OptQCと産業技術総合研究所(産総研)の両者は7月21日、OptQC製の商用レベルの光量子コンピュータ1号機となる「MoQuren(モクレン)」を産総研の量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)に設置し、稼働を開始したことを共同で発表した。

なお、今回の取り組みは、商用化を目指す国産光量子コンピュータを実際の研究開発環境へ導入する世界初の事例になるという。

  • OptQC製光量子コンピュータの1号機「MoQuren」

    OptQC製光量子コンピュータの1号機「MoQuren」。(出所:OptQC Webサイト)

世界初の商用化へ国産光量子コンピュータが稼働開始

量子コンピュータでは、0と1の重ね合わせ状態を利用できる「量子ビット」を実現するために、さまざまなハードウェア方式が研究・開発されている。現在主流とされる超伝導方式をはじめ、イオントラップ方式、中性原子方式、半導体(シリコン)方式、そして今回稼働を開始した「MoQuren」で採用されている光(フォトニクス)方式などがある。それぞれに長所と短所があり、将来的にどれか1つの方式へ集約されるのか、あるいは用途に応じて複数の方式が使い分けられるのかについては、現時点で結論は出ていない。

OptQCは、光量子コンピュータ研究の第一人者として知られる東京大学の古澤明教授の研究成果を事業化することを目的に設立された東大発のスタートアップだ。古澤教授自身も取締役として参加している。CEOを務める高瀬寛氏は、同研究室で博士号を取得後に助教を経て、現在も共同研究員として研究に携わる人物だ。

一方、産総研G-QuATは、量子・AI融合技術のビジネス開発拠点として、量子・古典融合計算基盤(ABCI-Q)の整備を進めている。この基盤の一部として、「MoQuren」を導入することで、新薬開発、素材創出、金融最適化、AIモデル構築といったビジネス課題に対し、実機を用いた技術検証を本格化させる計画である。

今回稼働を開始した「MoQuren」は、商用レベルの光量子コンピュータの1号機としてOptQCによって開発された。光方式は室温・常圧で動作するため、超伝導方式で不可欠な極低温冷却装置を必要としない。また、発熱を抑えられる省エネ性に加え、配線やハードウェア構成がシンプルなため小型化しやすい点も特徴となっている。

加えて、光は外部ノイズの影響を受けにくく、量子情報を安定して保持・操作することができる。また、光ならではの高速動作が可能で、既存の光通信技術との親和性も高いことから、大規模な実用量子コンピュータを実現するのに適した方式として期待を集めている。

また「MoQuren」の主な仕様・特徴としては、100入力(量子アナログ)に対応し、動作周波数は100MHzを達成している。さらに、最適化アルゴリズムの基礎と実装に加え、最適化ソルバやニューラルネットワークなどの技術を備えている点も特徴だ。

現在、OptQCは企業や研究機関による早期のアプリケーション開発を支援するため、ソフトウェア開発キット(SDK)からなる「開発者向け実行環境」の開発を進めている最中だ。無償で一般に提供されるSDKにはシミュレータが同梱されるため、実機へのアクセスを待たずにユーザーのPC環境などで量子アルゴリズムの論理的な動作をシミュレートし、事前に検証することが可能となるとした。

加えて、今後の実機利用に向けてSDKの使い方を学べるドキュメントや、ブラウザ上で簡単にシミュレータを実行できるサンプルコードをサービスサイトにて順次公開する予定だ。併せて、サービスサイトを通じて実機の提供状況や開発ツールのアップデート情報も発信していく方針だ。

また、OptQCは今後の開発ロードマップも公表している。2027年内には、量子アナログ方式において世界最大規模の入力数に対応し、古典コンピュータを上回るクロック速度や最適化計算、ニューラルネットワーク対応を特徴とする「高速・大規模モデル」を構築して2028年内の一般公開を目指すとしている。さらに、量子ビット・論理量子ビット入力や量子アルゴリズムへの対応、大容量通信などを実現する「量子ビット・アナログハイブリッドモデル」を2028年内に構築し、2029年内の一般公開を予定している。なお、ここでいう量子アナログ方式とは、光の連続的な状態を利用して計算を行うOptQCの光量子コンピュータが採用する方式のことを指す。

今回の「MoQuren」の稼働に対し、OptQCの高瀬CEOは、「当社にとって極めて重要なマイルストーンである1号機『MoQuren』を、国内の量子・AI研究を牽引する産総研G-QuATに構築し、稼働を開始できたことを大変嬉しく思います。当社のコア技術である「光方式」は、室温・常圧で動作し既存のインフラとも親和性が高いことから、次世代の計算基盤を最も早く実用フェーズへ進められる技術であると確信しています。産総研のABCI-Qとの連携を通じて、基礎研究の枠を超え、企業の皆様がビジネスの現場で真に活用できる商用量子計算サービスの確立に向け、全力を尽くしてまいります」とコメント。

一方、産総研G-QuATの堀部雅弘副センター長は、「産総研G-QuATでは、OptQCとの共同研究を通じて、光量子コンピュータを活用した量子・古典融合計算技術の研究開発に取り組んできました。今回の外部ユーザーへの提供の開始は、実利用を見据えた技術検証やユースケース開発をさらに進める契機になると期待しています。今後もOptQCとの連携のもと、量子コンピュータの発展とそのユースケース創出に取り組み、社会課題の解決や新たな産業創出に貢献してまいります」とコメントしている。