が27年4月から税率を1%に引き下げ、1%分を給付に充てて「実質ゼロ」とする議長案を示したが、国民民主を含む野党が一斉に反発。「これまで議論してもいない」「物価を抑える効果も期待できない」などと批判が相次いだ。

 高市には衆院選公約に掲げた飲食料品の消費税率ゼロを実現したいという思いがある。ただ、レジシステムの改修などで約1年かかるという試算が示され、半年程度で実現できるという税率1%案に傾いた。

 官邸としては当初、議長案をベースに意見集約する構えだった。27年4月に税率1%に引き下げるには、秋にも予定される臨時国会までに関連法案を成立させなくてはならず、早期に結論を出す必要があったからだ。だが、与野党の溝は大きく、予定していた6月中の中間取りまとめを断念した。

 さらに、消費税減税を巡って、高市の足元の自民党からも反発が出る事態になった。元経済産業相の小渕優子がインナーと呼ばれる税調の非公式幹部会合のメンバーを辞任する意向を小野寺に伝えた。小渕は財政健全化を重視する立場で、消費税減税への反対が理由だ。

 もちろん、党内には小渕がそれだけで辞任を決断したと受け取る向きは少ない。自民党関係者は「これで小渕さんはポスト高市候補の1人になる可能性が出てきた」と解説する。

 小渕は元首相の恵三を父に持ち、恵三が会長を務めた経世会の流れをくむ平成研究会に所属した議員の一部には首相待望論がある。高市と関係が悪化している参院幹事長の石井準一も平成研究会出身だ。

 小渕は非主流派となっている前幹事長の森山裕や、総裁選の度に出馬が取り沙汰される元経産相の齋藤健、元総務相の野田聖子らとも良好な関係を築いている。小渕が「反高市」で動けば一定の塊になる可能性がある。

 党内で高市を支える議員連盟「国力研究会」が発足し、党所属議員の8割超が入会したというものの、無派閥で活動を続けてきた高市の党内基盤はいまだ盤石ではない。頼みにできるのは、高市政権の後ろ盾で唯一残る派閥を率いる麻生、そして衆院選大勝や高い内閣支持率が象徴する世論だろう。

 今のところ、麻生は「安全保障環境の変化に対応した取り組みを進め、日本を大きな成長の波に乗せようとしている」として、政権を支える姿勢を見せる。ただ、維新の意向を優先し、国民民主との連立に消極的な高市に不満を持っているとされる。

 政権発足以来、高水準を維持してきた内閣支持率も一部報道機関の世論調査では下落するケースが目立ち始めた。

 定数削減法案を継続審議としたことで正常化したが、国会最終盤の混乱は高市政権の微妙な立場を改めて浮き彫りにした。安倍は官邸主導で重要政策を進める「政高党低」を通して、7年8カ月に及ぶ長期政権を築いた。連立の組み換えなど、政権の枠組みが変化した今、後継者の高市がその軌跡を辿ることができるかどうかはまだ見えない。(敬称略)

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