e-Gle代表取締役(慶應義塾大学名誉教授)・清水浩の【必ずEVの時代が来る!日本企業がどのくらいのシェアを取れるかが勝負】

「やはり自動車の電動化では、今は内燃機関車が主流でも、将来の電動車の本命は電気自動車(EV)だ」と某識者は語る。そのEVでは海外勢に圧倒され、日本の自動車メーカーの存在感は薄い。テスラよりも早くEVを手掛けた第一人者の清水浩氏は自らが開発した「インホイールモーター」を引き合いに、日本の勝ち筋として既存の概念にとらわれない第三者の担い手の登場に期待する。立ち遅れた日本が巻き返すには何が必要なのか。

 15台のEVを試作して

 ─ EVを巡っては米テスラが台頭し、今は中国のBYDを筆頭に中国勢が勢力を広げています。一方で日本の自動車メーカーの存在感が低くなっています。テスラに先駆けてEVを開発した清水さんは日本の現状をどう捉えていますか。

 清水 私にとって一番有名なEVは「Eliica」というクルマです。2004年に開発した、私にとっては8台目のクルマになります。それから慶應義塾大学の教授を退任するまでに15台作りました。結局、クルマを作るのが好きなんです。

 ─ 教授としてのリタイアをしたのは何年になりますか。

 清水 13年に65歳でリタイアしました。ただ、今でも隙あらばクルマを作りたいと思っており、イタリアの工業デザイナーで「いすゞ117クーペ」や映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で使用されて有名になったタイムマシン「デロリアン」のデザインを手掛けたジョルジェット・ジウジアーロ氏とプロジェクトを進めようとしています。

 技術者としての私がクルマづくりを通じて感じるのは、技術は人間にとって使いやすいものでなければならないということです。さらに、効率が良く、作り方が簡単なものに変わっていくと思っています。

 そうすると、EVは明らかに効率が良く作りやすい。また、その作りやすいという点でEVが長けているのは素人でも作れる点です。

 そうなると、人間にとって使いやすいものになるかどうかが勝負になります。これが、私が長い間、考えてきた概念で、人間にとって使いやすい、新しいEVを作りたいと考えてきました。そのためには、まずはブランドづくりが重要だということで、EVのスーパーカーの開発をスタートさせたいと思っています。

 ─ 世界各国・地域でEVの普及率には差があります。日本でのEVのシェアは2%弱ですが、今後どのくらい普及すると見込んでいますか。

 清水 世界中にどのくらいのEVが普及するかと言えば、最大でスマートフォンの台数と同じ規模になると思っています。スマホは現在、世界で80億台あります。ほぼ人口と同じ規模だけあるわけです。そしてスマホのランニングコストは15年間で約200万円になります。

 毎月、通信費などに1万円かかりますから年間で12万円。15年間になれば180万です。その間、買い替えもするでしょう。そうすると、トータルで200万円です。仮に200万円のEVがあれば、大きな故障もせず、電気代も少なくて済むため、ランニングコストはほとんどかかりません。

 そうすればスマホを持ちたいか、EVを持ちたいかという選択肢になりますが、人々は当然両方持ちたいと思うはずです。

 ─ いかにEV自体の価格を抑えるかがポイントですね。

 清水 そうですね。一般的には年間10万台の生産が自動車の量産のユニットになります。したがって、10万台作れば、おおよそそのくらいの値段にはなると。

 現在の世界の自動車メーカーの売上高の合計が約250兆円。EVが普及して単価が安くなり、販売台数が増えれば1000兆円規模の産業に成長するという計算になります。そのうち日本の企業がどのくらいのシェアを取れるかになります。

 日本の自動車メーカーが出遅れた理由

 ─ そもそもEVは昔からあるものだったのでしょうか。

 清水 1900年には独のポルシェが作ったと言われています。ただ、ガソリンなどの内燃機関車に対抗できるクルマとなったのはエリーカだと思います。加速が内燃機関車を上回り、最高速度も時速370㌔です。それまでのEVと比べても、その性能は群を抜いていたと思います。

 ─ それだけ画期的だったということですか。

 清水 ええ。そこから世の中が少しずつ動き出します。当時、三菱自動車工業が事故を起こし、親会社である三菱重工業も大きな批判を浴びていました。そこで三菱自動車は復活に向けてEVの開発に乗り出し、世界初の量産軽自動車のEV「i-MiEV」を作りました。それが09年でした。

 さらに翌年には日産自動車が世界初の量産型・5人乗り登録車のEV「リーフ」を開発しました。したがって、10年当時の日本はEVの大先進国だったのです。

 しかし今は見る影もなくなりました。なぜかというと、やはり自動車メーカーはEVが得意ではない。というのも、各社の技術者の約3割は内燃機関の技術者であるからです。

 ─ ガソリン車とEVとでは構造も製造方法も異なると。

 清水 はい。まさに「イノベーションのジレンマ」です。どんなに優良企業でも、技術が変わった途端、消えてなくなる。これは歴史が示しており、産業革命以降も続いています。

 ただ、自動車会社がEV会社になれるかどうかは分かりません。

 実際に、テスラがEVで世界のナンバー1となり、その後にはナンバー2だった中国のBYDがテスラを抜いてナンバー1になろうとしています。テスラはEVとは全く縁もゆかりもない会社でした。

 また、BYDも、もともとは電池屋です。そこから世界のトップ群へとのし上がって来たわけです。

 そうすると、日本でも誰かがやるとしたら第三者がやらざるを得ない。その第三者が誰になるかはまだ分かりません。しかし、それが現実になれば、先ほど申し上げたように1000兆円規模のビジネスにはなるはずだと。

 そのうち日本がシェアをどのくらい獲得できるかにしても、それ相応のプラス影響をGDP(国内総生産)にももたらすと思います。

 車輪にモーターを搭載する方式

 ─ EVで米中にも抜かれた状況の中で、清水さんの取り組みはどんなものなのですか。

 清水 例えばテスラが私のコンセプトでクルマを作るようになったら売れなくなります。それはコストパフォーマンスが違うからです。開発を始めた当初からエリーカを含めて私のコンセプトは車輪の中にモーターを搭載するインホイールモーターという方式を採用するものでした。

 また97年に作った高性能EV「ルシオール」では、床下のフレーム構造の中に電池を全部収納する方式を採用しました。そうすると、走るために必要な部品を車体の上に取り付ける必要がなくなります。

 現在のクルマは全体の約3分の1はエンジンやエンジン関連の部品で構成されていますから、それらが要らなくなるということです。

 そうすると、それだけ車室が広くなります。ですから、軽自動車サイズでもトヨタ自動車で売れ筋の「カローラ」などと同じくらいのスペースが生まれます。

 加えて、航続距離も同じ電池であっても約2倍伸びます。ギアなどがなくなり、モーターの力がそのままタイヤに伝わるからです。それだけで航続距離が約3割延びます。

 ─ なぜそれが普及しなかったのでしょうか。

 清水 自動車メーカーは、どこもインホイールモーターに懐疑的なのです。車輪の中にモーターが入るなんてとんでもないと。バネ下重量が重くなると言うのです。

 しかし、それは過去の話です。今では技術革新を経て、バネ下重量が重くなるという課題は解消されています。実際、私の試作車に乗ったプロのドライバーからバネ下重量が重いと言われたことはありません。

 他にもインホイールモーターだと、モーターを4つ使うから車体価格が高くなるとも言われますが、モーター自体も軽くなっています。日産のEV・リーフのモーター1個の重さと、私がつくったEVの4個のモーターの重さは、だいたい同じです。

 モーターの価格は重さと比例します。モーターは鉄の塊にコイルを巻いて磁石を取り付けたものです。高い部材は使っていません。ですから、銅と鉄と磁石の価格の合計の約3倍がモーターの価格になります。我々のモーターが1個につき3万円以下。4個つけても12万円です。

 さらに電池の原価も下がってきていますから、モーターと電池、そしてインバーター(直流の電気をクルマの回転に合わせて交流に換えるための変換・制御装置)の3つが適正な価格で供給できれば、それ相応の価格で提供できる計算になります。

 ─ それだけインホールモーターの強みがあると。

 清水 はい。まずは効率が良いのでエネルギー消費が少ない。モーターと車輪の間にロスがありませんからね。それからクルマで使うエネルギーの一番大きなものは空気抵抗になります。

 車体の有効空間が広くなることを利用して、その空気抵抗を小さくできる設計にすれば、現在の半分のエネルギーで走ることができるようになります。普通車が軽自動車のサイズになりますから車両自体の重量も軽くなります。

 ─ まさに構造をガラリと変えるものになりますね。

 清水 そうです。そんなEVができれば、海外のEVなど目ではありません。テスラやBYDのEVの構造は基本的には今までのガソリン車と同じで、エンジンを取り外してモーターを搭載しただけです。それでは内燃機関車に勝てません。

 新たなEVの担い手

 ─ 実際にホンダはEVの戦略見直しに伴う巨額の損失を計上しました。それだけ市場環境もガラリと変わっています。

 清水 ええ。ホンダに関してはEV嫌いと言われる米トランプ大統領の政策転換による市場の読み違いが大きかったと言えます。

 それ以外にもホンダはソニーグループと合弁会社をつくり、約1500万円のEVを投入しようとしていましたが、実はこの価格帯は競争の激しいレッドオーシャンで、テスラもいればポルシェもいる。その意味では、中途半端な価格帯でした。

 競争の激しい領域に中途半端な価格帯のEVを投入しても難しい。その点で言えば戦略ミスと言えます。どうせやるならスーパーカーのEVを投入することから始めるべきです。

 ですから、私の描くストーリーも、まずはブランドをつくるためにスーパーカーから投入していくことが最初の一歩になります。

 ─ スーパーカーでブランド力を高めていくと。

 清水 そうです。その後は軽自動車サイズでも普通車並みのスペースがあり、性能も高い軽自動車のEVを投入していく。ブランド力のない状態で最初に軽EVを投入しても売れませんからね。

 ですから、まずは高価格帯のEVでブランド力を磨き、その次に低価格帯のEVで販売台数を獲得していくと。そもそも日本の自動車メーカーの国内工場でフル稼働しているのはトヨタ自動車くらいだそうです。

 ということは、他社の工場には生産する余地があるということです。そういう会社であれば、自社の工場の稼働率が高まるわけですから喜んで生産してくれるでしょう。

 あとは誰がその担い手になるかです。例えば、販売に関しては大手家電量販店に任せることも可能でしょう。

 実際、全国に約930の直営店を展開しているヤマダ電機は、どこのメーカーのEVでも販売するという方針を掲げており、既に整備工場とも提携して整備もできる体制を整えています。新たなEVの担い手がヤマダ電機などと提携していけば、大きな存在感を示すことができるのではないでしょうか。

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