2026年7月15日~17日に、東京ビッグサイトで開催されたメカトロニクス・エレクトロニクス関連の総合技術展示会「TECHNO-FRONTIER 2026」において、米国の電源コンポーネントメーカーVicorは、展示ブースを出展し、車載向け電源モジュールやそれらを用いて構成した電源ユニットのプロトタイプを紹介した。

また17日には、Vicor株式会社 プリンシパルアプリケーションエンジニア 羽岡 哲郎 氏が出展社セミナーに登壇。同社の高電力密度・高効率モジュールによって、車両を高付加価値化する小型・軽量な電源ユニットをいかに設計するかを解説した。本記事では、会場で展示された技術や製品を交えながら、セミナーの模様をレポートする。

  • (写真)セミナー会場

高効率・小型・双方向を両立するVicorの独自技術「SAC™」

VicorのDC-DCコンバータ製品を支えるコア技術のひとつが、SAC™(Sine Amplitude Converter)だ。羽岡氏はSAC™を「共振回路方式のDCトランス」と表現する。インバータで直流を交流に変換し、トランスで電圧を変換したのち、同期整流器で直流に戻すという構成である。

ポイントは、インバータのスイッチング動作を共振回路で決まる周波数で行うことにある。VicorのSAC™モジュールは1MHzを超える高い周波数でスイッチングしており、これによって高効率・低ノイズと、小型・高密度を両立している。加えて内部インピーダンスが低いため、負荷が急激に増減しても瞬時に応答し、電圧変動を最小限に抑えられる。

もう1つの重要な特徴が双方向動作だ。入口のインバータと出口の同期整流器は同じ回路構成であり、どちらもインバータにも整流器にもなり得る。そのため、どちらの向きにも電流を流すことができる。

ただし、SAC™自体は電流の方向を決める機能を持たない。電流は相対的に電圧が高い側から低い側へ流れる。羽岡氏は変換比1/16のモジュールを例に、800Vと50Vが両端にかかっていれば電圧が釣り合って電流は流れないが、低電圧側が49Vに下がれば800V側から、51Vに上がれば逆に低電圧側から電流が流れると説明した。

  • (写真)Vicor株式会社 プリンシパルアプリケーションエンジニア 羽岡 哲郎 氏[

    Vicor株式会社 プリンシパルアプリケーションエンジニア 羽岡 哲郎 氏

「SAC™は、電圧を変換する特殊なケーブルのようなものと考えていただければよいと思います。SAC™自体は電圧や電流を制御する機能を持たず、電圧をレギュレーションする機能もありません。だからこそ、幅広い負荷範囲での高効率と、非常に小型で高い電力密度を実現できるのです」(羽岡氏)

車載向けには、このSAC™技術を用いた「NBM9280」「BCM6135」「NBM2317」の3製品がラインアップされている。

  • (画像)車載向けSACモジュール

大型48Vバッテリー不要で、アクチュエータを直接駆動する

セミナーの1つめのテーマは、48Vの高出力アクチュエータによる車両の高付加価値化だ。

近年、EVの付加価値を高める機能として、瞬間的に大電力を必要とするアクチュエータの搭載が進んでいる。しかしこれらは数kWクラスのパルス状の負荷変動を伴うため、48V系の電源が必要となり、従来は48Vのリチウムイオンバッテリーやスーパーキャパシタを別途搭載して対処するのが一般的だった。重量とスペースの負担は小さくない。

  • (画像)BCM6135:800V/48V,2.5kWの詳細画像

この課題に対する1つの解が、800V/48V双方向変換のSAC™モジュールであるBCM6135だ。入力電圧範囲は520-920V、出力電圧範囲は32.5-57.5V。変換比は1/16で、800Vを入力すると50Vが出力される。定格出力2.5kW、ピーク効率97.3%で、入出力間はトランスによって絶縁されている。パッケージサイズは61×35×7.4mmだ。

羽岡氏は、このモジュールが効果的に機能する例として、高性能デフロスタとアクティブサスペンションの2つを挙げた。

1. 高電力パルス電流方式デフロスタ

  • (写真)フロントガラスの曇り具合が比較できる画像

1つめは、EV向けに開発された高電力のパルス電流を用いた霜取りシステムだ。EVではエンジンの排熱を利用できないため、従来の温風でフロントガラスを温めて氷を溶かす方法は効率が悪く、解氷にも時間がかかる。

パルス電流方式は、ガラス表面に仕込まれた導電膜に高電力のパルス電流を流し、ガラスに付着した氷のうち、ガラス表面付近だけを瞬間的に溶かして薄い水の層を作る。氷は水の層の上に浮いた状態になるため、あとはワイパーで取り除けばよい。

課題となるのは、やはり瞬間的な大電力に対応する48V電源だ。BCM6135を使えば、800Vの駆動用バッテリーから、48Vバッテリーに匹敵する応答性の良い電源を直接供給できる。61×35mmのモジュールで2.5kWを出力できるため、48Vバッテリーを積むよりもシンプルで軽量な電源システムを構成できる。

  • (画像)BCM6135が電源の課題を解決

2. アクティブサスペンション

2つめはアクティブサスペンションだ。高級車を中心に搭載が進んでおり、路面からの振動やカーブでのロール、ブレーキ時のピッチを打ち消すことで、安定感のある乗り心地を実現する。スポーツカーではタイヤの接地荷重や車体の姿勢を緻密に制御できるため、走行性能そのものを大きく改善できる。

  • (画像)アクティブサスペンションについて

一方、電源が供給する負荷としては3つの特徴があると羽岡氏は説明する。1つめは過渡変動が大きいこと。走行中に路面の凹凸に合わせて瞬時に伸び縮みするため、パルス状の負荷変動となる。2つめはピーク電流が大きいこと。大きなものでは数kWのピークが発生する。3つめはエネルギー回生だ。衝撃を吸収するときやバネの反発を受けるとき、サスペンション自体が発電機として働く。この回生エネルギーを回収してバッテリーへ戻すことができれば、車両全体のエネルギー効率を高められる。

BCM6135は、これら3つの要求すべてに応える。800Vの駆動用バッテリーから48Vバッテリーに匹敵する応答性の良い電源を供給でき、瞬間最大出力は3kW以上(30ms未満)。さらに双方向動作により、アクティブサスペンション側で発生した回生電力を800Vバッテリーへ直接戻すことができる。

  • (画像)BCM6135で電源要求に対応できる画像を見せて説明する羽岡氏

    BCM6135によるアクティブサスペンション向け電源ソリューションについて説明する羽岡氏

実際に、BCM6135を用いたアクティブサスペンション用の双方向DC-DCコンバータユニットも製作されている。800V(600-900V)と48V(37.5-56V)のあいだを双方向に変換し、出力は7kW、ピーク効率97.3%。サイズは197×201×71mm(2.8L)、重量2.6kgで、電力密度は2.5kW/L、2.7kW/kgに達する。冷却は水冷方式だ。

  • (画像)BCM6135を用いたアクティブサスペンション用双方向DCDCコンバータの詳細画像

高い電力密度を実証する2種の車載DC-DCコンバータ試作機

続いてのテーマは、国内の車載部品メーカーの協力のもとで共同開発された、車載DC-DCコンバータの試作ユニット2種の紹介である。羽岡氏は回路構成からメカニカル構造に至るまでを詳細に解説した。

1. 400V充電器で800V EVを150kW充電する昇圧ユニット

1つめは、800Vバッテリーを搭載するEVを400V系の急速充電器に対応させる、400V-800V、150kWの昇圧コンバータユニットだ。中核となるNBM9280は、変換比を1:2に固定した非絶縁型のSAC™モジュール。92×80×7.4mmと手のひらに載るサイズで、最大出力は30kW、ピーク効率は99%に達する。「NBM™」はNon-isolated BCM®(非絶縁型BCM®)に由来し、絶縁を取り払うことでより高い密度と効率を実現している。並列接続で出力を高められるため、本ユニットでは5枚を並列に搭載して150kWとした。

  • (画像)NBM9280 400V-800V変圧比固定・双方向変換バスコンバータの詳細画像

ここで羽岡氏が注意点として挙げたのが、NBM™はあくまで電圧を2倍に変換しているだけで、充電の制御には関わっていないという点だ。充電に必要な電圧・電流の制御は充電器側で行い、充電器側からは、あたかも400VのEVを充電しているように見える。なお、双方向変換が可能なため、構成を変更すれば逆方向に使い、800Vバッテリーから400Vの負荷へ給電することもできるという。

  • (画像)800Vバッテリーを400V充電器に対応させる図

NBM9280を5並列で用いた150kW昇圧システム。400V充電器から800Vバッテリーへ充電できるほか、双方向動作により逆方向の電力変換にも対応する。

ユニットとしての入力電圧は400Vと800Vのいずれにも対応する。400V充電器が接続された場合は2倍昇圧のDC-DCコンバータとして動作し、最大150kWの急速充電に対応。800V充電器の場合は昇圧せずそのまま直結するバイパスモードとなり、最大350kWに対応する。昇圧動作時の変換効率は98%だ。

  • (写真)構造図を説明する羽岡氏

    400V-800V, 150kW昇圧コンバータプロトタイプ(800Vバイパス内蔵, 400V昇圧150kW 急速充電ユニット)の構造図

内蔵するNBM9280は、5枚を平置きして上下の水冷ヒートシンクで挟み込み、両面から冷却する(冷却水は外部からの供給が必要)。このほか400V/800Vの切り替えリレーと800Vバイパス経路、EMIフィルタ、通信・制御回路も内蔵し、外部とはCANで通信する。これらをすべて内蔵しながら、外形寸法は300×250×120mm(約9L)、重量は12kgに収めている。

  • (画像)概略ブロック図

2. 体積1.4Lで4kW、他社比2倍以上の電力密度を実証

2つめの試作ユニットは、400Vの高電圧バッテリーから従来の12V電装品へ電力を供給するDC-DCコンバータだ。BCM6135とDCM3735を2つずつ搭載し、合計4kWを出力する。

  • (画像)400V-12V,4kW DCDCコンバータ プロトタイプの詳細画像

    400V-12V, 4kW DCDCコンバータを手に持つ羽岡氏

ここで用いられるBCM6135は、これまで紹介してきた800V-48V版(変換比1/16)ではなく、400V-48V版(同1/8)だ。800Vバッテリーを搭載する車両には1/16のもの、400Vバッテリーの車両には1/8のものを使い分けることになる。モジュールのサイズはどちらも61×35mmと共通で、同じ設計プラットフォームの上で車両の電圧系に応じた展開ができる。

DCM3735は、48Vバスから安定化された12Vを生成する降圧レギュレータで、出力は2kW。羽岡氏は参考として、48Vへレギュレートする同サイズの「PRM3735」(2.5kW)も紹介した。

ユニットの入力電圧は400V(280-410V)、出力電圧はデフォルトで14V(8.0-16V)だが、設定によって12Vなどに変更できる。最大出力は4kW、最大出力電流は320A。変換効率は4kW出力時で92%、2kW出力時で93%となっている。冷却は水冷による両面冷却で、基板側の熱をヒートスプレッダで反対側へ導き、水冷ヒートシンクへ伝える構造だ。制御・通信にはPMBusを備え、外部からのオン/オフやモジュールの設定、状態の監視が行える。EMIフィルタと水冷構造を含めたサイズは230×135×45mm(1.4L)、重量は2.09kgに収まっている。

  • (画像)構造の概略

羽岡氏は最後に、既存の車載DC-DCコンバータ2機種との比較を示した。体積あたりの電力密度は、他社製品が1.3-1.34kW/Lであるのに対し、Vicorのモジュールで構成した本ユニットは2.85kW/L。2倍以上の電力密度を実現している。

モジュールの組み合わせが広げる、車両電源設計の自由度

機能を追加するたびにバッテリーやコンバータを積み増していく"足し算"の設計は、高電圧化と軽量化を同時に求められる現在の車両開発では早晩行き詰まる。レギュレーション機能をあえて持たない固定変換比のモジュールを軸に据え、必要な出力は並列接続でスケールさせるVicorのアプローチは、小型・軽量化と応答性を両立させながら電源ネットワークの構成そのものを見直す自由度を、設計者に与えるものといえそうだ。

  • (写真)セミナー会場全体

    羽岡氏による講演には多くの来場者が集まり、会場は満席に近い盛況ぶりを見せた。

  • (写真)実際の製品を持つ羽岡氏

    左は今回セミナーで披露した国内車載メーカーがつくったプロトタイプ。右はVicorが製作した800V-48V, 12Vの評価ボード・Paladin(パラディン)。実際どのように製品が組み込まれるのかを解説した。

Vicorの車載向け電源について、もっと詳しくはこちら

Vicor Corporationについて

Vicor Corporation(NASDAQ:VICR)は、先進的な48V中心のDC-DCコンバータ電源モジュールを製造する米国企業です。高い電力密度と電流密度を実現し、優れた電力供給ネットワーク性能と、お客様の電源システムにおける競争優位性を生み出します。Vicorは、革新的なトポロジ、制御システム、コンポーネント、パッケージ技術を組み合わせ、データセンター、オートメーション、ロボティクス、モビリティ、試験装置、航空宇宙・防衛分野の進化を支える、モジュールで構成するソリューションを提供しています。また、Vicorは、垂直統合型のChiP™工場とOEMへのIPライセンス提供を通じて、サプライチェーンの安定性を高めています。

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Vicor、BCM®は、Vicor Corporationの登録商標です。
SAC™、DCM™、NBM™は、Vicor Corporationの商標です。

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