
「我々自身が強い成長志向を持った上で、お客さまの成長を後押ししていく」─こう話すのは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)社長の半沢淳一氏。先行き不透明な経済環境だが、半沢氏は「成長」と「挑戦」という2つのキーワードで社内を鼓舞する。国内では個人向け総合金融サービス「エムット」で顧客体験を変え、海外ではアジアのパートナーバンクとの連携を強化。今後、どのように成長させていくか─。(2026年6月30日取材)
先行き不透明な中東情勢の中で
─ 米国とイランは停戦合意、株価は高い基調にあるものの、地政学、経済どちらも先行き不透明感が漂っています。世界及び日本経済の先行きをどう見ていますか。
半沢 中東情勢の先行きがどうなるかはわからないところがあります。ただ、中東情勢の緊迫化がこれ以上エスカレーション(拡大)せず、緩やかながらも収束に向かっていくということを前提に考えれば、世界経済も日本経済も、ある意味では論点は一緒な気はします。
中東情勢を受けた供給制約が徐々に解消してくる一方、すでに上がっている物価の上昇が、この後も続くだろうと見ていますから、一時的な経済減速はあり得ます。ただ、来年にかけて事態が緩やかながら沈静化していくことになれば、景気も緩やかに回復していくと見ています。
日本についても同様で、個人的には供給制約の影響がもっと強く出るのではないかと懸念していましたが、政府や企業が苦労しながら供給や調達をしたために、そこまで大きくは広がらなかったと思っています。そうは言っても、まだ供給制約は意識せざるを得ません。
─ 資材価格高騰や円安もあり、物価は上昇しています。
半沢 間違いなく物価は上がっていきますから、日本でも一時的な景気減速はあると思っています。ただ、こちらも政府の下支え策、賃金上昇、企業の設備投資意欲などで緩やかに景気回復していくと思っています。
─ こうした環境下での社長就任ですが、日本最大の金融グループをどう束ねていこうと考えていますか。
半沢 基本的な経営方針は踏襲していく中で、私としては大きく2つの思いがあります。
1つは成長志向を進化させたいということ、もう1つは挑戦をしっかり進め、挑戦した結果をしっかり出していくということです。この2つにはこだわっていきたいと思っています。
前者について言えば、日本経済も「失われた30年」から成長モードに復するタイミングだと思いますので、その動きを支えていくと同時に、我々三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)自身が高い成長志向を持った上で、お客様の成長を後押ししていく。
構造改革モードから、未来を見据えた成長志向へ、ビジネスモードを変えていくということです。
後者については、前も今も中期経営計画の中でずっとトライしてきたことで、少しずつ挑戦志向は高まってきていると思います。これをもう一歩進めて、挑戦した結果として成果を出していく。結果を出すことにこだわっていきたいと思っています。
こうしたことに取り組むことで、私の思いとしては、20年前にMUFGを設立した時に目標として掲げていた、グローバルトップ5への道筋をしっかり付けていきたいと考えています。
─ グローバルトップ5を目指すという時に、どの指標に力点を置いて取り組んでいこうと考えていますか。
半沢 今、まさに来年度から始まる中計の作業をしており、その中でさらに精緻化していくかもしれませんが、現時点での私の思いは、時価総額でトップ5に入ることを意識しています。
─ 社長として、グループの社員に向けて、どんなメッセージを伝えていますか。
半沢 今お話した2つの思いに加えて、社内の皆さんに私がこだわっていることとしてお伝えしたいのは、皆さんが生き生きと働ける現場にしていきたいということです。
「エムット」の展開で顧客体験を変える
─ 日本銀行が政策金利を1%にするなど「金利ある世界」が定着してきています。銀行業の収益にプラスになる一方で、法人、個人にはプラスマイナス両面あると思います。どう捉えていますか。
半沢 「金利ある世界」では、我々が収益を拡大できる機会があることは間違いありません。「金利ある世界」が戻ってきたということは、日本も成長モードに入っているということだと思います。
その中で、海外もそうですが特に国内において非常に資金需要が強いですから、その中で企業が成長し、我々もそこに対して貢献することを通じて成長していくことが最も重要であり、求められていると思います。
企業の投資においては、金利があることに加えて、原材料価格の上昇、インフレも踏まえた事業計画、事業戦略をお客様が検討されます。
我々としては、事業計画になってからお話するのではなく、事業戦略の時点からソリューションを提案させていただくことで、お客様に貢献していきたい。その役割が我々に求められています。
─ 金利が付くことで、個人が資産運用を強く意識するようになりました。その中でMUFGは個人向け総合金融サービス「エムット」を展開していますね。資産運用にもつながるサービスですが、今後どう発展させたいと考えていますか。
半沢 昨年「エムット」をスタートしたわけですが、第1弾はダイレクト機能の刷新とカードのポイントアッププログラムを展開し、この後、第2弾、第3弾と進めていきます。
我々の思いは、お客様の入口である預金サービスから始まり、決済、資産運用、相続まで、お客様が必要となる金融機能をグループの中で全て持っていますから、それらを一体的に提供していきたいということです。
具体的には第2弾として、グループでバラバラだったポイントを今後「エムットポイント」として統一して、グループの様々なサービスをご利用いただくほどおトクになる「ロイヤリティプログラム」も提供していきます。
相続の部分も生前に相続対策ができるサービスをつくっていきます。また、今年度中に「デジタルバンク」の開業を目指していることに加え、グループの三菱UFJeスマート証券とウェルスナビを統合した新たな資産形成サービス会社も立ち上げていきます。
さらに、AI機能を実装して、新たな顧客体験を実感してもらう。ここまで持っていくと、お客様に我々のリテールサービスの進化がわかっていただけると思っています。発表したものを1つひとつ、しっかり実現していくことが大事になります。
─ エムットがスタートしてから、顧客の反応を見て、変化を実感してもらっているという手応えはありますか。
半沢 そうですね。我々はリテール領域でサービス提供がワンテンポ遅れていましたから、サービスレベルが上がってきていることを実感していただけていると思います。それが銀行預金の口座獲得が前年同期比1・5倍という実績にも結びついてきています。
今後のサービスに対する期待も大きいですから、早く実現していかなければいけないという思いもあります。
─ 三菱UFJ銀行とデジタルバンクのサービスは、どのように共存していきますか。
半沢 三菱UFJ銀行に影響するからといって、デジタルバンクのサービスを中途半端なものにしてしまうとお客様に受け容れられませんから、そうしたことを意識せず、一番よいサービスを提供しようという考え方で戦略を固めています。
競争力のある金利水準やサービスを提供しなければいけませんし、1人別の最もよい提案をするサービスに加え、新たな資産形成会社との統一したUI/UXも備えていきます。
さらに、AIは非常に実装しやすくなります。OpenAIの最新のAIを実装し、AIを活用した新たな先進的な体験をしていただける形にすることが可能となります。
同時にお客様のニーズが多様化、高度化していく中で、Google Cloudのクラウド基盤を活用することで、従来に比べて軽いシステム基盤のもと、提供したサービスがうまくはまらなかったと思えば、短期間で修正して出していくことができます。
銀行本体のシステムは業容が複雑なため開発をするのに時間がかかります。デジタルバンクでの柔軟性、迅速性は個人的に非常に大きいと思っています。
AI活用でサービス、業務はどう変わるか
─ 米国やアジアに海外事業の足場がありますが、グローバルトップ5を目指す上で、もう一段の成長をどのように求めていきますか。
半沢 領域的に課題だと思っているのは資産運用です。インオーガニックという意味では資産運用・資産管理はターゲットになりますが、米国、アジアを中心に出てくる可能性が高いと見ています。
また、これまでアジアでは4つのパートナーバンクに出資し、2026年にはインドの大手ノンバンクであるシュリラム・ファイナンスに出資、さらにはデジタル関連会社への出資などを実行してきました。
各国ごとに成長の仕方や、経済成長のあり様や水準も違う中で、いま一度国ごとの戦略を考えて、より強化する領域、見直すべき領域はどこなのかといったことを振り返るタイミングでもあると思っています。
その上で、従来の出資先の磨き上げもあります。例えば26年4月から始めた新サービス「MUFG Unity」は、4つのパートナーバンクの地場決済をMUFGの銀行口座の中でできるようにするなど、出資した先と協働することで新たなサービスを作り上げ、アジアの決済ナンバーワン銀行を目指すという戦略の一環です。
様々な戦略を考えていかなければならないタイミングだと思っています。
─ ポートフォリオを含めて見直すフェーズに来ていると。
半沢 ええ。アジアでは想定より成長していない国もありますから、その中で戦略を考えていかなければなりません。
例えばタイのアユタヤ銀行は、元々ノンバンクに近かった業態が商業銀行に転換して成長してきましたが、タイ経済が成熟してきています。その中で構造改革を進めるか、事業ポートフォリオを変えるかということを考える必要があります。
また、インドネシアのバンクダナモン、アユタヤ銀行などパートナーバンクで、JCBとの連携で富裕層向けのカードを発行するなどウェルスマネジメントを強化するための施策を打っていきます。足元の環境も見ながら、戦略を見直していくということを考えています。
─ 先ほどエムットの話の中でもありましたが、AIを活用してサービスや業務を変えようとしていますね。半沢さんはAIをどう捉えていますか。
半沢 我々は「AIネイティブ」な企業になると標榜しており、全体の底上げを図っています。それにはAIレディ、つまりAIがデータを使いやすい環境を整え、ガバナンスをどうしていくかという課題があります。
もう1つは先進的な企業との連携で情報を取り、それを活かして我々自身の行動をどう変えていくかが問われます。
例えばRM(顧客担当者)が提案する時、以前は全て自分でやっていたものを、一部をAIに任せることができれば資料作成時間などが短縮でき、それを踏まえて訪問件数増加、競争力、提案力を強化することが期待できます。
また、OpenAIやGoogleと連携する中で、彼らのサービスにMUFGの金融機能を入れて、お客様との接点を増やすという活動も考えられます。
─ 「人」の役割も含めて見直しの機会になりますね。
半沢 そう思います。我々は行員1人ひとりの思考を深めるパートナーとしてAIを使っていきます。提携しているSakanaAIとは融資の分野で取り組んできましたが、今後は企画機能の調査分析などはAIが有効ではないかと考えて検討しています。
こうした取り組みでAIを進化させ、使う人間も進化するという回転に持っていきたいと思っています。
不確実な時代の中で様々な選択肢がありますが、自分の意思で未来を定めて、そこに向かって行動する。これはやはり人間の機能だと思います。その能力を高める時にAIを活用していくのだと思います。